ミャンマー伝統歌謡の名花 ソーサーダトン [東南アジア]
ミャンマーの伝統歌謡で、ぼくが一番ごひいきにしている歌手がソーサーダトン。
90年代にはニニ・ウィンシュウェという魅力的な歌手もいたんですけれど、
のちにポップスへ路線転換してアメリカへ渡ってしまったので、
ミャンマーで活躍している伝統派の歌手では、ソーサーダトンが最高だと思います。
手元にあるソーサダトンのアルバムを数えてみたら、10枚以上もあってアキれてしまいましたが、
なかでも最高傑作と思っているのが、この“KYI NUU PHWEL”。
伝統音楽のサイン・ワインの編成にピアノを加えた伴奏で、
古典歌謡のタチンジーを歌ったアルバムです。
以前、『世界は音楽でできている』(音楽出版社)の「マイ・プレイリスト」にも選んだことがあるので、
『ヨーロッパ・アジア・太平洋・ロシア&NIS編』をお持ちの方は、99ページをご覧下さいね。
ソーサーダトンは、伝統楽器による伴奏と、バンド演奏による西洋スタイルの伴奏が
交互に展開するミャンマー・タンズィンを歌うことが多いんですが、
なかにはこうした伝統歌謡一色のアルバムも出しています。
仏教歌謡と思われる“BUDDHA MITTA PAN”でも、CD表紙裏の写真にみられるように、
サイン・ワインを中心とした伝統サウンドをバックに伸びのある歌声を聞かせてくれます。
さらにこのアルバムでは、オープニングと中盤の2曲で、
シンセをバックに伝統メロディーを歌っていて、
ハリス・アレクシーウの『祈りを込めて』を思わせる
モダンな感覚のサウンドが聴きものとなっています。
本作のVCDの映像から察するに、内容は高僧を讃える曲など仏教一色の世界で、
世界に類のないユニークな宗教歌謡といえそうですね。
ほかにも、婚礼用の音楽を集めた “ZAWTIKA THUHTAY A HUH GYI PAY MAL”では、
ミャンマー・タンズィンのような折衷サウンドではなく、
西洋楽器をいっさい使わないミャンマーの伝統サウンドが楽しめます。
パッ・ワインという調律された環状の吊り太鼓のセットを中心に、チー・ワイン(環状ゴング)、
マウン・サイン(木枠に並べたゴング)、チャウ・ロン・パッ(6個一組の太鼓)、
フネー(チャルメラ)が入り乱れてフリー・リズムで打ち鳴らされるサウンドは、
さながら色とりどりのボールが、いっせいに跳びはねるのを見るかのよう。
曲の始めと終わりに拍が伸び縮みするミャンマー独特のリズムによって、
歌と伴奏の間のズレが生まれ、不思議な効果を醸し出します。
まばゆいほどの音の華やかさはインドネシアのガムラン以上で、これぞ音の桃源郷。
曲が始まる前に、夫婦漫談みたいな口上がひとしきり述べられるところも、
いかにも大衆芸能ぽい親しみやすさに溢れ、楽しいですね。
ミャンマーの伝統色豊かなサウンドの中で、華やぎのあるソーサーダトンの声がひときわ映えます。
[CD] Soe Sandar Htun "KYI NUU PHWEL (NAN NAT KHIN TAY)" Man Thiri, no number
[VCD] Soe Sandar Htun "KYI NUU PHWEL (NAN NAT KHIN TAY)" Man Thiri, no number
[CD(左)・CD表紙裏(右)] Soe Sandar Htun "BUDDHA MITTA PAN" Man Thiri, no number
[VCD] Soe Sandar Htun "BUDDHA MITTA PAN" Man Thiri, no number
[CD] Mandalay Thein Zaw and Soe Sandar Tun "ZAWTIKA THUHTAY A HUH GYI PAY MAL" Azara no number
2010-03-27 00:19
コメント(2)
むぅぅ。さすがに勉強になります。唸らされました。
やはり感覚だけで書いた僕の記事では舌足らずもええとこでしたね(笑)。
“BUDDHA MITTA PAN”以外の作品も聴いてみようと思います。
by 繁盛亭アルバイテン (2010-03-27 01:16)
ミャンマー経済の悪化はかなり深刻のようで、最近ミャンマーへ行った方の話を聞くと、CD-Rのディスクにカラー・コピーのジャケットのものしか市場にないそうです。在日ミャンマー人のお店にちっとも新作が入ってこないのもむべなるかなで、ソーサーダトンばかりでなく、ミャンマーの新作がずっと聞けないのが残念です。
by bunboni (2010-03-27 11:01)