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ショロンの心意気 アミルトン・ジ・オランダ [ブラジル]

BRASILIANOS.jpg    HAMILTON DE HOLANDA.jpg

先週の土曜日、四谷の老舗ジャズ喫茶いーぐるで、
『ショーロの午後~ ブラジルのインストルメンタル音楽140年の歴史を辿って』と題する
レコード・コンサートをやらせていただきました。
なかでも評判を呼んだのが、バンドリン奏者アミルトン・ジ・オランダのプレイ。
あらためてアミルトンの抜きん出た才能を実感させられました。

アミルトンはショーロという枠をとうに飛び越え、ブラジルの現代的な
インストルメンタル・ミュージックと呼ぶにふさわしいプレイをしています。
特に、アミルトン・ジ・オランダ・キンテートでのプレイは、
コンテンポラリー・ジャズそのものですね。
キンテートの2枚では、ビシビシと早弾きをキメまくるアミルトンですが、
そのプレイが曲芸ぽく聞こえないところに、
この人のショロンたる立脚点の確かさを感じさせます。

早弾きが得意のバンドリン奏者って、昔もいたんですよ。
名手ルペルシ・ミランダの早弾きなんて、それこそ曲芸そのものでした。
ショーロというのは、あくまでも娯楽の音楽なんだから、リラックスして演奏するもの。
青筋立てて演奏するなんて、
カリオカの粋であるショーロにとっては、野暮そのものなわけです。
ショーロの良さは、プレイの緊張感なんてものを追求しないところにあるんであって、
そっちの方面に行きたけりゃ、そりゃジャズだと。
だからルペルシ・ミランダの早弾きは、キワモノの極北みたいな異端であり、
「サーカスじゃないんだからさあ…」みたいな失笑気味の評価もままあった人でした。

しかしアミルトンの早弾きには、そういう異端の印象がありません。
ショーロの枠を飛び越えていることは確かなのに、
「ありゃ、ショーロじゃないよ」とのそしりを受けないのは、
やはりアミルトンの卓越した音楽性というほかありません。

アミルトンは早弾きが得意といっても、
ソロでのべつくまなく早弾きをしているわけではなく、
メロディ部分とは別に、効果的な要所のみ早弾きを的確に挟み込んでいくという、
ソロ・ワークの構成力のうまさが第一に挙げられます。
そしてそのソロ・ワークがけっして原メロディから遊離せず、
不協和音を入れることはあっても、
延々とアウト・スケールのソロを弾くようなことはありません。

01 BYTE 10 CORDAS.jpg    INTIMO.jpg

そんなアミルトンの卓越した音楽性をいかんなく発揮したアルバムに、
アミルトンのバンドリンのみによる完全ソロ・アルバム2作があります。
なかでも、ツアー先のホテルや自宅で録音したという“ÍNTIMO” は、
肩の力の抜けたリラックスしたぶりが心地よく、
慈しむようにメロディを紡いでいくくつろいだバンドリン演奏は、
緊張度の高いキンテートでのアミルトンとは別人のよう。
そのプレイには、ジョー・パスやウクレレのオータサンにも通じる、
真のヴァーチュオーゾだけが到達した境地のようなものを感じさせます。

Marco Pereira & Hamilton De Holanda.jpg    Hamilton De Holanda & Fernando Cesar  DOIS DE OURO.JPG

アミルトンの名前を初めて意識したのは、
ぼくのフェバリット・ギタリスト、マルコ・ペレイラとのデュオ作がきっかけでした。
超絶技巧の二人が、くんずほぐれつバトルを繰り返すこのアルバムで、
アミルトンのエネルギッシュなプレイは、脳裏にくっきりと刻み込まれました。

Grupo Dois De Ouro.jpg    Dois De Ouro.jpg

そして、このキレのあるバンドリンにどっか聞き覚えがと思ったら、
ずっと愛聴していたグループ、
ドイス・ジ・オウロのメンバーだったことに気付いたのでした。
要するにアミルトンは、デビュー当初から抜きん出た才能を表していたってわけですね。

Hamilton De Holanda Quinteto "BRASILIANOS" Biscoito Fino BF630 (2006)
Hamilton De Holanda Quinteto "BRASILIANOS 2" Microservice DO001 (2008)
Hamilton De Holanda "01 BYTE 10 CORDAS" Biscoito Fino BF620 (2005)
Hamilton De Holanda "ÍNTIMO" Deckdisc 22081-2 (2007)
Marco Pereira & Hamilton De Holanda "LUZ DAS CORDAS" no label, no number (2000)
Hamilton De Holanda & Fernando César "DOIS DE OURO" Pau Brasil PB0027 (2000)
Grupo Dois De Ouro "DESTROÇANDO A MACAXEIRA" FAAC PN003 (1997)
Dois De Ouro "A NOVA CARA DO VELHO CHORO" Laser LCD50.161 (1998)
コメント(3) 

コメント 3

ペイ爺

フーッ、どーなるかと思ったよ~。
この記事がUPされた4月22日に即、ネットで“ÍNTIMO”を購入しました。で、米国より、やっと手元に着いたのが昨晩。 例の火山の影響だそうです…。
“ÍNTIMO”に惹かれたのは、第一に、まるでイタリアの家具メーカーCassinaのカタログのようなSurrealisticなジャケットでした。このセンスは出色だと思います。

いーぐるで拝聴したサウンドが、非常に素晴らしいながらも、あまりにも緊張度の高い演奏だったので「肩の力の抜けたリラックスした演奏ぶりが心地よく、慈しむようにメロディを紡いでいくくつろいだバンドリン」というご推薦にも強く魅かれました。

聴いてみると、いーぐるで拝聴したGroup Expressionの中での他のメムバーとの緊張感溢れるプレイとは確かに異なりますけれど、(最後の曲、Noel Rosa & Vadicoの“Feiti§o da Vila”のようなCharmingな曲でさへ)かなりテンションの高い演奏であることには変わりはないのでは?と感じました。どの曲も(原曲がも元来そうなのかもしれませんが)、あたかも非常に複雑に編み込まれた精巧な織物(Venezianlaceのような) を見ているような印象と感銘を持ちました。昨年亡くなったインドのAli Akbar Khanの60年代のレコードを最近愛聴しているのですけれど、そういう意味で似ている、とも思いました。

Charlie Christianが、Ayinla Omowuraが(Garoto もそうなのかもしれませんが)、その音楽ジャンルを進化させた特別な存在であるような立ち位置に、この人も今いるのではないでしょうか?

コーヒーの入った部分の真ん中がCDを固定する穴となっている(笑)白いカップとソーサーを真上から見たRael とGriloのデザイン、本当に秀逸です(笑)(最初はコレ何だろう?って感じだったんですけれど…(笑))

by ペイ爺 (2010-05-12 10:58) 

bunboni

いーぐるでかけたのは、"BRASILIANOS 2" の中の1曲でしたが、
なんとこのアルバムに、DVDが付いたアメリカ盤が日本に入荷しました。
DVDにはフランスでのライヴを収めた13曲が収められているそうで、
う~ん、観たい!と思いつつ、手は伸びなかったんですけど。
このキンテートで来日してくれないものかと願っています。
ところで、アインラ・オモウラの例の3枚、入荷したそうですよ。
by bunboni (2010-05-12 13:26) 

ペイ爺

“Continua Amizade” に続く、 Andre Memari との共作、
“ Gismontipascoal - A Musica De Egberto E Hermeto”、スッゴク楽しみです。

“Esperanca Ao Vivo Na Europa” もそうなんですが、ジャケット・デザインも素晴らしいと思います。
by ペイ爺 (2011-01-31 11:32) 

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