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雑食性豊かなジュジュの楽しさ ファタイ・ローリング・ダラー [西アフリカ]

Tunde & Fatai.jpg

ジュジュの歴史をひととおりおさらいした後に、
ファタイ・ローリング・ダラーを知ったのはラッキーでした。
トゥンデ・ナイチンゲール、I・K・ダイロ、
エベネザー・オベイ、サニー・アデといった、
ジュジュの正史を飾るミュージシャンたちに夢中だった頃に聴いたら、
ジュジュの本流とは少し違ったポジションにいたファタイの面白さが、
わからなかったからもしれないからです。

ファタイはジュジュではなく、
アギディボからキャリアをスタートさせたミュージシャンです。
アギディボというのは、キューバのマリンブラやジャマイカのルンバ・ボックスに良く似た
大型の親指ピアノで、4つから6つくらいの弁が付いた低音用のリズム楽器の名前ですけど、
40年代にレゴスで流行したダンス・ミュージックの名前でもあるんですね。
アギディボは貧しい庶民の間で演奏されていたアシコやコンコーマから発展した音楽で、
雑食性の強い性格を持っていましたが、やがてジュジュと合流して、
ヨルバの伝統を色濃くした音楽へと性格を変えていきます。
ファタイと同い年で、ジュジュ色の強いハイライフのミュージシャン、
アデオル・アキンサニャも、もとはアギディボのミュージシャンでした。

50~60年代に活躍したファタイ・ローリング・ダラーは、アギディボやパームワイン、
そしてジュジュ・ハイライフなど、ジュジュ周縁の音楽も盛んに演奏していました。
ファタイは当時のギタリストのなかでもトップ・クラスの腕前を誇り、
往年の録音はトゥンデ・ナイチンゲールとのカップリングCDで聴くことができます。
CDで聴けるファタイのゆいいつの録音ですね。
カムバック後にも再演された“Sisi Jaiye Jiaye” “Won Kere Si Number Wa”
“She Go Run Away” のオリジナル録音もこのCDに収録されています。
エベネザー・オベイがファタイのバンドでキャリアをスタートさせたのも有名な話で、
オベイはアデオル・アキンサニャに憧れて音楽を志し、
ファタイのバンドで修行を積んだのだから、面白い縁ですね。

Returns.jpgWon Kere.JPGWon KereVCD.jpg

ファタイは68年に音楽ビジネスから離れ、隠居生活を送っていましたが、
03年に四半世紀ぶりの現役復帰を果たし、
ジャズホールから2枚のアルバムをリリースしました。
オベイやアデが競い合ったジュジュの黄金時代もとうに過ぎ去り、
ノスタルジックな響きのファタイのジュジュが新鮮に響く、
いい時代にカムバックしたといえます。
“WON KERE SI NUMBER” のVCDもあてぶりとはいえ、楽しめます。

Papa Rise Again.JPG   Papa Rides Again_Nigeria Press.JPG

そして07年には、50~60年代録音と新録を織り交ぜた
“PAPA RISE AGAIN” をリリースしました。
ざっくりとした手触りのアクースティック・サウンドに
ファタイのサビの効いたヴォーカルが映える、
ヨルバ・ポピュラー音楽史の生き証人らしいレパートリーの豊かさが、
極上のアルバムとなっています。

ぼくはカンゲキして『ミュージック・マガジン』にも紹介したんですけど、
イギリス・エコスター盤は流通事情が悪くて日本に入ってこず、
その代わりにナイジェリア盤が入ってきました。
このアルバムの素晴らしいところは、ファタイの幅広い音楽性を回顧した点にあります。
パームワインやアギディボといった古いスタイルの音楽から、
ミュート・トランペットの響きものどかな
ジュジュ・ハイライフやアフロビートまでやっています。
ファタイはフェラとも親交があり、引退直前にはアフロビートまで演奏し、
引退後にはフェラのカラクタ共和国の隣近所で暮らしていたんだそうですね。
このアルバムには当時録音したアフロビートと、
新録のアフロビートが収録されています。

79 Years Celebration.jpg   83 Years Celebration.jpg

ファタイはカムバック後も精力的に活動を続けていて、
06年にはヨーロッパ・ツアーもしており、
ドキュメントDVDや伝記本の出版なども予定されていましたが、これはまだのようですね。
79歳や82歳の誕生パーティ(タイトルの「83歳」はおそらく間違いでしょう)の
VCDでもかくしゃくとしていて、ギターをがんがん弾いていました。

Fatai Rolling Dollar.jpg

ジャズホールからアルバムがリリースされたので、すわ新作かと色めきたったのですが、
残念ながら03年の“RETURNS” から2曲“Omolere Aiye (Dance Mix)”
“Easy Motion Tourist (Jazzy Mix)” を削り、04年の“WON KERE SI NUMBER” の2曲
“Eko Akete” “I'm Not A Banker” に、未発表曲の“Omo Oloye”を加えたもの。
そろそろ新作も期待したいところです。

Tunde Nightingale, Fatayi Rolling Dollar "TUNDE & FATAYI" Jofabro/Thomas Organization FMTOPCD012
Fatai Rolling Dollar "RETURNS" Jazzhole JAH006D (2003)
Fatai Rolling Dollar "WON KERE SI NUMBER" Jazzhole JAH009D (2004)
[VCD] Fatai Rolling Dollar "WON KERE SI NUMBER" High Kay Dancent Limited no number
Fatai Rolling Dollar "PAPA RISE AGAIN" Ekostar EKOCD010 (2007)
Fatai Rolling Dollar "PAPA RISE AGAIN" High Kay Dancent Limited no number (2007)
[VCD] Fatai Rolling Dollar "79 YEARS CELEBRATION" Prince Sunny no number (2007)
[VCD] Fatai Rolling Dollar "ROLLING DOLLAR @83" Albasit Music no number (2010)
Fatai Rolling Dollar "RETURNS" Jazzhole JAH012CD (2010)
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