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晩秋の薫り イヴァン・リンス [ブラジル]

Novo Tempo.jpg

銀杏の落ち葉で街路が黄色い絨毯となる季節。
落ち葉を踏みしめる「さく、さく」という音が、晩秋から初冬へと向かう序奏を導きます。
そんな季節になると必ず手が伸びるのが、イヴァン・リンスの“NOVO TEMPO”。
このアルバムに出会ったのが大学4年の秋なら、
人生の折々の季節で、このアルバムにさまざまな思い出が加わったのも、いつも秋でした。

初めてこのアルバムを聴いた時は、これがブラジルの音楽なのかと驚いたものです。
まるでフランス映画を観ているみたい、そんな言葉が思わず口に出るほど、
イヴァンが紡ぐヨーロッパ的なメロディーと、
ジルソン・ペランゼッタが施す映像的なサウンドに魅了されました。

ブラジル音楽を聴いて「フランス映画みたいな」と思ったのは、このアルバムが初めてではなく、
アントニオ・カルロス&ジョカフィの73年作“ANTONIO CARLOS E JOCAFI” (乞CD化)の
B面5曲目“Um Abraço No Lucien Extensivo Ao Edu” が最初でした。
その洗練されたメロディーや曲想は、過去聴いたどんなブラジル音楽にもなかったもので、
そのヨーロッパ的なセンスがどこから来ているのか、不思議でなりませんでした。

アントニオ・カルロス&ジョカフィ以来ともいえる、
イヴァン・リンスのメロディー・センスが発揮された本作では、
4曲目の“Barco Fantasma” が白眉。
せつなさ、哀しみ、愛おしさといった感情がないまぜとなったメランコリックなメロディーは、
まさしくイヴァン・リンスの真骨頂でしょう。
イントロがまた鮮烈で、バンドリンがどこか異国風のエキゾティックなメロディーを奏でるんですね。
バンドリンといえばショーロといった常識を覆すバンドリンの使い方に驚くとともに、
従来のブラジルのメロディーにはないフレージングにも魅了されたのでした。
そして5曲目の“Setembro - Caminho De Ituverava” では、
幾重にも重ねられた甘美なコーラスと、ソプラノ・サックスが奏でるメロディーが実に映像的で、
秋の陽の光が紅葉の間から射し込み、赤や黄や橙がプリズムのように乱反射するさまや、
まぶしく見上げた青空にうろこ雲が高く広がる風景が、ぼくの瞼には写るのです。

このアルバムでイヴァンは、けっこう社会派な内容を歌っているんですけど、
センチメンタルなメロディーがまぶされた曲の数々に、
せつない恋の記憶をだぶらせたとて、誰が責められましょう。
ぼくにとって本作がイヴァン・リンスのベストであることは揺るぎなく、
次いで74年の“MODO LIVRE”、そして87年の“MÁOS” が個人的ベスト3です。
え? 世間ではイヴァンの最高作といわれる
77年の“SOMOS TODOS IGUAIS NESTA NOITE” が入ってないって?
個人的にそれはベスト4ですね。ついでにベスト5が81年の“DAQUILO QUE EU SEI” です。

Modo Livre.jpgMaos.jpgSomos Todos Iguais.jpgDaquilo Que Eu Sei.jpg

Ivan Lins "NOVO TEMPO" EMI 857900-2 (1980)
Ivan Lins "MODO LIVRE" RCA 74321864142 (1974)
Ivan Lins "MÁOS" Philips 832262-2 (1987)
Ivan Lins "SOMOS TODOS IGUAIS NESTA NOITE" EMI 857898-2 (1977)
Ivan Lins "DAQUILO QUE EU SEI" Philips 04400164212 (1981)
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