南ア音楽の伝統が宿るシャンガーン フォスター・マンガニ [南部アフリカ]
今年話題を呼んだ南アの辺境ポップ、シャンガーン・エレクトロの続編アルバムが登場しました。
今度は単独アーティストのアルバムで、エレクトロ・ゴスペルとでもいうべき音楽。
南ア北部リンポポ州ギヤニ出身の牧師フォスター・マンガニが、
08年に出したカセットをCD化したもので、このカセットは南アで大ヒットを記録したんだそうです。
例のコンピでは痙攣するような速いビートが特徴でしたけど、
こちらはそれほどセカセカしておらず、ゆったりとしたテンポで歌われています。
とはいえ、マリンバやホイッスルを模したチープなサンプル音と、
打ち込みのビートがしつこく反復を繰り返すのは同じで、
主役であるフォスター牧師のやる気のなさそうな脱力ヴォーカルと女性コーラスが、
ひたすらコール・アンド・レスポンスを重ねます。
それにしても、この男性リード・ヴォーカルの脱力ぶりはケッサクです。
ゴスペルといえば、パワフルなヴォーカルがお決まりのようなものなのに、
諦観さえ漂ってくるようなこのダルな歌いっぷりで、果たして説教になるんでしょうか。
女性コーラスにはっきりと南アの伝統的な合唱の特徴が聴き取れるように、
シャンガーンのメロディーやハーモニーの構造は、伝統的な南ア音楽そのままといえます。
いかにプロダクションがチープであろうと、南ア音楽の伝統を分断してしまったクワイトに比べたら、
シャンガーンにこそ南ア音楽の未来があると言いたくなります。
「伝統」というものが、ひからびた権威にならず、錦の旗のようにエラそうに振り回されることもなく、
大衆の中でこれほどいきいきと、またチープに発揮されていることに、眩暈をおぼえるというもの。
これでこそ美しい伝統、大衆音楽における伝統継承のあるべき姿なんじゃないですかね。
むちゃくちゃ面白いCDなんですけど、発売元のオネスト・ジョンズには文句もひとつ。
このレーベルはいつも簡単な解説だけでお茶を濁してて、
クレジットなどの基礎資料が欠けているところが、とっても不満なんですけど、
本作には一文の解説すら載っていないという怠慢ぶり。
そもそもCD化にあたって、きちんとアーティストと契約を交わしたのかと疑りたくなります。
無断リリースでないのなら、最低限の紹介くらいできるはず。
それすらないというのは、アーティストに対する敬意が欠けていると言わざるを得ません。
Foster Manganyi "NDZI TEKE RIENDZO” Honest Jons HJRCD108 (2010)
2010-12-14 06:43
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