キプロスのオリーヴ [西アジア]
キプロスの国旗が好きでした。
幼稚園生の時、カラーブックスの『世界の国旗』が愛読書で、
世界の国旗と国名や首都を、かたっぱしから暗記したものです。
幼稚園のお絵かきでは、国旗ばっかり書いてましたもんねえ。
母親に連れて行ってもらった東京オリンピックの閉会式で、
選手団の国旗が登場するたびに、その国の名前を言い当て、
周りにいたオトナたちを感心させては、得意がってたもんです。
そんな頃からお気に入りだったのが、キプロスの国旗でした。
白地の中央に、キプロス島が黄色で染め抜かれ、
その下に、緑色のオリーヴの枝が2本交叉しています。
この2本のオリーブはギリシャとトルコを表し、両民族の平和を願ったものだといいます。
ところがキプロスは、ギリシャ系とトルコ系が絶えまなく紛争を繰り返した結果、
いまや南北で分断国家となってしまい、
日常生活でこの国旗を目にすることはほとんどなくなってしまったと聞きます。
この国旗が黄と緑だけを使っているのも、
ギリシャの青とトルコの赤を意図的に排除したからなのだそうですが、
キプロスでギリシャ系とトルコ系が融和するのは、もう絶望的なのでしょうか。
そんな状況に一縷の希望を見出したくなるのが、
トルコ系キプロス人ミュージシャン、メフメット・アリ・サンリコルと、
ギリシャ系キプロス人ヴァイオリン奏者のテオドゥロス・ヴァカナスが共演した本作です。
ボストンを拠点に活動する二人が出会い、キプロスの伝統音楽集が生み出されました。
ギリシャ系とトルコ系が共演した、唯一無二のアルバムだといいます。
レパートリーは二人の家庭で伝承されてきた曲から選ばれ、
トルコ語とギリシャ語ほぼ半々で歌われています。
多くの曲で、同じメロディーを持つトルコ語の曲とギリシャ語の曲を繋げて演奏されています。
ウード、サズ、ヴァイオリン、ケマンチェ、リラなどのトルコとギリシャの弦楽器と、
ダルブッカやフレーム・ドラムの太鼓に、ネイなどが伴奏をつけています。
エーゲ海で伝承されてきた島唄らしい、ゆったりとしたこぶしを利かせた渋い歌声には、
伸びやかな明るさに溢れていて、目をつむるとエーゲ海のコバルト・ブルーが浮かびます。
後半のダンス・チューンも、キレのあるリズムでグルーヴィーな演奏を繰り広げていて、
思わずくるくると踊り出したくなります。
こうした試みがキプロス本国にもフィードバックされて、
対話と和解の道が広がってくれることを祈るばかりです。
Mehmet Ali Sanlikol, Theodoulos Vakanas "KIBRIS’IN SESI : MUSIC OF CYPRUS" Kalan 424 (2007)
2011-03-18 00:00
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