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ショーロという音楽の理想郷 [ブラジル]

Nas Rodas Do Choro.JPGこのドキュメンタリー・フィルムを観て、
なぜこれほどショーロに惹かれ続けてきたのか、
ようやくはっきりとわかった気がしました。
30年以上聴いてきて、いまさらなんですけども。

それは、こだわりのない自由さが、
ショーロにはあるからなんですね。
あと、演奏者が競い合わないところも。

老若男女が一緒になって演奏を楽しむという、
風通しのよさに、とても憧れるんです。
日本にはこういう音楽の場って、なかなかありませんよね。
日本だと、師匠と弟子の徒弟制みたいな、
内向きの堅苦しい関係にすぐなりがちで、
ブラジル人のようにオープンで、自由な音楽の伝えられ方というものが、
成立しにくいと思うんですよ。そんなことないよっていう実例、なんかありますかね?

ジャズでたとえるなら、アフター・アワーズのジャム・セッションだけで
伝わってきたような音楽が、ショーロだということになるでしょうか。
ジャズは、ヘタクソなプレイヤーを追っ払うために、
音楽性を高度に磨き上げて発展していきましたが、
ショーロは、音楽的な向上心で仲間を追い出すようなことはしませんでした。
演奏者同士が競い合って、芸術性を高めるという方向にいかなかったのは、
ショーロが大衆の音楽であり続けたうえで、重要な意味があったと思います。
だからこそ、ショーロの音楽性は昔と大きく変貌することもなく、
アマチュアの娯楽として、みずみずしく生き永らえることができたんじゃないでしょうか。

ショーロの命脈を保ってきたのは、裏庭に集まった庶民の気楽なパーティーの
ローダ・ジ・ショーロという演奏の場でした。
そこで若者たちは、年長のヴェテランたちから、ショーロを学び取ってきました。
徹底した現場主義というか、裏庭のローダ・ジ・ショーロこそが学びの場だったんですね。
ショーロには、バークリー音楽院なんて必要ないってことです。
この映画では、そんな様子がプレイヤーたちの証言とともに、よく捉えられています。

伝説のショーロ・グループ、エポカ・ジ・オウロの古参メンバーが、
天才バンドリン奏者ジャコー・ド・バンドリンの死によって、グループの存続が危ぶまれたのを、
若きバンドリン奏者デオ・リアンの情熱と守り立てで継続できたと語る場面にも、
ジンときてしまいました。
自分の子供の世代にもあたる若いデオに、
大ヴェテランの古参メンバーが敬意を払っているところに感動したんです。

ブラジル人の演奏家って、年長者が権威的にふるまわないんですよ。
若者を育ててきた年長者であっても、一プレイヤーとしてはお互いに対等で、
演奏を楽しみあうことがなにより大事なんですね。
そんな親と子の世代の断絶がない音楽であることも、
ぼくがショーロになじみやすさを感じる理由のひとつです。

ショーロには、反抗のモードがないんですね。
ぼくがロックになじめない最大の理由のひとつが、
反抗や対抗といった文化的モードなので、
世代の断絶がないショーロやサンバといったブラジル音楽のありかたは、
ぼくにとって理想の音楽に映ります。
ショーロをテーマにした映画ではミカ・カウリスマキ監督の“BRASILEIRINHO” もありましたが、
これもショーロの魅力の源泉をよく伝える、優れたドキュメンタリー・フィルムです。

出演はルシアナ・ラベーロ、ジョエル・ナシメント、デオ・リアン、ニルジ・カルヴァーリョ、
マウリシオ・カリーリョ、エポカ・ジ・オウロ、トリオ・マデイラ・ブラジル、パウロ・セザール・ピニェイロ、
ゼー・ダ・ヴェーリョ、ニコラス・クラシッキほか多数。英・仏・西・伊語字幕あり。

[DVD] Dir: Milena Sá "NAS RODAS DO CHORO" Biscoit Fino BF100 (2010)
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