マレイシアのクロンチョン ジャミラー・アブ・バカル [東南アジア]
新人女性歌手による伝統クロンチョンの新作とは、珍しいですねえ。
伝統クロンチョンのアルバムじたい、めったにリリースされることがないのに、
新人の登場とは、ダブルのオドロキです。
インドネシアにはクロンチョンのカタログが豊富な、
グマ・ナダ・プルテウィというレコード会社もありますけど、
これはマレイシアのレコード会社からのリリースで、ますます「へぇ~」と感心してしまいました。
クロンチョンといえばインドネシアを代表する国民音楽なので、
マレイシアのクロンチョンというと、少し意外な感がありますけど、
かつてヘティ・クース・エンダンのポップ・クロンチョンがマレイシアでも人気を博したように、
マレイシアでのクロンチョン人気は、なかなか底堅いものがあるようです。
最近では、2008年にオルケス・クロンチョン・マリンドという楽団のCDが出た時も、
こりゃまた珍しいと思いながら聴いたものですけど、
本格的な伝統クロンチョンの演奏ぶりにすっかり感心させられました。
さて、本作ですけれども、チュック、チャック、フルート、ヴァイオリン、チェロ、ギター、
ベース、ヴィオラの8人編成によるオルケス・クロンチョン・イラマ・ペリンドゥを伴奏に、
伝統クロンチョンのスタイルで歌った、これまた本格的なアルバムに仕上がっています。
曲によって弦オーケストラを加え、クロンチョンの優美なメロディを華やかに演出するなど、
予算もかけてじっくりとレコーディングした様子がうかがえます。
またレパートリーも、ごりごりの伝統クロンチョン一辺倒というわけではなく、
ドラムスを加えたランガム・クロンチョンなどもやっています。
学術向けの堅苦しい伝統保存アルバムとは一線を画し、
あくまでも大衆向けの商業アルバムであるところが嬉しいですね。
主役の女性歌手ジャミラーは、正調でもランガムでも丁寧に歌いこなしていて、
哀愁ただよう泣きのメロディーのクロンチョンは、胸に迫るものがあります。
声量があまりないからなのかもしれませんが、ひそやかな歌い方に魅力のある人です。
ことクロンチョンに関しては、朗々と晴れがましく歌われるよりも、
こういう歌い方のほうが、クロンチョンの愛らしさが生きるように思います。
ジャミラーの繊細な息づかいで歌われる
クロンチョンの穏やかな調べを聴いていると、春が恋しくなります。
今年の春はマレイシアのクロンチョンが運んでくれそうですね。
Jamilah Abu Bakar "KERONCONG EKSKLUSIF VOL.1" Irama Studios no number (2011)
Orkes Keroncong Malindo "KERONCONG NYONYA & BABA" Life HSP01317-2 (2008)
2012-03-06 00:00
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