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あでやかさを損なう政治的な正しさ ジュリア・ブトロス [中東・マグレブ]

Julia Boutros  YAWMAN MA.JPG

フェイルーズを継ぐのはこの人しかいません。
そう、ぼくが目しているレバノンの歌姫ジュリア・ブトロスの新作が
今年の1月2日にリリースされました。
すでに湾岸諸国でナンバー・ワンのセールスをあげているというウワサも伝わってくるんですけど、
どういうわけか主立ったアラブ音楽のネット・ショップのどこも扱っていません。

なんでジュリアのアルバムって、いつもこうなんでしょう。
06年の傑作“TA'AWADNA ALEIK” がリリースされた時も、当初なかなか出回らず、
2年くらいたってようやく世界的に流通するようになったんですよね。
あの時はたしかトルコのお店で見つけたんだっけか。
ぼくが買って1年以上経ってから、ようやく日本のCDショップに並んだのを覚えています。
今度の新作は、シリアのダマスカスのお店で見つけました。

スタジオ録音では06年の“TA'AWADNA ALEIK” 以来のアルバムとなる新作、
いやあ、ますますあでやかになりましたねえ。
ジュリアのエレガントな気品は、疑いなく現在のアラブ歌謡のトップ・クラスでしょう。

今作も“TA'AWADNA ALEIK” 同様、ジュリアの兄のジアド・ブトロスの作曲に、
ジャズ・ピアニストのミシェル・ファデルのアレンジで制作されています。
さらに今作の呼び物は、プラハ市交響楽団が伴奏を務めていること。
プラハ市交響楽団といえば、「ゴッド・ファーザー」から「ハリー・ポッター」まで
数々の映画音楽を担当した、重厚にして華麗な演奏で知られる名オーケストラ。
ひさびさの新作への力のいれようが伝わってくるというものです。

アルバム1曲目のカーヌーンのイントロから、シンフォニック・オーケストラの伴奏が導かれ、
ジュリアの艶を増したあだっぽい歌唱が鮮やかで、ぞくぞくしてしまいます。
メランコリックな曲から、男性コーラスを従えた勇壮なマーチぽい曲まで、8曲があっという間。
最後の2曲はインスト・ナンバーで、37分弱という短さがいかにも残念です。

終盤のミュージカル調の2曲は、愛国主義的な臭いがしますね。
パレスチナ人迫害を見て見ぬふりをするアラブ諸国指導者たちを非難して、
イスラエルに対するアラブ民族の抵抗を呼びかけた歌
「アラブ人はどこにいるのか」で大きな話題を呼んだジュリアのこと、
おそらくこの2曲も政治的な歌と想像されます。

ぼくは、ジュリアにこういう歌を歌わせるアラブ情勢を恨めしく思います。
硬直的な歌いぶりのこの2曲には、彼女のあでやかな魅力は消し飛んでいて、
ただご立派な歌いぶりになってしまっています。
どうも最近の「政治的に正しく怒っている歌」って、
こういう硬直的な感じのものが多くって、共感できないんですよね。
世評の高いライ・クーダーの新作も、その典型。
いくらその政治的主張は理解できたとしても、怒ってるライの歌なんか、聴きたかないですよ。
ジュリアにも、持てる魅力がより輝く楽曲を選んで歌ってもらいたいと思うんですけど、
こういうご立派な歌を持ち上げる向きが、世の中は多いからなあ(タメ息)。

Julia Boutros "YAWMAN MA" Music Tech no number (2012)
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