繊細なる哀しみ エィレム・アクタシュ [西アジア]
とある方と女性歌手の好みについてあれこれ話し合っていたら、
「マジメなタイプの歌手が好きなんですね」と言われてしまい、面食らってしまいました。
控えめなタイプが好きなのは確かだけど、だからって「マジメ」かどうかは別な話。
不良を気取ったロックや、チンピラなヒップ・ホップがキライで、
伝統音楽をこつこつと鍛錬してきたような人が好きだから、そんなふうに思われるのかなあ。
マジメかどうかという価値観で、ミュージシャンの好みを考えたことなどこれまでなかったので、
その指摘はすごく意外というか、新鮮ではありました。
ただひっかかるのは、その人が言う「マジメ」には否定的なニュアンスがあって、
「インパクトに欠ける」とか「味わいに乏しい」を言い換えているような印象もあったんですけどね。
「マジメ」を揶揄ではなく、肯定的に使いたいぼくからすれば、
「余計な自意識をひけらかさない」美点こそ「マジメ」と呼びたいところですけど、
自意識の塊みたいなおゲイジツ志向のミュージシャンを誉めそやす人や、
芸能的な性格の強いノヴェルティなシンガーを見下す人には通じない話かも。
で、そんな指摘がもろに的中なのが、トルコのシンガー、エィレム・アクタシュでしょうか。
ジャケット・カヴァーの清楚な顔立ちが好みなんて言えば、
ほら、やっぱ学級委員長タイプの、マジメぽい人が好きなんじゃないと言われてしまいそう。
品の良いお嬢さん然としたライナーの写真に目を細めてしまうワタシは、
やっぱりマジメな優等生が好みなんでしょうか。
それはともかく、エィレム・アクタシュのこのアルバム、楽曲の美しさがただごとじゃありません。
これだけ繊細な哀しみにあふれたメロディ揃いというのも、近年稀じゃないですかね。
すくった水があえなく零れ落ちていくのを、スローモーションで見るようなはかない美しさ。
そんな美しさをさりげなく表現するエィレムの、あっさりとした歌いぶりに感じ入ります。
感情を込めすぎない丁寧な歌唱が、かえって楽曲の持つ哀しみを引き立てているんですね。
アレンジャーを6人も配し、サズ、ピアノ、カーヌーン、クラリネットなどの生音をいかした
端正な伴奏も申し分なく、美しくも哀しいトルコ歌謡必殺の1枚といえます。
Eylem Aktaş "DIZI MÜZIKLERI" ADA Müzik no number (2011)
2012-05-11 00:00
コメント(6)
マジメ=優等背的で面白みに欠けるということなんでしょう。
正当的なものより目に見えるような個性、はみだしものや異端を尊ぶロック的な価値観に影響された弊害でしょうか。
僕にしてもそんな価値観から脱して個性をひけらかさない音楽のよさをようやく楽しめるようになったばかりなんですけど。
エィレム・アクタシュ、これがデビュー作ですか。じっくり耳を傾けてみたいですね。
by Astral (2012-05-11 22:10)
伝統の深みを知れば知るほど、
どんな天才の創造物もジャマくさく思えてくるんですね。
名も無き市井の人々が歴史の風雨を潜り抜けてきた積み重ねの前には、
一人の天才が生み出した個性など、やはり軽く思えてしまうんですね。
まあ、マチスと柳宗悦の民藝を比べて、どっちが好きかってことかもしれませんけど。
by bunboni (2012-05-11 22:38)
どうしても好きな女性歌手の話になると自分の恋人選びの様に好きなタイプが出てしまうようです。僕のレコードの世界での恋人はクララ・ヌネスでこれは20年来変わりません。
by なる (2012-05-12 07:01)
結局いつも同じタイプを男は好きになる、なっちって。
なるさんの恋人はクララ・ヌネスですか。
女闘志のイメージのあったクララでしたけど、82年来日のステージで生のお姿を見たら、めちゃめちゃチャーミングで「キュート」という形容がぴったりでしたね。レコードで歌声を聴くのとあまりにもイメージが違って驚いたのをよく覚えています。
by bunboni (2012-05-12 14:40)
あぁ、クララ・ヌネスの日本公演をご覧になられたのですね。クララといえば例のヒット曲のイメージで女戦士のイメージで語られがちですが(それにあのステージ衣装!)、僕の中ではまさに「キュート」のイメージなのです。ブラジルのサルバドールでレコードを漁っていた時に突然流れたクララの曲に合わせてその場に居合わせた客たちの大合唱が始まった事、オーストラリアのシドニーのカフェで"filhos de ghandi"が流れ全身が宙に浮くような感動を味わった事、そしてミュージック・マガジンで読んだ衝撃的な訃報記事・・・彼女のレコードは全部好きですが"menino deus"が1曲目に入っているアルバムは僕が世界で1番好きなレコードなのです。それにしても来日公演をご覧になられたなんて・・・うらやましすぎです!!
by なる (2012-05-12 22:12)
“Menino Deus” が入っているアルバムというと、70年の“CLARA NUNES”。名作ですね♪
クララ・ヌネスの女戦士のイメージがツクリモノであることは、渋谷公会堂で観てようやく気付きました。あとになって66年のデビュー作を聴いた時は、アイドル歌謡歌手然としているのがちっとも不思議でなく、むしろこの方が素のままの彼女らしいと思えたものです。
by bunboni (2012-05-12 22:38)