ついにCD化された最高傑作 エベネザー・オベイ [西アフリカ]
ナイジェリアのジュジュで最初に夢中になったのは、エベネザー・オベイでした。
77年頃だったか、ごく少量輸入されたイギリス・デッカ盤で聴いたのがきっかけ。
サニー・アデのブームよりもずっと前のことで、古手のアフリカ音楽ファン(50歳以上?)なら、
オベイでジュジュに入門したっていう人、ぼくのほかにもいるはずです。
なんせ78年には、日本でもオベイのアルバムが出ていたくらいですからねえ。
そのアルバム『ジュジュ・マジック』は、オベイの70年代の最高傑作であるばかりでなく、
ナイジェリア、ジュジュを代表するアルバムでもあり、よくぞ出したと思ったものです。
このアルバムには、思い出があるんですよねえ。
90年に一ヶ月ほど、ナイジェリアへ仕事で出張していた時のことです。
雇ったドライヴァーがヨルバ人で、ぼくがジュジュやフジを好きとわかると、
自分のカセット・テープをあれこれ持ってきては、ブラインド・フォールド・テストよろしく、
「これ、誰かわかる?」というクイズを運転中に興じていたんですが、
ある日、このオベイのアルバムのカセットがかかったんでした。
もちろん出だし1秒でオベイとすぐわかったけれど、あえて答えず、
ギターのイントロのあとオベイの歌に合わせ、
♪エダ・ト・モンシュン・ククン~♪と一緒に歌ってみせたのでした。
その時のイシャカ(ドライヴァーの名です)のオドロキようといったら、なかったですね。
目をまん丸くしてぼくを見たかと思えば、
大声をあげて笑い出し、ハンドルをばんばん叩いて大興奮。
「いや、なにもそこまでウケんでも」と思いつつ、
爆笑するイシャカを横目にそのままワン・コーラスを歌いきり、ぼくも大笑いしてしまいました。
以後イシャカがナイジェリア滞在中、ぼくの良き相棒となってくれたことは、いうまでもありません。
レゴス、アベオクタ、イバダン、オヨ、イフェ、オショボなど仕事で行った先々の
王宮やヨルバの神殿、ミュージアムを案内してくれ、
もちろんレコード屋にもたくさん連れてってくれました。
その後10年以上が経過して、オベイのCDリイシューは実現したものの、
50タイトルにも及ぶその「エヴァーグリーン・ソングス」シリーズは、史上最悪といえる復刻でした。
各タイトルとも、レコードの片面3面分をランダムに並べるという言語道断な編集をしていて、
思い出深き77年作も、第11集と第12集に泣き別れ状態。
なんでこういう編集をするかなあと、怒り心頭に発したものでした。
そんなわけで、オベイを聴くならLPでという悲しい時代が長く続いたのですが、
先頃オベイ・レコードのディストリビューターが、サニー・アデと同じアデモラ・レコードに変わり、
オリジナル・フォーマットのままのCDリイシューがスタート。
ついにあの77年作も、ジャケット写真もそのままに再CD化されたばかりでなく、
80年代の傑作“IMMORTALITY” もCD化が実現したのです!
もうオリジナルのままのCD化が実現することはないと諦めていただけに、嬉しかったですねえ。
しかも、70・80年代それぞれの最高作が揃ってCD化されるとは、感無量というほかありません。
温かなオベイの歌い口に、のほほんとしたコーラスとの掛け合い、
高中低音の各種打楽器が織り成すスウィング感は充実の一語で、
ギター・リフやブレイクを効果的に使った曲構成の上手さも、
ミリキ・システムと呼ばれたオベイのジュジュならではの魅力。う~ん、ゴージャス!
オベイはアデと違って、けっこうアルバムの出来不出来の差があるので、
オベイを知らない若いファンは、まずこの2枚から聴くことをおすすめします。
Chief Commander Ebenezer Obey "EDA TO MOSE OKUNKUN" Obey OCD358 (1977)
Chief Commander Ebenezer Obey "IMMORTALITY" Obey OCD011 (1987)
2012-05-15 00:00
コメント(5)
素敵なエピソード有難うございます!いつも思っているのですが、充実した音楽生活ってソフトを何枚持っているかとかではなく、こうしたエピソードをいくつ心の中に持っているかなんですよね。ドライヴァーさんもこんな楽しい思い出絶対に忘れていないと思います。
オベイのこのアルバムは僕も学生時代に購入、何度も聴いた記憶があります(ジャケットの写真は一緒ですが少しデザインや色が違うような・・・)。ただそこからがダメダメで今でも聴くアフリカ音楽はフランコやオルケストラ・ヴェヴェだけ。bunboniさんのブログをガイドにもっともっと色々聴いてみたいです。
by なる (2012-05-15 21:24)
お久しぶりです。いやあ、いい話ですねえ。タクシーの運ちゃんの喜びよう、目に浮かびます。いい相棒に恵まれると、旅はどんなものであれ本当に楽しいものになります。しかもタクシーの運ちゃんって音楽好きが多いですしね。
昔懐かし六本木のWaveで英語が通じなくて右往左往していたナイジェリア人に助け舟を出して、代わりにサニー・アデのナイジェリア盤を推薦してもらって買いました。Ariya Specialでしたっけ。良かったですね。
by ケンジキエン (2012-05-15 21:39)
なるさん、ケンジキエンさん、ありがとうございます。
オベイのレコードに合わせてヘタクソなヨルバ語で歌う日本人が現れたのは、イシャカにしたら、空前絶後のオドロキだったろうと思います。彼は日本人商社マンのお抱えドライヴァーだったので、日本人は多く知っていましたが、レゴスのゲットー地区ムシンやフェラのシュラインに連れて行けなんていった日本人はお前が初めてだと、嬉しそうに言ってましたもんね。
暴漢に襲われそうになったところをかくまってもらったり、不良警官の賄賂攻めをすり抜けたりと、イシャカとの思い出はほんとにたくさんあって、20年以上経った今も、忘れられません。
by bunboni (2012-05-15 21:57)
懐かしいですね。久しぶりにレコード引っぱり出して聴いて、すっかりご機嫌な気分になりました。ジャケットの写真、なぜ右手にペンを持っているのか不思議だったことも思い起こしたりして。Immortalityの方は持ってないので、ぜひ聴いて見たいと思います。
by nyam nyam (2012-05-19 12:51)
“IMMORTALITY” の頃はアデ・ブームの真っ最中で、オベイは影に隠れてしまっていました。この名作もあまり知る人がいないんですけど、オベイの知られざる傑作です。
by bunboni (2012-05-19 13:01)