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ノルデスチ芸能のパノラマ [ブラジル]

Responde A Roda Outra Vez.JPG

これはブラジル北東部音楽ファン必携のCDブックですね。
分厚いミニチュア本といった趣の装丁には、100ページに及ぶ解説とともに、
ペルナンブーコとパライーバでフィールド・レコーディングされたCD2枚が収められています。

最初このCDブックを目にした時は、全曲歌詞付きカラー写真も満載のうえ、
冒頭の解説には英訳も付いているので、資料用によさそうと手が伸びたんですけれど、
CDを聴いてみて、その内容の濃さにびっくり。
ノルデスチの多種多様な民俗芸能が取り上げられているのはもちろんのこと、
収録されている歌や演奏のナマナマしさといったら、聴き進むほどにドキドキしてしまいます。
そのカラフルな演唱は、大学の研究機関や民俗音楽学者による
フィールド・レコーディングにありがちなサンプル的な味気なさとは別世界で、
現場で聴いているような臨場感にぐいぐい引き込まれます。

田舎のおじいちゃんやおばあちゃんが歌う味わい深いトアーダ(民謡)に、
ピファノ楽団によるバイオーンやアコーディオン入りの楽団が演奏するフォローのいきいきとした演奏、
ほかにも、ココ、エンボラーダ、コンゴなどの世俗的な歌や踊りからインディオの宗教儀式まで、
奥深いノルデスチ芸能がぎゅう詰めになっているんですね。

ノルデスチの民俗音楽というと、70年代にマルクス・ペレイラからリリースされていた
“MÚSICA POPULAR DO NORTE” シリーズの4枚を思い出しますけど、内容はこちらの方が上。
フランス、オクシタニアのグループ、ラ・タルヴェーロの中心人物で、
オクシタン文化研究家のダニエル・ロッドーが4年間のノルデスチ調査でまとめた
“REPENTISTAS NORDESTINOS”(06)も優れた内容でしたけれど、
あちらはトゥルバドゥール(吟遊詩人)に焦点を絞っていたので、
ノルデスチ芸能のパノラマを示してみせた本作とは趣向が異なります。

このフィールド・レコーディングは、詩人で音楽学者のマリオ・ジ・アンドラージが監督のもと、
1938年にペルナンブーコとパライーバの各地でフィールド調査された民謡採集を再構成したもの。
1997年にマリオ・ジ・アンドラージ調査団の仕事を振りかえるプロジェクトがスタートし、
2003年から2004年にかけて行われた、
33時間に及ぶ録音をもとに編集されたのが本CDブックなのです。
なるほどこの内容の濃さは、長い歴史を経て取り組まれたプロジェクトの賜物といえますね。
インディオの仮面ダンスの儀式歌が、
1938年当時とまったく変わっていなかったというエピソードもオドロキです。

CDブックの奥付に、アシスタント・プロデューサーとして
アレッサンドラ・レオーンの名前がクレジットされているのには、思わずにっこりしてしまいました。
アレッサンドラ・レオーンといえば、ノルデスチの伝統音楽をモダン化した女性グループ
コマドリ・フロジーニャの初代メンバーにしてリーダーだった人。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2011-04-25
コマドリ・フロジーニャを第1作のみで脱退してソロ活動に転じ、
09年のセカンド・アルバム“DOIS CORDÕES” では、
エレキ・ギターとベースに打楽器だけというシンプルなプロダクションで、
ノルデスチの奥深いリズムを響かせたサウンドが新鮮でした。

Alessandra Leão  DOIS CORDÕES.JPG

アレッサンドラはこうしたソロ活動のほかに、
アントニオ・ノブレーガのバンドにパーカッショニストとして参加したり、
シルヴェリオ・ペッソーアのバンドでツアーするなど多方面の活躍ぶりが知られていましたけれど、
こんな学術調査のプロジェクトにも参加していたんですね。
クレジットにはアシスタントとあるものの、実質的な選曲は彼女がしたのかもしれません。

これほど聴きごたえのある民俗音楽ディスクも珍しく、
レシーフェの限定販売品というのは、もったいない限り。
ぼくが運よく入手できたのも、毎年レシーフェのカーニバル通いをしているという、
某音楽プロデューサーの処分品を落穂ひろいさせていただいたという情けない話。
ブラジル北東部だけで地産地消されているCDがインターネットで流通する日は、
いつになったらやってくるのでしょう。

"RESPONDE A RODA OUTRA VEZ : MÚSICA TRADICIONAL DE PERNAMBUCO E DA PARAÍBA NO TRAJETO DA MISSÃO DE 1938" UFPE/CNPq AFCD700798/9 (2004)
Alessandra Leão "DOIS CORDÕES" no label no number (2009)
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