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カーボ・ヴェルデ女性が輝くバトゥク トラジソン・ジ・テーラ [西アフリカ]

Tradison Di Terra Nos Bandera.JPG

満水にしたバケツだろうが、ミシンだろうが、家財道具だろうが、
事も無げに頭へ載せて運んでしまうアフリカの女性には驚かされます。
ぼくが目の当たりにした中で一番仰天したのは、
ガーナの工事現場で、10メートル以上はあろうかという木柱を頭に載せて運んでいたおばさん。
重量もさることながら、あんな長い物をバランス取って歩くなんてと、目が点になりました。
そんなアフリカ女性の逞しさを、カーボ・ヴェルデの女性グループ、
トラジソン・ジ・テーラのDVDを観て、ひさしぶりに思い起こしましたね。

トラジソン・ジ・テーラは、カーボ・ヴェルデ、サンティアゴ島の女性たちが伝承してきた
バトゥク(カーボ・ヴェルデ・クレオールの発音)を歌うグループです。
03年に結成したグループで、現在老若14人の女性に少年ひとりを加えた15人のメンバーがいます。
バトゥクのメロディやコール・アンド・レスポンスを聴いてすぐに連想されるのは、
アフリカの女性たちが豆挽きをしながら歌うワークソングですね。
この音楽がアフリカ起源であることは一聴瞭然で、
ポルトガル植民地時代は都市部で歌ったり踊ったりするのを禁じられていたそうです。

伝統的なバトゥクは、チャベータと呼ばれる布製のクッションを股に挟んで叩きながら歌い踊る、
8分の6拍子のポリリズミックなダンス音楽です。
チャベータはベチャベチャとにぶい音しか出ないので、本来打楽器には向きませんが、
歌いながらリズムを取るための介添え役のようなものなので、
シロウトの女性には鋭く大きな音が出過ぎる太鼓より、
歌やコーラスのじゃまにならず、ちょうどよいのかもしれません。

もっともこんなにぶい音しか出ない打楽器をわざわざ使うのは、
女性が太鼓を触るのを禁忌とする西アフリカの文化とも関係があるように思えます。
西アフリカで女性たちが触れる楽器といえば、ガラガラのような打楽器や水太鼓などで、
皮を張った太鼓は近づくのも許されないことがほとんどです。
なかにはコート・ジヴォワールのセヌフォ人のように、
女性用の太鼓を持つ社会も一部には存在しますけれど、それはごく例外的ですね。
女性たちが人目をはばかることなく叩くためには、太鼓でない必要があったのかもしれません。

バトゥクは女性たちが日常生活の中で歌ってきた音楽なので、
コマーシャル・ベースで録音される機会はなかなかありません。
プロの女性歌手がレパートリーに取り入れることはあっても、
アルバム丸ごとバトゥクというのは珍しいといえます。

このアルバムは、素のままのバトゥーケを民俗音楽のように録音したものではなく、
フナナーの代表グループ、フェロー・ガイタのメンバーが演奏に加わり、
きちんとプロデュースした作品に仕上げられています。
ガイタ(アコーディオン)をメインにフィーチャーして、
リズム・セクションほかギターやカヴァキーニョなどが控えめにバッキングし、
女性たちの歌とコーラスを引き立てています。

カーボ・ヴェルデらしいさわやかな哀愁味のあるメロディが、
オーセンティックやネイティヴな味わいだけではないバトゥクの魅力を伝えます。
サンバの源流ともなったジョンゴや、パルチード・アルトを連想させるところも多く、
リードをとるテレーザ・フェルナンデスのシロウト同然な歌がぜんぜん気にならないのは、
イヴォニ・ララのサンバのような親しみをおぼえるからなのかもしれません。

DVDでは女性たちが腰で ♪くいっ ♪くいっ ♪ とリズムを取りながら、
尻を左に右に振るダンスをたっぷりと披露していて、
逞しいアフリカ女性の美しさがまばゆいばかりです。

[CD+DVD] Tradison Di Terra "NÓS BANDERA" Ferro Gaita Produções no number (2011)

【追記】2020.1.30
これまで「バトゥーケ」と書いてきた表記を、「バトゥク」に統一することにしました。
原語にさまざまな表記があり、バトゥーコなどとと発音する人もいて混乱しますが、
どうやらバトゥクがもっとも一般的なカーボ・ヴェルデ・クレオールの発音とわかったため、
これまでの表記を改めることとし、文中を修正しました。おわびして訂正します。
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