70年代半ばのマラービ・セッション ンテーミ・ピリーソ

　　　

南アのサックス奏者ンテーミ・ピリーソは、いにしえの都市大衆音楽マラービを
リヴァイバルさせたビッグ・バンド、アフリカン・ジャズ・パイオニアーズのリーダー。
そのンテーミ･ピリーソがアフリカン・ジャズ・パイオニアーズ結成以前に、
ザ・メンバーズ名義で録音した75年のセッションと、
ジ・アレキサンダー・オール・スターズの名義を冠した
76年のセッションが残されているんですけれど、
なんとこれらの録音が３枚のアルバムに編集され、
６年も前にＣＤ化されていたとは知りませんでした。

あわてて南アのＣＤショップにオーダーし、３タイトル中の２作は確保できましたが、
ザ・メンバーズの第１集はどこのお店にも在庫がなく、結局入手できず（シクシク）。
第１集はザ・メンバーズの“WAY BACK RIVERSIDE” をストレイトＣＤ化したものだったんですよね。
このレコードは、その昔『ミュージック・マガジン』に一度載ったことがある忘れられない一枚。
92年に来日したンテーミ・ピリーソにインタヴューした脇谷浩昭さんが、
このレコードを見せながら話を聞かれていました（『ミュージック・マガジン』92年6月号112ページ）。
脇谷さん、90年に南アへ取材に行かれていたので、その時に見つけてきたレコードなんだろうな、
いいなあ、なぞと羨望の眼差しでその記事を読んだものです。

“WAY BACK RIVERSIDE” を聴けなかったのは残念ですけど、
第２集に75年4月3日のセッション２曲と75年6月3日のセッション２曲が収録されていて、
サックス４管ないし５管によるゴージャスな布陣のマラービを堪能することができます。
両セッションとも、かつてのペニーホイッスルの天才少年レミ・スペシャル・マバーゾが参加していて、
アルト・サックスを吹いています。

ザ・メンバーズのセッションはどの曲も12分を越す長尺サイズとなっていて、ソロ・リレーが聴きもの。
ンテーミ・ピリーソは、ソロではテナー・サックスでなく、ソプラノ・サックスを吹いています。
メンバー全員がのびのびと演奏していて、聴いているうちに自然に笑顔になってしまうような、
実にハッピーなマラービです。ハネるリズムの気持ち良さといったら、もうたまりませんね。

一方、ジ・アレキサンダー・オール・スターズの76年セッションを編集したアルバムは、
ンテーミ・ピリーソ率いるアレクサンドラ・オール・スター・バンドの54年のヒット曲
“Sip 'N Fly” の再演に始まり、全曲ンテーミ・ピリーソの曲ばかりを演奏。
タイトルもずばり“Marabi” という曲があるとおり、
往年のダンスホールを思わせるまろやかなダンス・バンド・サウンド繰り広げます。

こちらのセッションのホーン・セクションは、サックスのみだったザ・メンバーズと違って、
テナー・サックス、アルト・サックス、トランペット、トロンボーンという編成。
いずれも６分前後という短いサイズの、ホーン・セクション合奏中心にアレンジされた曲で、
ザ・メンバーズのセッションとは趣向を変え、
のちのアフリカン・ジャズ・パイオニアーズを思わせるサウンドが楽しめます。

しかし、このジ・アレキサンダー・オール・スターズの最後のセッションが行われた
翌月の６月には、ソウェト蜂起が勃発。優雅なマラービを楽しむような環境はどこにもなく、
南ア黒人にとってハード・タイムズな時代が続くことになりました。
じっさいンテーミ・ピリーソは、76年5月のラスト・セッション以降、
81年のアフリカン・ジャズ・パイオニアーズ結成まで、レコーディングから遠ざかってしまいます。

そんなこれまで日の目の当たらなかったレコーディング・セッションを復刻したリイシューＣＤ、
ガロにしては珍しく解説も充実、レコーディングのクレジットも完備した力作となっています。
あ～、ザ・メンバーズの第１集“WAY BACK RIVERSIDE” も欲しい～！

Ntemi Piliso & The Members "BRA NTEMI AT MAVUTHELA VOL.2 - 1975" Gallo CDXU2 (1975)
Ntemi Piliso & The Alexander All Stars "BRA NTEMI AT TEAL RECORDS - 1976" Gallo CDXU3 (1976)