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涙の雫を灯りにかえて ヒエン・トゥック

Hien Thuc  THIEN SU.JPG

胸の奥深いところに、涙の雫がすーっと落ちていくのを感じるメロディ。
声も上げず、嗚咽ももらさず、ただ涙する人の姿が目に浮かびます。
どうすることもできない悲しみ、ただ受け止めるしかない運命を、
静かに受け容れようとする人に、その曲は優しく寄り添います。

ヴェトナムの国民的作曲家チン・コン・ソンのソングブック集。
古くはカーン・リーの歌などで耳なじんだチン・コン・ソンの曲ですけれど、
これは81年生まれのポップス・シンガー、ヒエン・トゥックによるアルバム。
アルバムのスリップ・ケースにデザインされた写真を見ていると、
暗闇の中に落ちていった涙が、灯りのボールとなって浮かび上がり、
いつしか主人公の女の子の周りを取り囲んで、照らしているように思えてきます。

チン・コン・ソンは反戦歌を多く書いたことから、
「ヴェトナムのボブ・ディラン」とも呼ばれるシンガー・ソングライター。
ぼくはチン・コン・ソンのフォーク・ソングぽい曲が苦手なので、
チン・コン・ソンの曲集といわれても、あまり興味を持てなかったんですけれど、
予想外にも淡くひそやかな音楽に、すっかりトリコとなってしまいました。

可憐な声で歌う、ヒエン・トゥックの控え目な歌いぶりも魅力なら、
淡々とメロディを紡いでいくヒエンの歌を守り立てる、
イマジネイティヴなアクースティック・ギターを中心に据えたプロダクションも絶妙です。
ダン・チャン(箏)の弦の響きが、思わず息を呑む美しさなら、
オーケストレーションのアレンジも過不足なく、最高の歌伴といえますね。

レー・クエンの新作でも、サウンド・クオリティの高さに感じ入ったものですけれど、
このアルバムのクオリティもすこぶる高く、思わずうなってしまいました。
どちらもヴェッタン・スタジオのアルバムで、このレーベルは要注目ですね。

ヒエン・トゥックは9歳から歌ってきたというキャリア十分なポップ・シンガーで、
チン・コン・ソンの曲集を出すのは、これが2作目とのこと。
タイトル曲の“Thiên Sứ (天使)”はチン・コン・ソンが99年に書いた曲で、
これまで一度もレコーディングされたことがなかった曲だそうです。

ぼくがひいきにする民歌系のヴェトナム音楽とは毛色の異なる
アーティスティックなポップスですけれど、
自意識を押し出さない、終始抑えの利いた歌は、心によくなじみます。

Hiền Thục "THIÊN SỨ : HIỀN THỤC & NHỮNG TÌNH KHÚC TRỊNH CONG SƠN" Viettan Studio no number (2011)
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