真冬にボサ・ノーヴァで温まる アナ・クリスティーナ [ブラジル]
真冬にボサ・ノーヴァって、なんだか季節感のない話ですけれど、
ずっと気になっていた新人女性歌手の2年前のアルバムをようやく買ってみたら、
すこぶるいいアルバムで、毎晩のコーヒー・タイムに欠かせない一枚となっています。
82年リオ生まれという、アナ・クリスティーナのデビュー作。
ボサ・ノーヴァを歌う黒人というのは珍しく、アライージ・コスタ以来でしょうかね。
さらに驚きなのはアナ嬢、単なるシンガーではなく、ソングライターだというところ。
ジョビンなどの60年代の有名曲ばかりを、飽きもせず歌う女性歌手が多いなか、
ジョビンの“Dindi” とカイーミの“Dora” の2曲を除き、
すべて自作曲で占めているのだから、これは意欲作といっていいでしょう。
アナはデビュー作にしてプロデュースも手がけるという才人なんですが、
ぼくが惚れこんだのは、アナの透明感のある声と、力の抜けた軽やかな歌いぶり。
落ち着きのあるそのナチュラルな歌声に、デビュー作の気負いはまったく感じられません。
ボサ・ノーヴァ独特の素っ気ない歌いぶりも板についてます。
こういう歌い方が、90年代以降のMPBの歌手たちはできなかったんだよなー。
エリス・レジーナというおゲージツ歌手に影響されたシンガーだらけの時代でしたからねー。
エリスの押し付けがましく大仰な歌唱が、
ずいぶんとブラジル音楽を歪めてくれたもんですよ、まったく。
でも、最近のパウラ・モレレンバウムなどのアルバムを聴いていて思うのは、
MPBの女性歌手たちも世代交代が進み、
エリス・レジーナの悪影響を脱したんじゃないかということ。
ブラジル音楽のもったいぶらない率直さを取り戻すとともに、
ボサ・ノーヴァ本来の持ち味を生かした歌が、ようやく聴けるようになってきた気がします。
アナのデビュー作は、ピアノ、ギター、ベース、ドラムスを中心に、
曲ごとにトロンボーンやフルート、チェロ、7弦ギターが加わるという、生音中心のサウンド。
ふくよかで温かなアクースティック・サウンドに徹したのは、アナのこだわりだったとか。
アーティスティックに偏ることなく、親しみに溢れたアルバムに仕上げたところが花マルですね。
ジャケットの、夕陽を浴びてリオの海岸にたたずむ構図や、
遠くにぼんやりと映るポン・ジ・アスーカルのシルエットは、
まるで欧米人か日本人がデザインしたような、ブラジルとボサ・ノーヴァの典型的イメージ。
そんな外国人の視線をブラジル人が取り込んだところに、
ボサ・ノーヴァがいったん完全に過去のものとなって、
もう一度現在に取り返したことを、いみじくも暗示しているようにぼくには思えます。
Ana Cristina "ACASO" Biscoito Fino BF374 (2011)
2013-01-20 00:00
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