琥珀の夜 ケム [北アメリカ]
ドラッグに手を染めて薬物中毒となり、ホームレスにまでなったという過去を持つ、
デトロイト出身のR&Bシンガー、ケム。
洗練されたアダルト・コンテンポラリーという、うわべのオシャレな装いとは裏腹の、
この人の歌に秘められた深い孤独や傷みの感覚に惹き付けられていたんですが、
後になってケムの経歴を知り、なるほど、だからかと、合点がいったものでした。
初来日の南青山・ブルーノート東京、1月19日セカンド・ショウ。
完全に自分の世界が出来上がっている人でした。
ライヴは見事なまでにレコードの再現。CDと寸分違いません。
キーボード、ギター、ベース、ドラムスの腕っこき4人によるバンドのコンビネーションも完璧。
細かなブレイクをこともなげにキメまくり、タイトなサウンドを繰り出します。
全員バックに徹し、派手なプレイなどまったくやらないんですが、
要所要所を確実に固めた職人技が、小憎らしいほどウマい。
とりわけドラマーの手首の柔らかさや小技の利かせ方には、ウナらされました。
主役のケムの歌唱は、かなり器楽的というか、ジャズ的。
ヴォーカリーズのように聞こえるのは、この人が書くメロディの特徴なのかも。
一方、観客に語りかける場面ではゴスペルの匂いも漂わせ、
女性客と男性客と交互にコール・アンド・レスポンスしてみせるソウル・マナーぶりも発揮。
しかし、どんなに熱唱しても歌に熱を帯びないところはネオ・ソウル的というかイマふうで、
サウンドのテクスチャーはラリー・ハードを思わせるディープ・ハウスの質感もあり。
さらにアンコールの締めが、なんと“Merry Christmas Baby” だったのには仰天。
ぼくの大好きなブルース・シンガー、チャールズ・ブラウンのブルースですよ!
こんな古いブルース・ナンバーを持ち出すとは。
甘くもほろ苦いチャールズ・ブラウンのブルースと、ダークでメロウなケムには
たしかに共通するテイストがあります。
う~ん、こうしてみると、ケムの体内には、ブルース、ゴスペル、ソウル、ジャズと、
ブラック・ミュージックの伝統がしっかりと詰まってるんですね。
最後の最後、メンバー紹介で
ドラムスとベースがそれぞれ短いソロをとって、あれれ?
なんだ、この二人、アール・クルーのバンドの二人じゃないの。
アール・クルーの2000年のライヴDVDで
さんざん二人のプレイを視ているから、間違いありません。
どーりで、ウマいわけだぁ。
クルーのDVDにはメンバーのクレジットが載っておらず、
ずっと名前がわからずにいたんですけど、
ベースがアル・ターナー、ドラムスがロン・オーティスと、
ようやく知ることができました。
Kem "INTIMACY : ALBUM Ⅲ" Universal Motown B0014469-02 (2010)
Kem "INTIMACY : ALBUM Ⅲ DELUXE EDITION" Universal Motown B0014543-10 (2010)
[DVD] Earl Klugh "THE JAZZ CHANNEL PRESENTS EARL KLUGH" Bet On Jazz ID9921BJDVD (2000)
2013-01-22 00:00
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