汎ジンバブウェ音楽のクリエイター オリヴァー・ムトゥクジ [南部アフリカ]
オリヴァー・ムトゥクジが、この夏、ついにやって来ます!
アフリカのスーパー・スター・クラスのシンガーで、
ムトゥクジはいまだ来日したことのない、いわば最後の大物。
ユッスー、サリフ、ウェンバといったアフリカのスター・シンガーたちが
軒並み低迷している現在、ヴェテランらしい円熟味と深みを増して、
活発にアルバム・リリースをし続けているのは、ムトゥクジただ一人。
むしろ今ムトゥクジを観れるのは、絶好のタイミングですよ。よくぞ、呼んでくれました。
ここ数年ジンバブウェ盤の流通が悪く、ムトゥクジの近作をずっと聴けずにいたので、
これを機にと南ア盤で取り寄せてみました。
ムトゥクジ本人の弁によれば61作目を数えるという、昨年の最新作“SARAWOGA”。
冒頭のア・カペラがこれまでになく力がこもっていると思えば、
それもそのはず、10年に交通事故で亡くした息子サム・ムトゥクジへ捧げたアルバムでした。
息子のサムは、ムトゥクジのバンド、ブラック・スピリッツでサックスを務め、
08年にムトゥクジのプロデュースでデビュー作を出したばかりでした。
そのデビュー作は、センシティヴな美しさにあふれたソングライティングや、
メロウなサウンド・センスに父とは異なる音楽性を示す一方で、
父譲りのトゥク・ミュージックも聞かせていて、将来が楽しみなアルバムとなっていました。
2作目のレコーディングを終えた矢先、わずか21歳で命を落としてしまうとは、
あまりに残酷な運命というほか、言葉がみつかりません。
最新作の制作が、息子の突然の死という衝撃を乗り越えるためのセラピーになったと
ムトゥクジが発言しているとおり、
冒頭のア・カペラに続いてンゴマを伴奏に逞しく歌うタイトル曲に始まり、
引き締まったビートとムダのない簡潔なサウンドにのせて歌うムトゥクジの歌声は、
いつにも増して確信に満ちていて、聴き手の胸へストレイトに迫ってきます。
このほか、09年作の“DAIRAI” と10年作の“RUDAVIRO” も届いたんですが、
これまでになくンビーラとマリンバをたっぷりとフィーチャーしているのが聴きもの。
先ほどの最新作ではンビーラやマリンバは使っておらず、従来のサウンドでしたが、
この異色ともいえる2作とも、コクのある芳醇な味わいが香り立つ逸品に仕上がっていて、
ムトゥクジの絶好調ぶりが伝わってきます。
う~ん、ますます来日が楽しみになりますねえ。
ムトゥクジがクリエイトしたトゥク・ミュージックの本質は、
<汎ジンバブウェ音楽>であるとぼくは思っています。
ンビーラによるショナ人の伝統音楽をモダン・ポップ化したのがトーマス・マプフーモならば、
ショナ語、ンデベレ語、英語で歌うムトゥクジは、ジンバブウェの特定の民族に拠らず、
南アのンバクァンガをベースに、ジットなどジンバブウェの多彩な音楽要素を巧みに取り入れ、
ジンバブウェ人全員に受け入れられるサウンドを生み出しました。
さきほどのンビーラとマリンバを全面的にフィーチャーした“DAIRAI” と“RUDAVIRO” でも、
典型的なショナのメロディの曲で演奏されるンビーラは伝統的に聞こえますが、
アルバム全体としては、ことさらショナ色を強調するような使い方をしておらず、
ンバクァンガ調の曲でマリンバとともに使うなど、
民族性を強調しないサウンドの組み立てが、ムトゥクジのクレヴァーなところ。
彼が35年もの長きに渡り、第一線を走り続けながらトップ・アーティストであり続けているのは、
汎ジンバブウェ音楽の立ち居地を外さないクレヴァーさにあると、ぼくは思います。
Oliver Mtukudzi "SARAWOGA" Tuku Music/Sheer Sound SLCD254 (2012)
Sam Mtukudzi "RUME RIMWE" Tuku Music/Sheer Sound SLCD153 (2008)
Oliver Mtukudzi "DAIRAI" Tuku Music/Sheer Sound SLCD173 (2009)
Oliver Mtukudzi "RUDAVIRO" Tuku Music/Sheer Sound SLCD234 (2010)
2013-05-26 00:00
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