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21世紀のバラッド伝道師 サム・リー [ブリテン諸島]

20130620_Sam Lee.JPG

今年の春出会ったサム・リーのデビュー作は、衝撃的でした。
トラヴェラーズが伝えてきたブリテン諸島の古いバラッドを、
音響系ともいえる斬新なサウンドをバックに歌う若者が登場するなんて。
無伴奏独唱の伝統的な唱法に忠実なばかりでなく、
伝統音楽へのただならぬ愛情が伝わってくる、魂のこもった歌いぶりと、
保守的なフォーク・サウンドに背を向け、現代音楽的なアプローチを加味したサウンドに、
一聴でノックアウトされました。

この若者が、二十歳を過ぎるまで歌を歌ったこともなかったっていうんだから、オドロキです。
25歳の時にトラヴェラーズの歌を聴いて衝撃を受け、
トラヴェラーズのコミュニティを訪ね歩いて歌を収集し、150曲以上を取得したのだとか。
トラヴェラーの生き方に心酔し、一緒に何年も生活を送って、彼らから生き方も学んできたという
その純粋な情熱が、サムの歌の原動力となっているんですね。
教えを乞うた一人は、なんとあのジーニー・ロバートソンの甥っ子さんだったそうですよ。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2013-03-29

伝統歌への深い敬愛と学びの姿勢に加えて、ロンドンの芸術大学でファイン・アートを専攻し、
ダンサーや役者をしていたという経験が音楽に身体性を宿らせ、
東欧系ユダヤ人でトラッド・フォーク界とは無縁のアウトサイダーであったからこそ、
これほど冒険的なサウンドを生み出せたんですね。

チェロ、コルネットに、インドのハルモニウム(シュルティ・ボックス)、
アフリカの親指ピアノ(ンビーラ)、日本の琴、口琴という楽器編成は、
アタマの固いフォーク・シンガーにはとうてい想像つかないもので、
自由でしなやかな発想力に、サムの天才的なセンスが示されています。
こういう才能がブルックリンとかじゃなくて、ロンドンから出てきたってところも画期的。

6月20日、青山CAYで観たライヴも、
新しく誕生したバラッドの伝道師たるパフォーマーぶりが印象的でした。
アンコールの代わりに、マイクなしで客席へ降りてきて、
観客に歌のリフレインを教えて、客とともに一緒に歌った無伴奏バラッドなど、
伝統歌の採集で身につけてきたサムの真骨頂でしたね。

はぁ、こんな若者がいるんですねえ。
1月に来日したマテオ・ストーンマンにも同じ感慨をおぼえましたけど、
二人に共通するのは、歌そのものにホレこんだ、人並みはずれたその熱意ですね。
普通そういう人だと、マテオの場合、ボレーロのレコード・コレクションを膨大に所有していて、
知識がすごいとか思いがちですけど、まったくコレクター気質のない人だったし、
サムもバラッド研究などアカデミックな勉強をしているのかと思いきや、
そういう学究肌ではなく、現場に飛び込む体当たり派だったんですね。

<伝統の継承と更新>という深くて広いテーマは、成功例も失敗例も山ほどありますけど、
サム・リーがデビュー作で示した革新的なアプローチは、
沖縄音楽の概念を一新させた記念碑的作品、ネーネーズの『IKAWŪ』を思い起こさせます。
あのアルバムも、サムがギターを排したように、三絃を遠ざけたのが肝でしたよね。

思いつきついでに、アイヌの女性4人組マレウレウも、トンコリから離れたらどうかな。
去年の初のフル・アルバム『もっといて、ひっそりね。』も、
ミニ・アルバムの伝統ア・カペラ作とはがらり変わった大化けを期待してたんだけど、
汎用性の強いレゲエやジャズの借用など、
クリエイティヴィティに乏しいサウンド・アプローチが手ぬるく思えました。
マレウレウはサム・リーをぜひ聴くべきですね。

Sam Lee "GROUND OF ITS OWN" The Nest Collective TNCR001CD (2012)
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