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追憶の国立オーケストラ オルケストル・ナシオナル・ド・モーリタニー [西アフリカ]

Orchestre National de Mauritanie.JPG

アフリカ北西部に位置するモーリタニアは、アラブ世界に属しながらグリオが存在するという、
北のイスラーム世界と南のブラック・アフリカが出会った国。
昔からこの国のグリオが歌う伝統音楽には親しんできたものの、
ポピュラー音楽のレコードがまったくなくて、長年謎のヴェールに包まれたままでした。

ところが5年くらい前だったか、YouTubeに古いモーリタニアのバンドの白黒映像が上がって、
アフリカ音楽ファンの間で話題になったことがありました。
映像には管楽器3人とギター3人が登場するものの、
なんのコメントも付いていなくて素性知れず、
いつのものかもさっぱりわからないままだったんですけど、
あの映像がモーリタニア国立オーケストラのものであったことが、
今回のリイシュー作でようやく明らかとなりました。

本CDの解説によれば、モーリタニアの独立当初は公式の楽団がなく、
外国要人を迎えるたびに近隣諸国からブラスバンドの派遣を受けていたため、
フランスで教育を受けた初代大統領モクタル・ウルド・ダッダが、
モーリタニアの近代化政策を推し進めるにあたって国立オーケストラを編成することを命じ、
67年に14人のミュージシャンが召集されたとのこと。

この中には、ハラムと同じモーリタニアの弦楽器ホドゥの名手サイドゥ・バに、
トランペット/横笛奏者のムハンマド “ネイファラ” フォール・ウルド・ムハンマドほか、
リタイアした軍楽隊のミュージシャンたちなどが勢揃いしていました。
当時17歳だった歌手のハドラミ・ウルド・メイダはモーリタニアでもっとも有名な音楽一家の出身で、
のちにオーケストラのリーダーとなります。

集まったミュージシャンたちはいずれも正規の音楽教育を受けておらず、
音楽家養成講座を短期集中で受けさせるため、ギネアのコナクリに送られました。
コナクリでは、カンテ・マンフィーラ、ソリ・カンジャ・クヤテほか、
北朝鮮のピョンヤンからやってきた音楽教師から、音楽理論を学んだそうです。

またハドラミは、アフリカ・ツアーにやってきたブルース・シンガーのジュニア・ウェルズと、
コナクリで出会いました。ジュニアはハドラミの歌にカンゲキして、
一緒にツアーに来るよう熱心に勧めたなんてエピソードも書かれています。
そしてメンバーたちは翌68年にモーリタニアへ帰国し、
11月28日に国立オーケストラとして初のコンサートをお披露目しました。

活動当初ハドラミはギネアの教師から学んだマリンケ語の歌を歌っていましたが、
やがてオーケストラは、ハッサニアの叙事詩やプールの詩を題材にとった、
オリジナルのレパートリーを増やしていきます。
これも、ギネアでアフリカの伝統に基づく創作を奨励する
「オタンティシテ」の精神を学んだ成果だったようです。

やがてオーケストラは政府の公式バンドとしてだけでなく、新生モーリタニアを象徴する存在となり、
73年に初録音を行い、レバノン、ベイルートで500枚のシングルがプレスされ、
モーリタニアで無料で配布されたのだそうです。
75年にハドラミは政治的立場の違いからオーケストラを脱退し、
その後の軍事クーデターでダッダ大統領が失脚すると、オーケストラも自然消滅となったようです。

今回復刻された音源を聴くと、ベンベヤ・ジャズを思わす曲もあれば、
朴訥とした素朴な笛がエレキ・ギターと絡み合う曲など、モーリタニアらしい音楽性が聞き取れます。
そのユニークな個性も、モーリタニアの人々の追憶の彼方へと、消えてしまったのですね。

Orchestre National De Mauritanie "ORCHESTRE NATIONAL DE MAURITANIE" Sahel Sounds SS010
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