晴れやかなマンデのグリオの歌 チェコロ・シソコ [西アフリカ]
いや~、実にグリオらしい堂々たる歌いっぷり。
こんなにグリオらしいグリオの歌を新作で聴けたのは、ひさしぶりな気がします。
マリ、カイ出身のヴェテラン歌手、チェコロ・シソコの遅すぎたデビュー作。
マリ音楽のアルバムを制作しているアメリカのレーベル、
KSKことカナガ・システム・クラッシュの新作です。
ここのところマリ音楽というと、ソンガイやフラニの歌か、
トゥアレグのデザート・ブルースばかり聴いていて、
マンデ系の話題作にめっきり出会えなくなっていました。
ワールド・ミュージック華やかりし頃は、サリフ・ケイタを筆頭に、
マリ音楽といえばマンデ・ポップ一色だったのが、ずいぶんと変わったものです。
90年代のワスル音楽の流行に、00年代のデザート・ブルースの台頭と、
ここ二十年くらいは、どちらかというとマンデ以外のマリ音楽に注目が集まっていましたからね。
それとともに、楽器の方も、以前は華やかな高音を奏でるコラがサウンドの中心だったのが、
渋い中低音のンゴニが使われることの方が多くなってきて、
アンサンブルにコラが不在となることも珍しくなくなっていました。
そんなこともあって、コラが高らかに響く、マンデのグリオらしい華やかさいっぱいの
チェコロ・シソコの本作は、とても耳に新鮮というか、爽快に聞こえました。
ここのところKSKがリリースする作品は、かなり地味なものが続いていたので、
このレーベルとしても、本作はひさびさの快心の出来なんじゃないでしょうか。
ライナーによると、チェコロ・シソコは46年マリ西部カイのケイネバの生まれ。
マンデ系民族にマリンケ、バンバラ、カソンケがいますが、
カイはカソンケ人が多く暮らす土地なので、チェコロはカソンケ人なのかもしれません。
ライナーには出身民族が書かれていないので、確かではないですけれども。
<シソコ>というグリオ出身を表す姓(ジャムー)のとおり、
両親ともに高名な歌手で、兄弟二人もコラとギターの演奏家。
兄の一人がコラ奏者として有名なジェリマディ・シソコで、
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2013-05-18
チェコロにギターを買い与え、献身的に指導したのだとか。
やがてチェコロは、ギターを弾き語りながら冠婚葬祭で歌う伝統グリオとして活躍し、
68年にバマコに出てきてからは、今や世界的なプレイヤーである
トゥマニ・ジャバテのコラを伴奏に従えて歌い、ザニ・ジャバテともよく共演したそうです。
ただ、レコーディングの機会には恵まれなかったようで、09年に録音した本作が初アルバム。
グリオらしい鍛えられたノドと悠然とした語りは逞しくも明るく、
晴れ晴れとした歌いっぷりが胸をすきます。
チェコロが弾くギターにコラとンゴニが絡む3人の演奏も、
これぞマンデ音楽のリズム感と言いたいですね。
最近欧米で持てはやされる、ニュー・エイジのできそこないみたいな演奏をする
コラ奏者のリズム感に批判的なぼくですけど、
この演奏を聴いてもらえば、その意味が分かってもらえるんじゃないかなあ。
アタックが効いて、ボキボキとひっかかるようなリズム感。
これこそがマンデのグリオ音楽のビートですよ。
西洋のハープみたいに、コラをきれいきれいに流して弾くんじゃ、アフリカ音楽じゃありませんって。
残念ながら、チェコロはこのデビュー作の完成を待たずに、
12年5月、66歳で亡くなり、本作が遺作となってしまいました。
09年に録音していながら、なぜリリースがこんなに遅れたのか疑問ですが、
ドキュメンタリー・フィルムが残されているそうで、そちらのリリースも待たれます。
Tiécoro Sissoko "KEME BORAMA" Kanaga System Krush KSKCD013 (2014)
2014-03-06 00:00
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