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ヴェトナム版『ドラゴンフライ』の登場 タン・ニャン [東南アジア]

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うわぁ、とうとう出てきたかあ。
世界中の音楽ファンの耳目をヴェトナム音楽に集めたといっても過言ではない、
01年の傑作“DRAGONFLY” に匹敵する作品が、ついにヴェトナム国内から登場しましたよ。

“DRAGONFLY” はグエン・レというヴェトナム系フランス人ジャズ・ギタリストが、
カイルオン歌手のフーン・タンとコンビを組み、ヴェトナム音楽の特徴である独特のゆらぐ音感を、
コンテンポラリー・ジャズの手法を用いて、鮮やかに再構築した作品でした。
それはヴェトナムの伝統音楽など耳にしたことのないファンを、
一気にヴェトナム音楽の魅力のトリコとさせただけでなく、
ヴェトナムの伝統音楽やポップスのファンをもウナらせました。
これほどハイブリッドな作品は、当時のヴェトナム国内では望むべくもなく、
まさに十年先を行っている感があったからです。

とはいえ、その後ヴェトナムのポップスのプロダクションはぐんぐん向上して、
ここ十年で越僑ポップスより現地制作の方が凌ぐまでになっていることは、
ファンの皆さんならよくご存じのとおりですよね。
で、ついに登場したのが、タン・ニャンという女性歌手の本作。

ヴェトナムらしいハイ・トーンのメリスマ使いで歌うタン・ニャンを前面に立て、
“DRAGONFLY” に匹敵するサウンドを作り上げたのが、アレンジャーのチャン・マイン・フン。
チャン・マイン・フンはこれまでにも、ヴェトナムの伝統音楽に西洋クラシック音楽の影響を取り入れた
器楽曲や声楽曲を作曲したり、04年には女性歌手ゴック・フエーとともに、
クァンホ(バクニン地方で伝承されてきた青年男女のかけあい唄)とジャズをミックスした
作品を出してきた人だそうです。

ゴック・フエーとコラボした作品はぼくは未聴ですが、
今回ハノイ出身の民謡歌手タン・ニャンと取り組んだのは、
北部伝統の大衆歌劇チェオを、コンテンポラリー・ジャズの作法でブラッシュアップした作品。
ジャケットの背に、「チェオ・ジャズ」とさりげなく書かれているのもなるほどナットクで、
それでいうなら、“DRAGONFLY” は「カイルオン・ジャズ」だったわけですね。

“DRAGONFLY” では、グエン・レがエレクトリック・ギターでダン・バウの響きを模したように、
弦が織り成すサウンドを中心にプロダクションを組み立てていましたが、
本作でのチャン・マイン・フンは、鍵盤系楽器でサウンドを組み立てています。
チャン・マイン・フンは、本来ハーモニーを持たない単旋律の伝統音楽に、
新たなコードを付け加えていくことで、豊かな色彩感を与えたのですね。
その手腕は、かつてピアニストの高橋全が、朝崎郁恵の歌う奄美民謡にピアノ伴奏した
『海美 AMAMI』(97)での画期的な仕事に通じるものがあります。

しかもチャン・マイン・フンは、サウンドにコード感を付加するだけでなく、
チェオの原曲にないジャズ的なリフやブレイクを採り入れて、大胆な改造も施しています。
それでいて、全体の音楽はチェオの雰囲気を損なわず、
ヴェトナム音楽の伝統要素を映えるようにしているところがあっぱれですね。

“DRAGONFLY” は好きだけど、ヴェトナムのザンカーや情歌系ポップスは苦手というファンにも、
これならゼッタイOKと、自信をもってオススメできるアルバムです。

Tân Nhàn "YẾM ĐÀO XUỐNG PHỐ" Thăng Long no number (2013)
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