二人のジルベルトのサンバ ジルベルト・ジル [ブラジル]
ジルベルト・ジルの新作は、ジョアン・ジルベルトのカヴァー集。
少年の頃、ジョアン・ジルベルトを尊敬してキャリアをスタートさせたジルなので、
いつかはこんなアルバムを作るだろうと予想はしていましたけど、
ようやく機が熟したということでしょうか。
ジルベルト・ジルも、すでに70過ぎなんですもんねえ。
裏山サンバの世界なら古老といっても差支えない年齢ですけど、
トロピカリア世代で現役として走り続けてきたジルにとって、老いなどは無縁で、
まさに円熟味を感じさせる、今だからこそのアルバムでしょう。
ジルの弾き語りを核に、ドメニコとモレーノ・ヴェローゾがパーカッションとサンプラーで、
ロドリゴ・アマランチがヴィブラフォンとアレンジで控えめにサポートしたアルバム。
ジルの弾き語りは昔から定評がありましたけど、本作こそ真骨頂でしょうか。
アコーディオンとヴァイオリンにトリアングロも加えて、北東部の香りただよう
“Tim Tim Por Tim Tim” がとてもいい感じ。アルバムを賑わせるいいアクセントになっています。
そしてこのアルバム、録音がすごく良いですね。アナログぽい温かみのある音で、
打楽器の音がよく録れています。プラトと思われるお皿を擦る音が生々しく響き、
スルドの低音の伸びも申し分なく、こんなに良い音のスルドを聴いたのは初めてかも。
そして、このアルバムのタイトルがふるっていますね。
「ジルベルトス」の複数形はジョアン・ジルベルトとジルベルト・ジルを重ねたもので、
二人のジルベルトの「サンバ」というところが大事ですね。
ジョアン・ジルベルトがずっと昔から自分はサンバを歌ってきたと言っているのは、
ボサ・ノーヴァ・ファンなら知っているはずですけれど、あの言葉の真意を、
ボサ・ノーヴァ・ファンは真面目に考えようとしていないように思えてならないんですよね。
このアルバムで歌っているのはボサ・ノーヴァでなく、サンバなんだということを、
あらためてジルが主張しているのに、ぼくは共感します。
ブラジル音楽に関する造詣では日本で一番と、ぼくが思っている田中勝則さんがその昔、
「バンド・ダ・ルアのような30年代のポップなサンバを復活させたのがボサ・ノーヴァだ」
「ジョアン・ジルベルトの最初の3枚は、サンバ復興の時代を告げた名盤」とおっしゃった慧眼に、
ウナらされたことがありましたけれど、その時のことを思い出します。
田中さんはその時、自分のレコード棚ではサンバとボサ・ノーヴァ、MPBも分けていないといわれ、
ますます、う~んとウナってしまったんですけれども。
ジャンルで仕切ったり、一線を引いたりしない聴き方、区分けをしない聴き方にこそ、
音楽の発見や愉しみがあることを、田中さんのお話に教えられたことが今も忘れられません。
ジルのジョアン・ジルベルト愛唱歌集を聴いて、思い出したのがそのことでした。
少し前に出たボサ・ノーヴァ本で、60年代ボサ・ノーヴァの微細な情報を網羅しながら、
ピシンギーニャをクラリネット奏者と書いているのに、思わず本を投げつけそうになったっけ。
局所マニアばかり増えて、ブラジル音楽を俯瞰して見ることができる人が減ったよなあ。
ボサ・ノーヴァはノエール・ローザたちが育てた「伝統」サンバそのものなんだという見方こそ、
今すごく求められているように思えてなりません。
そのあたりのこと、田中さん、本を書けばいいのになあ。
Gilberto Gil "GILBERTOS SAMBA" Sony 88843037532 (2014)
2014-04-21 00:00
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