ドゥンドゥン・ミュージックの真髄 タタロ・アラム [西アフリカ]
ナイジェリアのヨルバ音楽は、キリスト教系のジュジュだろうと、
イスラム教系のアパラ、フジだろうと、トーキング・ドラムがサウンドの決め手となっていますね。
ヨルバのトーキング・ドラムを総称するドゥンドゥンは、
ヨルバの世俗文化をアイデンティファイする楽器といえます。
一方、ヨルバ人の太鼓として有名なバタは、新大陸に渡ってサンテリアで使われているように、
多神教のヨルバ人が宗教音楽で使う太鼓で、
祀る神様ごとに使う楽器やリズムが厳密に決められています。
バタと違い、ドゥンドゥンにはそうした宗教的制約がなかったために、
世俗的な儀式や社交の場で盛んに使われるようになり、
15世紀頃からヨルバの象徴的な楽器として広まったと聞きます。
90年にナイジェリアへ行った時も、
流しで歩いているドゥンドゥンのドラマーを通りでよく見かけましたし、
オヨやオショボなどの王宮へ行くと、入口に必ず門番のドゥンドゥン・ドラマーがいて、
「客人がみえましたー」とドゥンドゥンを叩いて中に伝えるという、伝令の役割を果たしていました。
そんなドゥンドゥンの名手にタタロ・アラムがいます。
50年代後半と思われる10インチ盤をずいぶん昔に手に入れたんですが、
最近この人のCDを2枚見つけ、遅まきながらこれまでよくわからなかった
ドゥンドゥン・ミュージックの実体なるものが、ようやくみえてきました。
10インチ盤しか聴いていなかった頃は、ドゥンドゥン・ミュージックといっても、
歌とコーラスが入っているので、アパラと同じにしか聞こえなかったんですね。
新たに聴いたCD2枚で気付いたのが、リードをとる歌手がそれぞれ違っていること。
要するにドゥンドゥン・ミュージックでは、歌手はフィーチャリングにすぎず、
主役はドゥンドゥン・ドラマーの方なんですね。
じっさい、10インチ盤にもCDにも歌手の名はクレジットされていないくらいで、
完全に脇役なのでしょう。
なるほどそういう意識で聴けば、タタロ・アラムの雄弁なドゥンドゥンが
歌を先導していることがよくわかります。
もともとアパラもドゥンドゥン・アンサンブルに歌手を加えて生み出した音楽で、
歌手とリード・トーキング・ドラマーは対等な関係にあったんですよね。
アインラ・オモウラのレコードなどでも裏ジャケットの写真を見ると、
リード・トーキング・ドラマーを立てている様子がよくわかります。
実はもう1枚、ドゥンドゥン・ミュージックで
レレ&ガニ・アボルペという兄弟のレコードを持っていて、
タイトルに「シェケレ」を謳っているのを不思議に思っていたのですが、その謎も解けました。
ドゥンドゥン・アンサンブルでは、シェケレ奏者が歌手の役を務めることが多かったからで、
このアルバムでは歌がメインであることを表すため、
タイトルやグループ名で「シェケレ」を名乗っているんですね。
ドゥンドゥンが語るプロヴァーブ(ことわざ)は、ヨルバ人にしか通じませんけど、
ドラム・ランゲージのわからない外国人には、
ニュアンス豊かなそのドラム・サウンドにしびれるばかりです。
[10インチ] Tatalo Alamu "DUNDUN AND SEKERE" Philips PR13417
Tatalo Alamu "ORIN JU ORINLO" Babalaje OLPS0129
Tatalo Alamu "AFIDIKALENI" Babalaje OLPS0301
[10インチ] Lere and Gani Abolupe & His Sekere Group "VOLUME 1 : SEKERE" Omo-Aje Sound Studio/Parlophone OSP4/PNL1030
2014-06-04 00:00
コメント(4)
いいなぁー。この流しのドゥンドゥン・ドラマーの写真。いつ見ても素敵な写真です。音楽が聞こえてきそうで、大好きな写真ですよ。このおじさんの後を付いて歩きたくなりますね。こんなおじさんが持つ楽器は、渋い魅力で、楽器なんてイメージを超えてますよね。
bunboniさんが、昔に書かれていた言葉で、「美しい」とか「きれい」とかの次元ではなく、「すごい」という言葉を人に言わしめる力。
(このbunboniさんの言葉は、大好きで今でも覚えてます)
そんな力が、この写真からも伺えます。
bunboniさんの楽器コレクションも以前より益々パワーアップなされているのではないでしょうか?
そんな「すごい」楽器などもいつか紹介してください。
by イワタニ (2015-09-04 18:35)
この人は流しのドラマーじゃないんですよ。オヨの王宮の入口で門衛をしているトーキング・ドラマーなんです。王宮なのにトタン屋根ってところが切ないんですけれども。
「きれい」とか「美しい」などとという鑑賞のための芸術をはるかに超え、「すごい」という言葉を人に言わしめる力、まさしくそこにアフリカ芸術の本質が潜んでいるのです。(季刊『ノイズ』4号 1989年冬より)
イワタニさんにご指摘されて、昔書いたノイズを読み直しました。ありがとうございます。
by bunboni (2015-09-04 19:30)
バックの家は王宮なんですね!
そんなことを全然感じなかった自分は、まだまだダメだなぁー。何度もこの写真を見てるのに・・・。
恥ずかしいです。
by イワタニ (2015-09-04 20:09)
いえいえ、王宮は門衛がいる入口より、もっと奥まったところにあるので、写真に写っているのは門衛の詰所です。
オヨ、アベオクタ、イバダンの王宮は、どこも敷地がけっこう広かったです。
by bunboni (2015-09-04 20:14)