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イズミールのアナトリア音楽を想って ヤニス・コツィーラス [東ヨーロッパ]

Estoudiantina Neas Ionias & Yannis Kotsiras.jpg

聴き終えて、しばし陶然。言葉も出ません。
ここ数年のギリシャ音楽で、こんな素晴らしいアルバムがほかにあったっけか。
すごい傑作が登場したものです。

90年にデビューしたというライカの男性シンガー・ソングライター、
ヤニス・コツィーラスの名は、寡聞にして初めて知りましたけど、
ハリス・アレクシーウとの共演歴もある中堅どころの歌手だそう。
12年にリリースされた本作は、『愛のスミルナ』というタイトルが示すとおり、
20年代から第二次大戦前までにイズミールで育まれたアナトリア音楽の恋歌、
いわゆるスミルナ派のレンベーティカをカヴァーした企画アルバムとなっています。

失われたありし日のアナトリア音楽を再現しようという企画にもグッときますけれど、
それを見事に実現した演奏陣に、感服するほかありません。
アルバムの共同名義となっているエストゥディアンティーナ・ネアス・イオニアスは、
19世紀末から20世紀初頭にかけてイズミールで活動していたじっさいの楽団名だそうで、
00年代半ばに結成された30人編成(!)のアンサンブルです。

戦後のギリシャ音楽がトルコ音楽の養分を失い、
無骨な男っぽさばかりを強調するようになってしまってから、
優美な弦楽奏にのって歌われるセンチメンタルな恋歌は、
すっかり聴かれなくなってしまいました。
特に、ピレウス派が主流となったレンベーティカからは味わえなくなった、
この時代ならではの哀感のあるロマンティックな表情がたまりません。

ヤニス・コツィーラスの歌声も悩ましければ、
歌・演奏ともに上品さのあるケレン味があって、なんとも嬉しくなりますねえ。
そばのご婦人を誘って、踊り出したくなるような曲もありますよ。

歯切れ‎のよいブズーキ、艶やかなヴァイオリン、華やかなツェンバロンなどが
織り成す弦楽アンサンブルのアレンジは、
近年のトルコ古典歌謡のアンサンブルと呼応するような現代性を感じさせ、
トルコとギリシャが分断される不幸な歴史さえなければ、
このような音楽がずっと育まれていたんじゃないかとさえ、夢想してしまいました。
数曲インスト演奏もあるんですが、途中で倍テンポになるなどリズム・アレンジが絶品です。

ここのところトルコの古典歌謡が花盛りで、
それに比べてギリシャ音楽は……なんて思ってたんですけれど、
これにはもう完全に脱帽、絶賛するほかありません。
願わくば、この1枚の企画作に終わることなく、
イズミールのアナトリア音楽を現代に蘇らせる試みが、
ほかでもどんどん起きてほしいですね。

Estoudiantina Neas Ionias & Yannis Kotsiras "H SMYRNE TOU EROTA" Minos/EMI 50999 602975 2 5 (2012)
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