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絶望をくぐり抜けた男のR&B ケム [北アメリカ]

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いまだ傷の癒えぬ苦みの強さ。
甘美な歌の表面の薄皮を一枚めくると、底知れない絶望の深さが横たわっている。
21世紀のブルース衝動とも呼びたくなる、独特のセンスにやられてしまったケムの前作。
聴けば聴くほどに入れ込んでしまい、21世紀の名盤と自分の中で位置づけていた頃、
ご本人のライヴを観れたのはラッキーでした。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2013-01-22

あの前作から、4年。
その間にクリスマス・アルバムがありましたけど、あれは数えなくてもいいでしょう。
新作は前作の苦みが消え、重苦しさからも解き放たれ、身のこなしが軽くなったのを感じます。
ロナルド・アイズレーの新作でケムが提供した
“My Favorite Thing” がこちらにも収録されています。
スヌープ・ドッグがゲスト参加していたのは意外でしたけれど、
ケムの世界にしっくりと染まっていて、浮いた印象はありません。

ところで、昨年ブルーノートでケムを観た際に、
隣合わせた熱心なケム・ファンの女性から教えてもらったのは、
ケムはアメリカではこんな小さなクラブではけっしてやらないということ。
スタジアム・クラスのコンサートが常だというので、すごく意外に思いました。
ケムの歌が持つパーソナルな感触は、スタジアムじゃあ、とても共有できるとは思えないからです。

ケムの歌は、客の顔が見えるようなクラブぐらいの箱が、むしろ適当なはず。
それぐらいケムは大物だということを彼女は説明したかったようですが、
スタジアムのコンサートだったら、ぼくはケムを観に行きませんね。
例えていうなら、シャーデーを聴きに行くのに、
スタジアムなんぞに行きたくないと思うのと同じですね。

ところでそのケムは、新作の発売日と前後して、
毎年地元デトロイトで主催しているイヴェントに今年も出演したそうです。
そのイヴェントはホームレス支援を目的として始めた無料コンサートで、
デビュー以前ホームレスで薬物中毒だったこともあるケムが、
モータウンの看板シンガーとして成功を収めた後も変わらずに続けているもので、
今年で5回目だそうです。

そんなエピソードに、ますますこの人は信頼できるとぼくは思うのでした。

Kem "PROMISE TO LOVE : ALBUM Ⅳ DELUXE EDITION " Universal Motown B002145602 (2014)
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