アゼルバイジャンのムガーム名人たち [西アジア]
アゼルバイジャンの伝統音楽ムガームを代表する歌手といえば、
アリム・ガスモフが真っ先にあげられますけれど、
SP録音時代のムガーム歌手たちを、これまで聴いたことがありませんでした。
今回イランのマーフール文化芸術協会からリリースされた、
20世紀前半に録音されたアゼルバイジャンの名歌手たちによるムガームの録音集は、
そんなぼくにとっては興味シンシンのアルバムです。
なんでも、05年にアゼルバイジャンで非営利目的で出版された16枚組CDブックをもとに、
マーフールが2枚組に再編集したものだそうで、
本盤には10人の歌手による35曲が収録されています。
歌手のほぼ全員がシュシャ出身で、
アルメニアとの紛争が続くナゴルノ・カラバフを出自としているのが注目されます。
ナゴルノ・カラバフは、アゼルバイジャンの西部にある自治州だった地域で、
アルメニアとアゼルバイジャンが領有権をめぐって激しく争い、
現在、事実上アルメニアの支配下となっています。
92年に共和国として独立宣言したものの、
独立を承認する国のない未承認国家となっている地域ですね。
なかでもアゼルバイジャン人にとって文化的な中心地であり、
音楽と文学の古都であるシュシャは、90年代前半の戦闘によって、
多くの史跡が焼失し破壊されてしまいました。
そのシュシャで最高のムガーム名人とされた
ジャッバール・カーリャークディ=オグル(1861-1944)が、
もっとも数多い8曲を収録しています。
アリム・ガスモフが25歳で優勝したのも、
ジャッバールの名を冠した歌唱コンテストだったそうですね。
このほか収録されているのは、メジド・ベーブドヴ、イスラム・アブドラエフ、セイド・シュシンスキー、
ズルフィー・アデゲザーロフ、ハン・シュシンスキー、ヤグーブ・マメドフ、
アブリファート・アリエフといった往年のハネンデ(ムガーム歌手)たち。
イランの古典声楽アッバースに特有の、
裏声と本声を行き来する技巧を駆使する歌唱法タハリールが多用され、
ムガームがイラン古典声楽と共通する
西アジアの芸術様式を持つものだということを再認識させられます。
Jabbar Qaryaghdi-oghlu, Kechechi-oghlu Mahammad, Meshhedi Memmed Ferzeliev, Mejid Behbudov and others
"GREAT SINGERS OF THE REPUBLIC OF AZERBAIJAN" Mahoor Institute of Culture and Art M.CD387
2015-01-16 00:00
コメント(4)
エル・スールから先月末に届いたのを、今日ようやく聴きましたが、こりゃ素晴しすぎる。これほどまでとは想像していませんでした。
特に一枚目の9曲目〜12曲目のシェイド・シュシンスキーが、本当にとんでもなく物凄いことになっていて、腰を抜かしました。
アリム・ガスモフも、今年になって去年の作品を初めて聴いてぶっ飛んだゴチャグ・アスカロフも最高級ですけど、こういう素地があったんですねえ。
今年のリイシューNo.1はE.T.メンサーの四枚組で決りだろうと思っていたら、どうやらこっちの方が凄いです。
by としま (2015-05-09 16:06)
セイド・シュシンスキー、スゴイですよね。ドラマティックで。
いまのムガームがやや芸術様式に洗練されすぎたきらいもあるので、
この当時の民俗的で、いきいきとした表情がすごく新鮮に聞こえます。
by bunboni (2015-05-09 16:19)
こういうのを聴くと、イラン〜トルコ〜アゼルバイジャンあたりの音楽が完全に一繋がりなのが、よく分ります。
ブックレット、英語でも書いてあって大変助かるのですが、唯一残念なのは、曲毎の録音年の記載がどこにもないことです。
by としま (2015-05-09 16:22)
まさしく、文化の交差点を聴くという実感があります。
蝋管時代の録音ゆえ、録音年の記録が残っていないのかもしれませんね。、
by bunboni (2015-05-09 16:48)