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『淡淡幽情』カヴァー・アルバム 楊曼莉

楊曼莉 淡淡幽情.jpg

テレサ・テンの『淡淡幽情』をカヴァーするとは、こりゃまた大胆な。
熱狂的なテレサ・ファンが、眉を吊り上げそうな気もしますが、
中華歌謡の歴史的傑作に挑戦しようという試みは、
そんじょそこらの歌手にできる芸当じゃありませんよねえ。

そんなハードルの高い試みにトライしたのが、楊曼莉(ヤン・マンリー)。
大陸出身で、99年に香港へ移住後、歌手活動を始めた人です。
いわゆるカヴァー・シンガーと呼ばれる人で、中華歌謡のヒット曲や
日本の歌謡曲を専門に歌っているんですが、なかでもテレサ・テンのカヴァーが得意で、
香港のテレサ・テン・ファン・クラブにも認められ、
数多くのテレサ由縁のコンサートで歌っています。

ぼくがヤン・マンリーを初めて知ったのは、07年作の『一潮紅霞』でした。
これもテレサ・テンのカヴァー集なんですが、
ヤン・マンリーの声質じたいがテレサとよく似ているうえ、
歌いぶりも実に上手く真似ていて、驚かされたものです。
テレサ・テンのファンならばわかってもらえると思うんですが、
テレサのカヴァーと聞くと、聴きもしないうちから、「どうせダメだろ」と思いがち。

天才歌手テレサと同じように歌えるわけがないと考えてしまうからなんですが、
その昔、フェイ・ウォンとかいう、スカしたアーティスト志向のポップ歌手がカヴァーした、
できそこないのカヴァー・アルバムに怒り心頭となった古傷があるもので、
テレサのカヴァーと聞くと、人一倍神経質になってしまいます。
ですが、ヤン・マンリーはじっさいに聴いてみて、
これはテレサに迫るとナットクできた、数少ない人でした。

で、この『淡淡幽情』もよく歌えていて、立派な仕上がりになっていました。
オリジナル・アルバムの全12曲をまったく同じアレンジで歌っており、
一部曲順を変えているものの、完全カヴァー・アルバムになっています。

あまりによく出来ているので、ちょっと意地悪ですが、聴き比べをしてみました。
すると、う~ん、さすがに違いがはっきりしますね。
まず、ヴィブラートのナチュラルさが違います。
ヤン・マリーのヴィブラートには、はっきりと技巧を感じるんですけれど、
テレサのヴィブラートには、計算している感じがまるでないんですね。
自然と、語尾に美しいヴィブラートが付くという感じ。

そして、決定的な違いが、ディクションの明瞭さです。
テレサはどんなに小さくつぶやくように歌っている時でも、
発音が鮮明で、声が前に出てくるんですね。
声の輪郭がくっきりとしていて、エッジが立っているのが聴き取れるんですよ。

それに対して、ヤン・マリーの柔らかく甘い声は、
小さな音量で歌うと、声の輪郭がぼやけ、
どこか紗のかかったような、くぐもった感じに聞こえます。
テレサとヤンでは声の解像度がぜんぜん違うというか、
音量の小さい時に、それが歴然とした差となって表われます。

なるほど、どんなに上手く真似てみても、歌の天才とはこんなふうに違うのかと、
目を見開かされる思いがしますけど、それはわざわざ聴き比べてようやく感じること。
『淡淡幽情』初のカヴァー・アルバム、上々の出来栄えで、十分楽しめる内容です。

楊曼莉 「淡淡幽情」 雨林唱片 H230 (2014)
コメント(2) 

コメント 2

土木作業員

懐かしや、楊曼莉!新譜を追っかけなくなってしばらく経ちますが、とうとう淡淡幽情に挑戦したのですね。デビュー当初より、ずっとテレサを意識して歌ってたように思います。
ディクションの明瞭さの違いを看破されてて、思わず「なるほど〜」と唸ってしまいました。ヤンさんの、淡淡幽情、聴いてみます〜。
by 土木作業員 (2015-07-08 20:25) 

bunboni

聴き比べ、なんてヤらしいことしなければ、立派な出来で、
きっと気に入られると思います。
by bunboni (2015-07-08 20:39) 

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