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微分音の味わい ジプシー・シーサコーン [東南アジア]

Yibsee Srisakorn  SEE KA SUNG NARK.jpg

ジプシー・シーサコーンの新作が出ましたね。
タイの仏教歌謡レーを歌う少女歌手なんですが、
新作は大人ぽくなって、浅田真央と見まがうお顔立ちになりました。
ただ残念ながら、ピヤピヤ音のキーボードとドン臭いドラムスのプロダクションが、
ひと昔前のルークトゥンに戻ってしまったようなプアさで、ガックリ。
やっぱ今のところ、ジプシーの最高作は、デビュー作につきるかなあ。

もっと本格的な伝統歌謡のフォーマットで歌わせたら、
すごい傑作を作れる人だと思うんですけれど、
地味なレーだけ歌ってたら、売れないんだろうし、
ルークトゥン調のプロデュースをしないと、幅広い人気を掴むことができないんでしょうねえ。

それにしても、ジプシーのデビュー作にはびっくりしました。
仏教歌謡レーは、タイ伝統音階の7等分平均律を5音音階の旋法で歌う、
タイの伝統色がたっぷり味わえる音楽なので、ずっと注目していたんですけれど、
その実像がよくわからないナゾの音楽でもありました。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2013-12-12
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2013-12-14

それまで男性歌手のレーしか聴いたことがなかったので、
こんなアイドル然としたジャケットの少女がレーを歌っているというのに、まずびっくり。
聴いてみたら、これまたすごい本格的な歌いぶりに、2度びっくりです。
微分音が揺れ動くこぶし使いが実に繊細で、その歌唱力の高さに圧倒されます。
きっと、ちっちゃい頃からずっと歌ってきた人なんでしょうねえ。
伝統歌謡の節回しがしっかり身についていて、完成度の高い歌唱を聞かせてくれます。

アコーディオン(一部オルガンも加わる)、ベース、ギターを中心に、
トー(太鼓)、チン(小シンバル)などのパーカッション数台というシンプルなバックで、
ぽこぽことしたのどかなリズムで、ずっと同じテンポの曲が続きます。
サックスやホーン・セクションがフィーチャーされる曲もありますが、
あくまでもアクセントをつける程度。聴き始めは単調なように思えても、
ジプシーの巧みな歌い回しに惹きつけられ、そのサウンドに入り込んでしまうと、
ゆったりと大きくうねるグルーヴには催眠性があり、ナチュラル・トリップできます。

微妙な起伏を繰り返すメロディもレーらしいところで、
<ふんがふんが>とハミング(?)するのは、レーの特徴といえます。
聴いたことのない人は、ちょっと意味不明かと思いますが、レーを知る人なら、わかりますよね。
そういえば、この<ふんがふんが>ハミングは、新作にはぜんぜん登場しません。

12年のセカンド作“HARM LHOK BORK KORN” は、新作“PRA ONG RAEK” と同じ
ルークトゥン調にお化粧したアルバムでしたけれど、
1曲ピーパート編成で中部タイ民謡のチョイを歌っていたのが聴きものとなっていました。
でも、やっぱりレーに派手なドラムスが入ると、うるさくってジャマだなあ。
デビュー作でもサンプルらしきハイハットの刻み音は聞こえますけれど、控えめな使い方なので、
歌の微分音をじっくりと味わうのにジャマではありませんでした。

むしろこの微分音の感覚は、西洋音階の12音音階に慣れた人には、相当抵抗があるはず。
先日のミャンマーのスライド・ギターも、「吐きそう」と表現していた人もいたくらいだから、
このタイの7等分平均律も、知らない人には結構なカルチャー・ショックだと思います。
なので、絶対音感保持者にはおすすめいたしません、ハイ。

ミャンマーの仏教歌謡がソーサーダトンなら、タイはジプシー・シーサコーンですよ。

Yibsee Srisakorn "SEE KA SUNG NARK" Four’s 4SCD5090 (2011)
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