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作曲と即興の対話 ヘンリー・スレッギル・ゾーイド [北アメリカ]

Henry Threadgill Zooid  IN FOR A PENNY, IN FOR A POUND.jpg

あけましておめでとうございます。

年明け早々フリー・ジャズっていうのも、妙な取り合わせでしょうか。
ヘンリー・スレッギルの新作が出ていたことにずっと気付かず、
暮れぎりぎりに聴きながら、年間ベストに潜り込ませるのもためらわれ、
年明け第1弾とさせていただきました。

この新作2枚組、いつもと変わらぬスレッギル節が詰まっているんですけれど、
これまでになくわかりやすく、
完成度の高いコレクティヴ・インプロヴィゼーションに感じ入りました。
スレッギルの複雑なコンポジションを演奏するには、
長年一緒に演奏してきたメンバー同志の、あうんの呼吸が必要なわけで、
11年の前作“TOMORROW SUNNY / THE REVELRY, Spp” から、
ベースの武石務が抜けただけの今回のメンバーは、鉄板ですね。

変則的なリズム構成のうえに、怪しげな音を配列したスレッギルのコンポジションを
よく理解したメンツが奏でる即興演奏は、
いわゆるジャズの語彙から離れていて、フリー・ジャズと呼ぶ必要すら感じないものです。
音楽を最高度に自由な境地で演奏しているという意味では、
素直に、「フリー・ミュージック」と呼べばいいと思いますね。

スレッギルだって、この境地に至るまで、長い道のりがありました。
前衛ジャズの典型ともいえる、演劇的な演奏だって、さんざんやってきたし、
そういう皮相のジャズの語法やグルーヴの快感を捨てて、
スレッギル流の集団即興の方法論を作り上げ、
メンバーとともにこの叙事詩のような音楽を磨き上げてきたといえるんじゃないでしょうか。
かつての名盤“TOO MUCH SUGAR FOR A DIME” のカッコよさも忘れられないんだけど、
ゾーイドになってからのスカスカのアンサンブルの方がより自由度を増していて、ぼくは好き。

高い技量を発揮していても、聴き手に緊張を強いることなく、
ユーモアや遊びゴコロも感じさせる自然発生的な旋律が踊る演奏は、
ぼくが大好きなブラジルのショーロと、相通ずるものがあります。
フリー・ジャズとショーロの両方を聴く人はあまりいないかもしれませんが、
ぼくがヘンリー・スレッギルが好きなのは、
ショーロと同じように聴けるからという理由が一番大きいんですよね。

和声より対旋律の動きを追う面白さは、ショーロの醍醐味でしょう。
スレッギルの方は和声との調和をわざと無視して、旋律を動かしていくからこそ、
より複数の旋律を積み上げる快楽があるといえます。
一聴、耳障りな音が、耳障りの良い旋律に転化するところは、
ショーロにないスレッギルの音楽の魅力です。

サックス、フルート、チューバ、トロンボーンの管楽器と
ギター、チェロの弦楽器がちょこまかと動き回る様子は、
半径30センチくらいのところを、いったりきたりする独楽鼠のよう。
自分の周りで遊びまわる、カワイイ小動物を眺めている気分というか、
お掃除ロボットのルンバを眺めているような楽しさを覚えます。

Henry Threadgill Zooid "IN FOR A PENNY, IN FOR A POUND" Pi Recordings PI58 (2015)
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