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ジャズ・ベーシストがみた南ア黒人音楽絵巻 ハービー・ツオエリ [南部アフリカ]

Herbie Tsoaeli  African Time.jpg

時間を見つけては、ここ10年くらいの南ア・ジャズの旧作を、
あいかわらずほじくり返してるんですが、
良作がけっこうあって、目を見開かされ続けています。
嬉しくなってしまったのは、十把一からげに「南ア・ジャズ」のひとことで括れない、
いろいろなタイプの音楽が聞けることで、
さらに、個性豊かなサウンドのいずれもが、
しっかりと南ア音楽の伝統を背負っていることに、あらためて感動を覚えました。

若手では、モーダルな伝統ジャズを聞かせるボカニ・ダイアーがいれば、
ジェイソン・モラン、クレイグ・テイボーン、ビジェイ・アイヤーからの影響を公言する、
いかにも新世代らしいカイル・シェパードがいることは、前回の記事でも触れたとおり。
フュージョンでは、ジンバブウェ出身のルイス・ムランガや、
ジョージ・ベンソンそっくりさんのジミー・ドラッドルという、
超売れっ子のふたりがいます。
また、南ア・ジャズというよりは、タウンシップ・ジャズというべき
マラービ色の強い演奏を聞かせる、
レソト出身のブダザ・マペファネのような人もいて、まさしく百花繚乱。

どのようなスタイルを持つミュージシャンであれ、どの人の演奏にも、
南アらしい教会音楽系のメロディがくっきりと刻印されていて、
黒人音楽の伝統を汲んだ歌をフィーチャーしたアルバムも、数多くあります。
ロック、R&B、ヒップ・ホップ、ハウスやテクノなどのグローバル化が進むのに並行して、
南ア音楽の独自色を薄めていくなかで、
南ア・ジャズとその周辺の音楽は、
南ア音楽の伝統をしっかりと継承しているといえそうです。

2013年の南アフリカ・ミュージック・アワードの最優秀ジャズ・アルバム賞に輝いた本作は、
20年近いキャリアを持ち、南ア・ジャズ・シーンでもっとも信頼されるベーシストの一人、
ハービー・ツオエリの遅すぎた初リーダー作です。
いわゆるアワードを信用しないぼくも、本作はケチのつけようのないクオリティの高さで、
南ア・ジャズといわず、南ア黒人音楽ファン必聴の傑作といえます。
ちなみに、この時のノミネート作品で、本作と受賞を争ったのが、
カイル・シェパードの“SOUTH AFRICAN HISTORY !X” だったんですね。

どっしりとした重心の低いジャズ作品でありながら、
多くの曲でハービーの歌をフィーチャーしているのが、聴きどころ。
いわゆる歌ものではなく、チャントであったり、
スキャットであったり、コーラス・パートのハミングなどで、
ハービーの低音のかすれ声が、コクのあるノドを聞かせます。
スモーキーな味わいを醸し出すその歌からは、
南ア黒人音楽が持つ深みが自然ににじみ出ていて、
ヴェテラン音楽家だからこその、構えない自然体が成しえた手柄といえますね。

各曲でデディケイトされているミュージシャンに、
ルイス・モホロ、ヴィクター・ンダラジルワナ、モンゲジ・フェザ、
ベキ・ムセレクといった名前があげられているほか、
無名の芸術家や労働者にも捧げられた曲もあります。
伝統的な賛美歌を解釈した曲でアルバムを締めくくっていて、
南ア音楽の歴史を体現した本作は、
ジャズ・ベーシストがみた南ア黒人音楽絵巻といえそうです。

Herbie Tsoaeli "AFRICAN TIME" Sheer Sound SLCD223 (2012)
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