SSブログ

イスラエル人ロッカーと古典アラブ歌謡 ドゥドゥ・タッサ&ザ・クウェイティス [西アジア]

Dudu Tassa & The Kuwaits 2011.jpg   Dudu Tassa & The Kuwaits  ALA SHAWATI.jpg

写真家/音楽評論家の石田昌隆さんが、
「ミュージック・マガジン」1月号に書かれたイスラエル訪問記は、
ひさしぶりに音楽好奇心を思いっ切りくすぐられる、刺激的な読み物でした。

最近何かと話題になるイスラエルですけれど、
石田さんが取材されたドゥドゥ・タッサという音楽家にガゼン興味がわいて、
記事に紹介されていたCD2枚を、イスラエルにさっそくオーダー。
年末をはさんだせいか、ひと月近くかかりましたが、無事到着しました。

ロック・シンガーというドゥドゥ・タッサが、
普段どんなロックを歌っているのかはまったく知りませんが、
今回手に入れた2枚のアルバムは、30~40年代にイラクで人気を博した
サレーハ&ダウード・アル・クウェイティ兄弟の曲を現代化してカヴァーしたものです。
サレーハはドゥドゥの大叔父で、ダウードは祖父なんだそうです。

ドゥドゥ・タッサはイラク系のイスラエル人で、
アラブ世界をルーツとするオリエント系ユダヤ人、すなわちミズラヒムなのですね。
多数派アシュケナジーのイスラエルで、
ミズラヒムを標榜するような音楽をやるのが困難だった時代は、
ようやく終わろうとしているのを実感します。
クォーター・トゥ・アフリカの登場といい、なんだか感慨深いものがあります。

その昔、人気女性歌手のゼハヴァ・ベンが
ウム・クルスームのカヴァー・アルバムを出して、
コンサートを開いた時も、大騒ぎになったもんなあ。
日本の新聞にも記事が載ったほどですからね
それぐらい、イスラエルでアラブ音楽をやることは、はばかれたということです。

Zehava Ben  LOOKING FORWARD.jpg   Zehava Ben  SINGS OUM-KALSOUM.jpg

じっさいゼハヴァは、いくつかのアラブ諸国からボイコットも受けていましたしね。
ゼハヴァ・ベンは、モロッカン・ジューイッシュの家系のミズラヒムで、
デビュー作の表紙にも、“Hebrew Arabic Maroccan” とくっきり書くほど、
ミズラヒムのシンガーであることを内外に示して登場した、肝の据わった人でした。
ウム・クルスームに敬意を表して歌うことは、彼女だからこそでしたね。

石田さんの記事によると、ドゥドゥ・タッサはアラビア語を話せないものの、
アラビア語で歌っていて、その無頼な歌いっぷりは、
シャアビやライのシンガーを思わす味わいがあって、ゾクゾクしちゃいました。
11年作の7曲目や15年作の4曲目なんて、まるでハレドみたいじゃないですか。
いやあ、いい歌い手ですねえ。
アラブふうのこぶし回しも、なかなかのもので、
ほんとにイスラエル人?とか思っちゃいました。

パレスチナ人3人を含むバンドのザ・クウェイティスは、
いにしえのアラブ歌謡に、ロック・バンド・サウンドをアダプトして聞かせたり、
ウード、ヴァイオリン、カーヌーンといったアラブの弦の響きをいかした
さまざまなアレンジで、古きアラブ歌謡の味わいを濃密に抽出します。
これほどアラブ音楽の核心を捉えて、現代化に成功した作品もないんじゃないかな。
ラシッド・タハの『ディワン』を軽く超えちゃいましたね。

変則チューニングのギター伴奏で歌う曲では、
スラックキー・ギターのようなサウンドに耳を奪われたり、
アラブ古典の弦セレクションとコーラスを配した
アラビック・レゲエが、途中でバルカンに越境するような曲があったりと、
多彩なサウンド・カラーリングにも才能を感じさせます。
アレンジがどれも小手先の器用さではなく、
濃厚なアラブの味わいがドロリと滴り落ちてくるところがスゴイ。

すごい人、見つけてきたなあ、石田さん。さすがです。

【追記】2018.2.2
深沢美樹さんからサレーハ&ダウード兄弟のCDの存在について指摘いただきました。
すっかり忘れていましたねえ。ミュージック・マガジンの2008年10月号で、
単独復刻のARC Music盤を深沢さんがご紹介されていたのでした。
ほかにも、ダウードの録音が、Renair盤とHonnest Jon's盤にも収録されています。
深沢さん、ありがとうございました。

Daoud & Saleh Al-Kuwaity.jpgShbahoth.jpgGive Me Love.jpg

Dudu Tassa & The Kuwaitis "DUDU TASSA & THE KUWAITIS" Sisu Home Ent./Hed-Arzi 64989 (2011)
Dudu Tassa & The Kuwaitis "ALA SHAWATI" Sisu Home Ent./Hed-Arzi 08650562H (2015)
Zehava Ben "LOOKING FORWARD" ABCD Music CD010 (1994)
Zehava Ben "SINGS OUM-KALSOUM" Helicon 88105 (1995)
Daoud & Saleh Al-Kuwaity "MASTERS OF IRAQI MUSIC" ARC Music EUCD2154
Hagguli Shmuel Darzi, Selim Daoud, Yishaq Maroudy, Shlomo Mouallim, Israelite Choir
"SHBAHOTH : IRAQÍ-JEWÍSH SONG FROM THE 1920'S" Renair REN0126
Sayed Abbood, Salim Daoud, Said El Kurdi, Hdhairy Abou Aziz, Sultana Youssef, Mulla Abdussaheb and others
"GIVE ME LOVE : SONGS OF THE BROKENHEARTED - BAGHDAD, 1925-1929" Honest Jon's HJRCD35
コメント(0) 

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。