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戦意喪失する軍楽 [西アジア]

Qajar Era Martial Music.jpg

イラン古典音楽の名門レーベル、マーフール文化芸術協会から、
いにしえのイラン軍楽のヴィンテージ録音集がリリースされました。
原盤となったのは、1906年にイギリス、グラモフォンがテヘランで出張録音した音源。
当時グラモフォンは、7インチ盤6面と10インチ盤20面を録音しましたが、
7インチ盤は未発見で現存せず、10インチ盤に残された20曲のうち17曲が、
本CDに収録されています。

軍楽というと、オスマン帝国の軍楽メフテルが有名ですけれど、
イランの軍楽を聴くのは、ぼくはこれが初めて。
LP時代に復刻されたことがありましたっけ?
たぶんこれが、初の復刻なんじゃないかと思うんですけれども。

1906年のイランというと、歴史の教科書を紐解けば、
ガージャール朝第5代君主モザッファロッディーン・シャーの時代。
イギリスやロシアの半植民地に下り、経済的権益を外国に奪われた暗い時代でした。
そんな頃に、大国ロシアが日本に負けるという日露戦争や、
ロシア第一革命などを契機に、イラン人の改革意識が高まり、立憲革命が起こりました。
1906年は、まさにイランで初めての憲法が起草された年です。

一方で、近代化に向けてさまざまな変革を迎えた時代でもあって、
本作の解説によれば、イランの軍楽は、1851年にテヘランで開学した
ダーロル・フォヌーン校が迎え入れたフランス人音楽教師によって、
軍楽隊が編成された時に始まったとあります。

聴いてみると、ビューグル(軍隊ラッパ)もしくはクラリネットの独奏で演奏が始まり、
前奏が終わると、軍楽隊のオーケストラ演奏になるという形式をとっています。
オーケストラ演奏のリズムこそマーチで、
マーチング・バンドらしいとはいえるんですけれど、
ダストガーにもとづく旋律が奏でる前奏は、なんとも陰影のある哀感に満ちたもので、
およそ軍楽のイメージからは遠いものです。

こんな物悲しいメロディばかり聴かされたら、
戦意なんて喪失しちゃうと思うんですけれどもねえ。
戦場へ向かうどころか、脱走兵続出になっちゃうんじゃ。
イラン人はこういうしみじみとしたメロディで戦意高揚できるんでしょうか。

ビューグルやクラリネットの前奏のつかない、軍楽らしい楽隊演奏の曲も4曲ありますが、
それとて、やっぱり旋律は憂いたっぷりだし。
異邦人には理解しがたい、ヨーロッパの軍楽ともトルコ軍楽メフテルとも趣を異にする、
世にも不思議な軍楽です。

Shâni Orchestra, Etezâdiye Band, Qoli Khân Yâvar, Ebrahim Khân Yâvar, Soltân Ebrâhim Khân
"QAJAR ERA MARTIAL MUSIC : 1906 RECORDINGS ON 78 RPM RECORDS" Mahoor M.CD514
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