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コンゴ独自のルンバ誕生史物語 [中部アフリカ]

Early Congo Music.jpg

『パームワイン・ミュージック・オヴ・ガーナ』から2年。
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2017-08-27
ついに出ました! コンゴ・ポピュラー音楽黎明期のヴィンテージ録音集。
深沢美樹さん所有のSPコレクションから選曲、
健筆もふるった48ページの日本語解説(プラス全文英訳!)付きという、
世界中のアフリカ音楽ファンが瞠目する2枚組ボックスです。

アフリカ全土に影響を及ぼしたコンゴ生まれのルンバがどのように誕生したのか、
それは長い間ベールに包まれたままでした。
コンゴで誕生した独自のルンバが50年代以降発展していく姿は、
ドイツのポピュラー・アフリカン・ミュージックやベルギーのクラムド・ディスクが
優れた編集盤を出していましたけれど、それより以前の40年代録音は
ウェンドの大ヒット曲「マリー=ルイーズ」1曲を除き、
ずっと未復刻のままだったからです。

今回深沢さんは、その知られざる40年代録音から復刻するというので、
大期待していたんですけれど、ディスク1冒頭1曲目でもう、快哉を叫んじゃいました。
コンゴで初めて「ルンバ」と記されたというその音源、
なんとブラス・バンドじゃないですか。
オルケストル・オデオン=キノワ名義のその2曲から、
これぞアフリカ・ポピュラー音楽史の醍醐味と、ウナりましたよ。

「コンゴ・ポピュラー音楽の父」と呼ばれる、
ウェンドのギター弾き語りスタイルに代表されるとおり、
歴史は素朴なギター弾き語りから始まった、な~んて思いがちじゃないですか。
でも、アフリカ大衆音楽の歴史を少しカジっている人なら、
ぜんぜんそうじゃないことは、ご存じですよね。
ゴールド・コースト(現在のガーナ)やナイジェリアしかり、南アしかりです。

はじまりは軍楽隊がもたらしたブラス・バンドであり、ミッション系合唱の賛美歌であり、
アフリカのブラックネスとはほど遠い、<白い>音楽がそのスタートだったのです。
その演奏も<素朴>どころか、模範とする西洋音楽の洗練をしっかりと獲得したもので、
じっさいこの冒頭の1曲目でも、対位法のアレンジを用いた
見事なブラス・アンサンブルを聴くことができます。

その後は、西アフリカのパームワイン音楽に影響されて誕生したという
ギター音楽のじっさいを聴くことができるんですが、
20年代に西アフリカの労働者たちがもたらしたギター・スタイルの痕跡が
くっきりと表れているのには、興奮させられましたねえ。

ゲイリー・スチュアートの著書などで、西アフリカのパームワイン音楽の影響が
コンゴ音楽黎明期にあったとは知っていても、
具体的な音資料で聴くことができないものだから、いまひとつピンとこなかったんですよ。
だって50年代以降の録音を聴くと、
ルンバの独自のギター・スタイルがもう出来上がっていて、
そこにはパームワインの影響など、微塵も感じられなかったからです。
ウェンドの48年録音だって、そのギターにパームワインの影は感じられませんでした。

しかし、ここに収録されたデ・サイオの46年録音や
コジア・アレクサンドルの46-47年録音、レオン・ブサカの48-49年録音、
オリヴェイラの50年録音などを聴くと、いずれも20年代のパームワイン音楽の
ギター・サウンドと共通している点が聴き取れます。
それは、クワメ・アサレのような前のめりにつんのめるビート感を持つ、
デルタ・ブルース的なサウンドとはまた違ったギター・スタイルです。

特に、低音弦がステデイなベース音を鳴らし、せわしないアルペジオを奏でるところは、
20年代のジョージ・ウィリアムス・アインゴなど、
ファンティ人やガ人のパームワイン・ギタリストたちと共通するフィンガリングで、
同時代アメリカのイースト・コーストの
ラグタイム系ブルース・ギタリストさえ想起させます。
これには思わず、なるほどぉ、とウナらずにはおれませんでした。
ようやく積年の謎が解けた思いですよ。

これがやがて、ディスク1のラストを飾るジミーの51年録音では、
アニマシオンまで聞ける、後年のコンゴ独自のルンバ完成型を聴くことができます。
ちなみにこの曲、フランス、ブダが先日出した編集盤
“NOSTALGIQUE KONGO: RUMBAS LINGALA, SWAHILI, KIKONGO & DOUALA
1950-1960” に収録され、タッチの差で世界初CD化の栄誉を譲りましたけれど、
本盤の方がヴォーカル、ギターともに輪郭がくっきりとしたガッツのある音質で、
マスタリングでは勝ちましたね。

ディスク1のことばかり書いちゃいましたけれど、
ディスク2に移ると、コンゴ独自のルンバがもう全面展開。
ゴツゴツとしたベースに、粘るオルガンもヘヴィーな黒光りするサウンドの、
55年の6・7曲目のアフリカン・ジャズなど、もう失禁ものでしょう。
コンゴ独自のルンバ誕生の歴史物語を鮮やかに描いてみせた作品、マスターピースです。

v.a. 「EARLY CONGO MUSIC 1946-1962: FIRST RUMBA, TO THE REAL RUMBA」 El Sur 009
コメント(2) 

コメント 2

飛鳥

ルンバと記された初録音曲がブラスバンド編成だったことに思わず「えー!」と声を上げてしまいました。私はてっきり、ウェンドのギター弾き語りのような音楽が最初だろうと思っていました。キューバのダンソーンも最初はブラスバンドだったことを思うと、当時は野外で演奏することが多かったのかなという思いもあります。
パームワイン音楽の影響については、私はピンとこなかったので、すぐに「パームワインミュージック・オブ・ガーナ」を買って聴いてみました。
というのも私は今までコンゴ・ルンバは、キューバ音楽のソンからの影響ばかりに頭がいっていたので、パームワイン音楽を聴いていなかったのです。でも今回パームワイン音楽も聴いてみたことで、つながりが見えてきた感じで、これからコンゴ・ルンバを聴き続けていく上で視野が広まる思いがしています。
本当にすばらしい録音集で、加えて日本語解説で読めることがありがたく思います。

by 飛鳥 (2019-08-17 00:21) 

bunboni

「野外」というご指摘、重要だと思います。パレードなどストリートで演奏されていたものが、小屋ないし屋内で演じられるようになって、マイクが使用されるようになったことが、ポピュラー音楽創生期の一大変化だったでしょうね。

あらためて思うのは、ギタリストとしてのウェンドのオリジナリティです。ウェンドだけは他のギタリストと違って、最初の録音時からギター・スタイルが独創的だったことが、よくわかります。
by bunboni (2019-08-17 09:20) 

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