SSブログ

モーリタニアン・サイケデリック・ギターの饗宴

Wallahi Le Zein!!.jpg

17年の夏に来日したヌーラ・ミント・セイマリを取材したとき、
ドラマーでプロデュサーのマシュー・ティナリから連絡先を渡され、
少しばかりメールをやり取りしたことがありました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2017-10-20
そのなかで、ヌーラの夫のギタリスト、ジェイシュ・ウルド・シガリのギターが聞ける
現地録音のCDがあることを、ティナリから教えてもらったんですね。
それがこのシカゴの無名レーベルから出た、“WALLAHI LE ZEIN!!” なのでした。

この2枚組CDは、
アメリカ人ジャーナリストのマシュー・ラヴォワがモーリタニアで集めた、
約700本のプライヴェート・カセットをもとに編集した、たいへんな労作。
モーリタニアン・ギター・ミュージックの獰猛なサウンドに、驚かない人はいないでしょう。
32ページのブックレットには、ムーア音楽の基礎知識から、
ヌアクショットの音楽の現状を詳述したラヴォワの解説が載せられていて、
一級品の資料といえるその内容の濃さにも、強烈な刺激を受けました。
サブライム・フリークエンシーズの作品に足りないものが、すべてここにはありますね。

これほどの名編集盤が、なぜ世に知られていないのか謎すぎるんですけど、
ティナリも「誰もこのCDを知らないんだ」と言っていたとおり、
ネットにもまるで情報がない(ひとつだけピッチフォークの記事を発見しました)、
激レア盤だったのでした。

ところが、つい最近、ミシシッピ・レコーズがこのCDを再発したんですね。
デジタル・リリースの28曲フル・ヴァージョンと、
11曲に短縮したLPヴァージョンが発売され、
今月号のミュージック・マガジンの輸入盤紹介にも載ったので、
あらためてこのCDの内容について、書いておこうという気になりました。
なお、ミシシッピから出たジャケットは変更されていますので、念のため。

ムーアのグリオが弾くギターは、ムーアの伝統楽器ティディニートを
ギターに置き換えて演奏していることは、すでによく知られていますね。
フレットを増やしたり抜いたりして、ティディニートのような微分音を出すための改造をし、
ディストーションやフェイザーをかけ、轟音ロック顔負けの強烈な磁場を生み出します。

これほど激烈なサウンドスケープは、
トゥアレグのアンプリファイド・テハルダントといい勝負で、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-06-02
コノノNo.1に熱狂した人なら、夢中になること必至でしょう。

モーリタニアには、音楽産業がないんですね。
大衆音楽が娯楽として提供されるナイトクラブのような場もなければ、
カセットやCDを制作販売する業者も存在せず、音楽は、結婚式や誕生日祝い、
政治集会など、招待された者だけに振舞われるものとして存在しています。
そうした冠婚葬祭の場で録音された個人所有のプライヴェート・カセットを、
ラヴォワは何度も現地に赴いては、買い集めてきたのでした。

当然ながらその録音はローファイの極みで、
西洋人によってレコーディングされた伝統音楽のアルバムとは、
天と地ほどの違いがあるのも仕方がありません。

思い立ったラヴォワは録音機材を運び込み、02年の年末から03年にかけ、
30以上のレコーディング・セッションを敢行したものの、
クリーンな音質のデジタル録音は、生気を欠いた退屈なものにしかならず、
プライヴェート・カセットの生々しい躍動感に、遠く及ばなかったといいます。

自身によるフィールド・レコーディングを諦めたラヴォワは、
プライヴェート・カセットのコレクションから、
このコンピレーションを制作することにしたのですね。

ディスク1の1~5曲目には、俗にホワイト・ムーアと呼ばれる
ハラティン(アラブとベルベルのミックス)のギター・ミュージックが収録されています。
これまでディスク化されてきたムーア音楽は、
ほとんどがベイダン(アラブと黒人のミックス、俗にブラック・ムーア)の音楽のため、
ハラティンの音楽が聞けるのは貴重です。

ハラティンの社会には、ベイダンのようなイガウィン(グリオ)の階層がなく、
誰でも自由に音楽を演奏することができます。
ハラティンのギター・ミュージックは、ジャクワールと呼ばれてきましたが、
76年にベイダンのティディニートの名手ジェイシュ・ウルド・アッバが作曲した、
テンポの速いダンス・メロディがジャクワールと名付けられて流行したことから、
両者が紛らわしくなったために、ハラティンのギタリストのケブルは、
バンジーと呼び変えています。

そして、ディスク1の残りとディスク2は、ベイダンのギター・ミュージックで、
本作のタイトルとなった‘Wallahi Le Zein!’(「神に誓って、これはすばらしい!)という
熱狂する叫び声が、アテグ・ウルド・セイドの‘L'Ensijab’の2分30秒に収められています。

ババ・ウルド・ヘンバラのギターなんて、
エレクトリック・ティディニート以上にティディニートらしくて、
本来ティディニートは、こういうふうに鳴らす楽器なんじゃないかと思えるほど。
改造ギターのイノヴェイターであり、フェイザーを初めて使うなど、
革命的なギター・サウンドをクリエイトして多くのギタリストたちに影響を与えてきた
ルレイデ・ウルド・デンデンニのプレイもしっかり収録されています。

ここに収録されたギターが、どんなにサイケデリックな音響に聞こえようと、
ギターの奏法も、演奏される旋法も、ムーア音楽の伝統に忠実に沿っているんですね。
エレクトリック・ギターによって、ムーア音楽が逞しく更新されている姿を
鮮やかにドキュメントしてみせた、名コンピレです。

v.a. "WALLAHI LE ZEIN!! - Wezin, Jakwar And Guitar Boogie From The Islamic Republic Of Mauritania"
Latitude‎ 07 (2010)
コメント(0) 

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。