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ジャズ・サンバのニュー・ディメンション ジャニ・ドゥボッキ [ブラジル]

Gerry Mulligan with Jane Duboc  PARAISO.jpg

夏の疲れがたまってくると、手が伸びるチルな一枚。
今年もまた棚から取り出してきた、
ジェリー・マリガンとジャニ・ドゥボッキの93年コラボ作です。

ジャニ・ドゥボッキは、85年の“PONTO DE PARTIDA”(乞CD化!)でファンになった人。
フュージョン調の伴奏にのせて、スキャットを駆使した高い歌唱力を聞かせるところは、
MPBシンガーというより、
ジャズ・ヴォーカリストの資質をくっきりと映し出していました。
こういうと、キレッキレのタイプと誤解されちゃうかもしれないけれど、
じっさいは柔らかな歌い口で、大仰な表現をせず、静かに歌うタイプのシンガー。
そのジャニがジェリー・マリガンに乞われてニュー・ヨークで録音した本作は、
極上のリラクシン・アルバムに仕上がりました。

ジェリー・マリガンは、バリトン・サックスの第一人者というより、
作編曲家として優れた作品を残した音楽家という印象があります。
バリトン・サックスの深い音色をあれほど美しく吹奏できたのは、
マリガンをおいてほかにはおらず、
ブラジル音楽と親和性の高いジャズ・ミュージシャンという意味では、
ポール・デズモンドに共通するタイプと、ぼくには見えました。
じっさい二人は、若い頃共演もしていたしね。

ところが、ジェリー・マリガンがブラジル音楽に接近するのは、
ようやく晩年になってからのことで、なぜこれほど遅れたのか不思議ですが、
長年想像していたとおり、抜群の相性の良さを示してくれました。
レパートリーは、ジョビンの‘Amor En Paz’ ‘Wave’、
トッキーニョの‘Tarde En Itapoan’ をのぞいてすべてマリガン作の曲で、
ジャニが歌詞を書いています。

ジャニの温かな声質と、マリガンのふくよかなサックスがベスト・マッチングで、
ジャニのリリシズムに富んだ、繊細で丁寧な歌い回しのなかに、
ジャズ・ヴォーカリストらしい表現が鮮やかに示されています。
グレッチェン・パーラトのようなヴォーカル表現が高く評価されるいま、
現代的なジャズ・ヴォーカルの文脈から、本作は見直されてもいいんじゃないかな。

Gerry Mulligan  IDOL GOSSIP.jpg

レパートリーはジャズ・サンバあり、バイオーンあり、ボサ・ノーヴァありで、
ぼくの大好きなマリガンのアルバム、76年作の“IDOL GOSSIP” から、
‘North Atlantic Run’ をやっているのも、嬉しいんです。
この曲って、サンバだったんだよね。
テーマのメロディをハミングするジャニは、まるでショーロ・ヴォーカルみたいで、
グレッチェンの先取りともいえるんじゃない?

これほどの傑作なんですが、最大の難点はジャケットのアートワーク。
チャールズ・リン・ブラックなんて絵描きを起用する悪趣味が、いただけない。
ラッセンとかとおんなじ手合いで、カンベンしてよ、もう。

Gerry Mulligan with Jane Duboc "PARAISO - JAZZ BRAZIL" Telarc CD83361 (1993)
Gerry Mulligan "IDOL GOSSIP" Chiaroscuro CR(D)155 (1976)
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