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初のフル・アルバム・リイシュー シティ・ビンティ・サアド [東アフリカ]

Siti Binti Saad.jpg

ロニー・グレアムさんといえば、
88年に出版した“Stern's Guide to Contemporary African Music” に、
どれだけお世話になったことか。ぼくだけじゃなく、古手のアフリカ音楽ファンにとっては、
92年の続編ともども、マスト・アイテムの必携書でしたね。

ロニーさんは、グレイム・イーウェンズ、チャールズ・イスモンとともに、
アフリカ音楽のリイシュー・レーベル、レトロアフリックを共同経営して、
E・T・メンサー、フランコ、スーパー・イーグルスなど、
さまざまな音源を復刻してきたことでも良く知られています。

そのロニーさんが、タンザニア音楽のレーベル、レトロタンを再起動させました。
レトロタンは、94年にタンザニアでカセット・レーベルとして発足し、
シカモー・ジャズ、ビ・キドゥデなどの新作をはじめ、
ヴィジャナ・ジャズ、オーケストラ・マキの復刻など、新録から旧録まで、
ジャンルもムジキ・ワ・ダンシからターラブ、ヒップ・ホップまで幅広く扱っていましたが、
98年に財政が行き詰まり、倒産してしまったといいます。

そのレトロタンをもう一度復活させようと、活動再開にあたって、
リイシュー3タイトルをリリースしたんですね。デジタル・リリースのみなのですが、
ロニーさんがプロモCDを送ってくださったので、紹介したいと思います。

記念すべき活動再開第一弾アルバムは、
なんとザンジバル伝説の歌姫、シティ・ビンティ・サアドのSP録音集です。
昨年、世界中のアフリカ音楽ファンの間で、シティ・ビンティ・サアドのひ孫、
シティ・ムハラムのアルバムが話題沸騰になりましたけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-07-30
シティ・ビンティ・サアドのフル・アルバムのリイシューは、これがもちろん初。

リイシューの原盤となったのは、SPではなく、なんと出所不明の白レーベルのCD。
08年にザンジバルを訪れていたロニーさんが、
ストーン・タウンのギゼンガ・ストリートの雑貨店で見つけ、
いずれ正規な形で出せればと、ずっと保管していたのだそうです。
それがシティ・ムハラムとの出会いでライセンスを得たことによって、
レトロタン再出発の第一弾となったんですね。

シティ・ビンティ・サアドの初録音については、昨年の記事でも少し触れましたが、
シティの人気に目をつけた地元のインド人実業家が録音を画策したのが、事の始まり。
1928年3月、イギリスのグラモフォン社は、
インドのボンベイ(現在のムンバイ)にシティ・ビンティ・サアドを招いて、
グラモフォンの出張録音技師ロバート・エドワード・ベケットのもと、
東アフリカ人音楽家初の録音を行います。

シティの伴奏を務めたザンジバルの音楽家たちの出身は、さまざまでした。
リク(タンバリン)奏者のムワリム・シャーバン・ウンバイェは、
1900年マラウィ生まれ、コーラン教師としての訓練を受け、詩人で作曲家でもありました。
ヴァイオリン奏者ムバラク・エファンディ・タルサムは、1892年モンバサ生まれ、
そして、ガンブス奏者ブダ・ビン・スウェディと、
ウード奏者スベイティ・ビン・アンバリの二人が
地元ウングジャ(ザンジバル)島生まれでした。

カルカッタでプレスされた56枚のヒズ・マスター・ヴォイス(HMV)盤が、
東アフリカ沿岸部のスワヒリ語の地域向けに出荷されると、
飛ぶような売れ行きを示し、大成功を呼びました。
あまりにも売れるので、レコードは毎月10曲に限って発売され、
さらに売行きを伸ばしたといいます。

続いて2度目の録音が30年に、3度目の録音が31年に行われ、
シティは、レコード125枚に262曲を吹き込んだという記録が残っています。
しかし現存するのはその1割にも満たないといいます。
現存するSPはわずかであるものの、ソマリアやコモロのラジオ局に
アーカイヴ・コピーが残されていて、今回の音源もそうしたものの可能性がありそうです。

ちなみに、30年の2度目の録音では、エジプトの名歌手ウム・クルスームと出会い、
シティはウムから大きな歓待を受けたのだそうです。
ウムは、東アフリカで初の録音歌手となったシティの野心に感銘を受け、
シティと彼女のグループのために、公式のレセプションを開催したといいます。

3人の音楽家たちは、シティのバックで合いの手を入れたり、コーラスを歌ったり、
また時に奔放な動物が吠えるような擬態声をあげたり(‘Juwa Toka’)と、
生々しい演唱を聞かせます。

かなり音質の悪いトラックもあり、音質面では厳しいアルバムではありますけれど、
やせた音の中からも、艶めかしさをヴィヴィッドに伝えてくれる曲も多く、
シティ・ビンティ・サアド初のフル・アルバム・リイシュー、待望の貴重作です。

Siti Binti Saad "THE LEGENDARY MUMBAI RECORDINGS" RetroTan RT001
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