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スコティッシュ・ガーリックが弾む唄 ジュリー・ファウリス [ブリテン諸島]

Julie Fowlis Live.JPG

家族みんなが待ってたスコットランドの歌姫ジュリー・ファウリスの新作。
ぼくばかりでなく、奥さんや娘二人もジュリーの大ファンなのです。
それぞれ音楽の好みは違いながらも、
全員が「大好き!」と手放しに絶賛する、数少ないシンガーのひとりです。

「天性の発声」とでも表現すればいいのでしょうか。
ジュリーのディクションは、理屈抜きに美しいと、誰もが素直に感じるものですね。
その発声が生み出すリズム感と、透明感のある歌唱は、ほんの一節を耳にしただけでも、
道行く人の足を立ち止まらせ、思わず聴き入らせてしまう力があります。

そんなジュリーの新作は、待望のライヴ・アルバム。
前々作“CUILIDH” のスペシャル・エディションのボックスに、
たった1曲、ほんのオマケ程度にライヴが収録されたことがあり、
それ以来ぜひライブ・アルバムをと願っていたのは、ぼく一人ではなかったはず。

バックを務めるメンバーは、“CUILIDH” ボックスに収録されていた、
08年2月グラスゴーでの「ケルティック・コネクションズ」のライヴの時と同じメンバーで、
ブズーキのエイモン・ドアリー、フィドルのダンカン・チザム、ギターのトニー・バーン、
バウロンのマーティン・オニールの4人。ジュリーもホイッスルで演奏に加わっています。

「ケルティック・コネクションズ」のライヴでは、この4人のほか、
カパーケリーのメンバーであるドナルド・ショーのアコーディオンと
ユアン・ヴァーナルのベースも加わっていましたが、今回この二人は不参加。
その代わり(?)といってはなんですけど、
スコットランドのヴェテラン・シンガー・ソングライター、ダギー・マクリーンがゲスト参加して、
最後に1曲ダギーの“Pabay Mòr” を二人でデュエットしています。

冒頭、司会に促されて登場するジュリーは、いきなりアカペラでステージをスタートさせます。
もしこのアルバムが編集でなければですけど、最初からアカペラってのはすごいですね。
ある程度歌ってノドの調子が上がってからでないと、アカペラは歌いにくいはず。
だからこそ、ラストやアンコールなどでアカペラは歌うことが多いんですよね。
冒頭からアカペラでいくとは、ずいぶんチャレンジングだなと思ったものの、
ジュリーは余計な緊張もみせず、リラックスして歌っているのだから、
やっぱこの人、スケール大きい。

音符がスキップしてるようなジュリーの歌唱のリズム感の良さ、
無添加100%自然の甘さがほのかに薫るジュリーの声に、
今回もただただ聴き惚れるばかりです。
そしてもちろんライヴ・アルバムだから、ジュリーのホイッスルを含む、
5人の演奏のパートがたっぷり取ってあるところも、嬉しいですね。
まるでスタジオ録音のようなスキもアラもない演奏内容で、
その完璧さゆえ、破綻やスリルといったものは味わえないものの、
聴く者をどきどきさせるテンションの高さが、ほんとハンパじゃないです。

あぁ、こんなライヴ観たいなあ。家族全員でおしかけますので、ぜひ実現を。

Julie Fowlis "LIVE AT PERTHSHIRE AMBER" Machair MACH002 (2011)
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バルカンの歌 イムラン・サルカン [西アジア]

BALKAN ŞARKILARI.JPG

マケドニア移民の家系で、アルバニア生まれのトルコ人女性シンガーという、
その出自を聞くだけで、数多くの物語をその背中にしょっていそうな人ですね。
写真を見るところ、30代半ばといったところでしょうか。
あまり若くなさそうにお見受けしますが、これがデビュー作だそうです。

タイトルはずばり『バルカンの歌』。
妖しくもひらひらとした音色を響かせるクラリネットに、ぶりぶりのテナー・サックス、
さらにトランペットとユーフォニウムが加わったバルカン・ブラスが大活躍しています。
ブラスの急速調フレーズに、ぴたりとユニゾンでハモるアコーディオンや、
かくし味となっている男性コーラスなど、ひさしぶりにジプシー・サウンドを満喫しました。

マケドニア民謡をアレンジしたレパートリーを中心に、
ドラムスやベースのリズム・セクションも加え、ダンサブルに仕上げた痛快なアルバムです。
イムランのヴォーカルは、あまりコブシを使わず、ストレートな歌いぶりで、
トルコらしい端正さを感じさせるもの。
ジプシー的な歌い回しとは違った、ハルク風なところが案外聴きやすく、
幅広くアピールできそうな気がします。
ジプシー・サウンドが苦手という人にも、これならいけるんじゃないでしょうか。

İmran Salkan "BALKAN ŞARKILARI" ADA Müzik no number (2010)
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マンタロ渓谷を越えて アリシア・マギーニャ [南アメリカ]

Alicia Maguina.jpg

アリシア・マギーニャは、ペルー、クリオージョ音楽のヴェテラン女性歌手。
クリオージョ音楽名盤中の名盤“VIVA... LA MARINERA” でも1曲歌っていますが、
そこで聞ける美声のソプラノ・ヴォイスは味わいに乏しく、あまり好みの歌手ではありませんでした。

そんなアリシアに対する認識を改めさせられたのは、ウァイノを歌ったこのアルバムがきっかけ。
お祭りの華やかな衣装をまとったアリシアの写真に惹かれて買ったんですけど、
アリシアの声がウァイノとすごくマッチしていて、
ペルー山岳地帯の民俗色豊かな伴奏ともども、すっかり気に入ってしまいました。
最近ウァイノのペルー盤CDがいろいろ入荷していますけど、
このCDは見落とされているらしく、日本に入っていないのが残念です。

アリシアはこのアルバムで、さまざまなスタイルのウァイノを歌っています。
ギコギコ弾くヴァイオリン、ぶりぶり鳴るブラス、硬く太いアルパの弦の響きが
渾然一体となったバンダ・スタイルの、オルケスタ・ティピカ・デル・セントロの伴奏あり、
マンドリンが明るい響きを奏でる舞曲ウァイラスや、
名手ハイメ・グアルディアのチャランゴをフィーチャーして、
ギターとケーナが伴奏をつけるアヤクーチョのウァイノなどなど、
ペルー山岳音楽のショーケース的なアルバムともいえます。

アリシアがウァイノまで歌いこなす人だとは知りませんでしたが、
本人のライナーによれば、6歳の時にはじめてインディヘナとウァイノを知り、
インカの伝統遺産に心惹かれてウァイノを学ぶようになったんだそう。
38年生まれのアリシアが、ウァイノをレパートリーに加えるようになったのが57年、
イエンプサにウァイノを録音し始めたのが68年とのこと。
本作には2000年にアリシアが自作したウァイノ2曲も含まれています。

ジャケットを眺めていると、中央アンデスに位置するワンカヨの美しく豊かな田園風景や、
マンタロ渓谷で繰り広げられるお祭りが目に浮かぶようですね。
あー、行ってみたいなあ。世界には見てみたいところがいっぱいです。
土着のウァイノ特有のかん高い女性歌手の声とも違った、端正なアリシアの歌声は、
クリオージョのレパートリーを歌っている時より、断然魅力的です。

Alicia Maguiña "LA SANTA TIERRA" Iempsa IEM0619-2
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初期グアコの6CDボックス [南アメリカ]

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ビッグ・ニュースですっ!
ベネズエラ最強のトロピカル・バンド、グアコの初期6作品が
オリジナル・アルバム仕様でボックスCD化されました!

グアコといえば、90年代に日本でも注目を集めたベネズエラのスーパー・グループ。
60年代半ばに学生バンドとして結成され、
ベネズエラのスリアで演奏される祝祭音楽ガイタをベースに、
68年のデビュー作以来、サルサ、ファンク、メレンゲ、クンビアなど
さまざまな音楽を吸収しながら、グアコ流ポップ・ガイタをクリエイトし続け、
昨年リリースした37作目の“GUAJIRO” に至るまで40年以上の活動をほこる、
名実ともにベネズエラのトップ・グループです。

今回CD化されたのは、グアコのその長いキャリアの初期にあたる、
78年の11作目から、83年の16作目までの6タイトル。
この時期のグアコのLPでぼくが持っていたのは81年作だけですが、
その81年作をめちゃ愛聴しただけに、その前後の作品をまとめて聴けるのは、嬉しい限り。

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古い順にアルバムを聴いていくと、78年盤は冒頭から、
歯切れよいクアトロのリズム・カッティングで快調にスタート。
タンボールなどの太鼓にチャラスカ(金属性ギロ)、マラカスほか各種打楽器の演奏にのって、
リード・ヴォーカルとコーラスがかけあう伝統的なガイタのファーマットに沿ったサウンドが聞けます。
フェンダー・ローズやベースも入っていますけど、
こんな伝統寄りのアンプラグドなサウンドは今のグアコからは考えられず、
初期ならではの貴重な演奏といえます。

今回の復刻はすべてストレートCD化となっていますが、78年盤と79年盤のみ、
アルバム・ラストにボーナス・トラックとしてコメディが挿入されているのが、珍味。
長いやりとりの漫才のあと、爆笑する観客の笑い声が入り、
グアコの演奏が短く挿入されるんですけど、これって、どういう意味なんでしょう?
こんなユニークなボーナス・トラックは初めてです。

そして79年盤からは、サウンドがぐっとポップになり、
80年盤ではトロピカル・ポップの名にふさわしいサウンドへと変身しています。
“Disco Guaco” なんて曲まであり、エレキ・ギターのリズム・カッティングを強調した
ラテン・フュージョン・ディスコといった仕上がりは、時代を感じさせますね。
全体にフュージョンぽいアレンジが目立つようになり、リズム・アレンジがなかなかに鮮やかです。

そしてさんざん愛聴した81年盤は、チャランガを消化したユニークなアルバム。
はじめて聴いた時は、まるでマラヴォワみたいとびっくりしたものでした。
ガイタのリズムが弾けるなか、ヴァイオリン2台にヴィオラ、チェロの弦セクションが流麗に絡み合い、
野性味と優美さを併せ持つダンサンブルな演奏を繰り広げます。
フルートとエレキ・ギターがユニゾンでリフをキメたり、手の込んだリズム・アレンジを施しつつ、
イキオイのある演奏は手のつけられないほどで、
有無を言わさずダンスの渦に巻き込まれてしまいます。

82年盤は81年盤の方向性をさらに推し進め、完成度を高めた傑作。
ゲストでミルトン・カルドーナがコンガのソロを叩く曲もあります。
弦セクションが加わったのはこの2作のみで、83年盤になるとホーン・セクションへと交替。
非ガイタの曲も増え、無国籍トロピカル・ダンス・ミュージックへと変身しつつある、
過渡期的な作品といえます。

日本でグアコが評判となったのは、もう少し後の“MADURO”(87)あたりからですが、
それ以前の、時代の流行を敏感に取り入れ、
自在にそのスタイルを変えてきたグアコの変貌ぶりが楽しめる、優れモノのボックスです。
6枚組とは思えぬ破格の安さも、お財布に優しくって嬉しいですね。

のちにグアコは、伝統色の強いガイタ・アルバムのシリーズ“GUACO CLÁSICO” を
92~95年にかけ3タイトル発表した後、
吹っ切れたかのようにローカル色を払拭し、世界戦略へとひた走ります。
近年のすっかりガイタを忘れてしまった、コマーシャルなトロピカル・バイラブレ路線には、
正直がっかりしているので、この時代のグアコが、ぼくにはまばゆく映ります。

Guaco "GUACO 78" Velvet 101800 (1978)
Guaco "GUACO 79" Velvet IG10.003 (1979)
Guaco "GUACO 80" Velvet IG10.021 (1980)
Guaco "GUACO 81" Velvet IG10.037 (1981)
Guaco "GUACO 82" Velvet IG10.059 (1982)
Guaco "GUACO 83" Velvet LPJ3223 (1983)
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日本人に発憤したアフリカ人アーティスト スザンナ・オウィヨ [東アフリカ]

Suzanna Owiyo.JPG

昨年の12月、関口義人さんが主宰される音樂夜噺に、
ケニヤ、ルオ人の伝統楽器ニャティティを演奏するアニャンゴこと向山恵理子さんが出演され、
ぼくが聞き役を務めさせていただくことになりました。

事前準備でケニヤのルオ人に関する文献や資料を読み直したり、情報を集めるうちに、
現在ケニヤでもっとも人気のある女性シンガーのスザンナ・オウィヨが新曲で、
なんと向山さんに捧げた歌を歌っていることが判明。
タイトルもずばり「アニャンゴ」という曲で、さっそく向山さんにメールでお知らせしたところ、
「アニャンゴ」はルオの一般的な女の子の名前なので、
私のことかどうかは分かりませんよというお返事。

いやいやいや、スザンナは向山さんのことを歌っているんですよー、とお伝えすると、
向山さんもびっくりして、大感激。
さっそくiTunesからダウンロードして、当日会場のみなさんにも聴いていただいたのでした。

その曲が入ったスザンナの3作目にあたる新作“MY ROOTS” が、
ノルウェイのレーベル、シルケリグ・クルチュールヴェルクスタからリリースされました。
スザンナが書いたライナーによれば、
ケニヤのテレビに出演していた向山さんがニャティティを弾いているのを見て驚愕し、
自分もルオ人としてのルーツに立ち返ろうと発憤し、この新作を制作したとあります。

ニャティティ奏者の祖父を持つスザンナは、女性が触ることはおろか、
近寄ることさえ禁じられているニャティティを、幼い頃密かにマスターしていました。
とはいえ、さすがに人前でニャティティを演奏するタブーを犯すことはできなかったわけですから、
地元のテレビでニャティティを弾く日本人女性を見た時の
スザンナの驚きは、想像に難くありませんね。
向山さんの姿に勇気づけられたスザンナは、ケニヤ人女性として人前で堂々とニャティティを弾き、
ルオのルーツに根ざしたアルバムを制作しようと決意したというんだから、
なんとも美しい話じゃないですか。

音樂夜噺で、'Anyango' の歌詞の内容について向山さんに訊いてみたところ、
「アニャンゴよ、あなたは若い。これからももっと勉強しなさい」みたいなことを歌っているとのこと。
向山さん、ちょっと苦笑いしてましたけど、スザンナは日本人に負けてなるものかと思ったのかな。
日本人の彼女にケニヤ人のスザンナが触発され、ルーツ回帰しただけでなく、
ニャティティ・プレイヤーとしてムキにさせたというのなら、なかなか痛快ですね。

スザンナはアルバム全編でニャティティをたっぷり弾いており、
ケンゲ・ケンゲが有名にした1弦フィドル、オルトゥや打楽器のマブンブンも加えるなど、
ルオの伝統楽器をポップなサウンドに巧みに取り入れています。
音樂夜噺の時、向山さんが解説してくれたところによると、
ニャティティはルオ人の暮らすニャンザ州の主に北部で弾かれ、
オルトゥは南部で多く使われているとのこと。
かつてニャティティとオルトゥは、それぞれ別の地域で演奏されていたそうですが、
最近では一緒に演奏されることも増えてきたとのことでした。

ケンゲ・ケンゲなどで聞かれるオルトゥは、
いかにも手製らしくコキコキと素朴な音色を響かせていますけど、
このアルバムで聞かれるオルトゥは、まるでヴァイオリンのように音程も正確。
改良されたオルトゥなのか、ノイズ成分がなくなってしまったのは、ちょっと残念な気もしますけど、
ポップなサウンドにはよく馴染んでいます。

ケニヤにはコンテンポラリーなポップスを歌うシンガーがゴマンといるなか、
スザンナは抜きん出た才能の持ち主といえますが、
この新作でまた一段とスケールの大きい歌手に成長したように思います。
アルバムには、ジンバブウェのオリヴァー・ムトゥクジも1曲ゲスト参加、華を添えています。
アニャンゴ・ファンのみなさんも、ぜひ聴いてみてください。

Suzanna Owiyo "MY ROOTS" Kirkelig Kulturverksted FXCD361 (2010)
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春はすぐそこに エミリー・スミス [ブリテン諸島]

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犬の散歩がてら、古いおうちの庭先に咲いていた紅梅に、足が止まりました。
生け垣の寒椿も、散り際で踏ん張っているものあり、
踏ん張りきれず、赤い花びらを地面に散らすものありで、
寒い毎日のなかにも、春が確実に近付いてることを感じさせます。
そんな春の訪れを予感させるアルバムが、スコットランドから届きました。

ダンフィリーシュ州出身の女性フォーク・シンガー、エミリー・スミスの新作です。
ぼくがエミリーを知ったのは、08年の前作“TOO LONG AWAY”。
伝承曲をコンテンポラリーに聞かせるサウンド・プロデュースの手腕に、感じ入ったものでした。
4作目にあたる新作はまた趣向を変えた仕上がりとなっていて、すっかりまいってしまいました。

トラッド中心の前作が、ケルティック・ポップな感触を持ったサウンドだったのに対し、
自作曲中心の本作では、むしろトラッド寄りなサウンドに仕上げているんですね。
プロデュースは、エミリーのだんなさんでギタリストのジェイミー・マクレナン。
フルートとホイッスルはダブリン、フィドルはナッシュビル、ブズーキはオーストラリア、
ドラムスはアイスランド系スコットランドと、世界各地の名手たちがエミリーを守り立てます。

そしてなによりもぼくがまいったのは、エミリーの歯切れの良いディクション。
ジュリー・ファウリスもそうですけど、
スコットランドの女性シンガーはディクションのいい人が多いですね。
柔らかさの中にも芯のあるエミリーのピュアなシンギングが生きるのも、そのディクションの良さゆえ。
エミリーが「スコットランドのジョニ・ミッチェル」と称されるのも、ナットクです。
その声を聴いているだけで春がやってくるような、陽だまりを感じさせる歌に、心が洗われます。

06年に来日し、東京で一夜のみの公演を行ったそうですが、ぜひ再来日してもらいたいものです。

Emily Smith "TRAIVELLER’S JOY" White Fall WFRC004 (2011)
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マラケシュ発モロッカン・ヒップ・ホップ フナイール [中東・マグレブ]

YED EL HENNA.JPG

すげえええええええええええええええええええっ!
サラーム海上さんのモロッコ土産にブッとびました。
マラケシュのヒップ・ホップ・グループのアルバムなんですけど、アルバム冒頭いきなり飛び出す、
デザート・ブルースのエレキ・ギターと、野性味あふれるサハラ特有の吟唱に、
え?え?これ、ヒップ・ホップじゃないの?とアワてたところで、すでに持ってかれちゃいました。

グナーワ、エサワ、マルフーンなどのモロッコの伝統音楽や、
スーフィー教団の宗教音楽にベルベル民謡など、
モロッコのディープ・ルーツを辿ったバックトラックが実にカラフル。
それはゲンブリとカルカベが繰り出すビートだったり、
ビリビリとノイズをまき散らすダブルリード系の管楽器だったり、
アラビックな幻惑を誘うきらびやかなカーヌーンだったりと、
どれもこれもマグレブならではの響きを伴っているわけなんですが、
そこに臭みたっぷりのこぶし使いの肉声もまぶされるなど、
各トラック、手を変え品を変えの趣向が凝らされているというわけです。

フナイールというこの3人組、01年結成、04年にデビュー作をリリースし、これが2作目。
シェビー・サバーとの共演歴もあり、本作ではウータン・クランの二人のメンバーが参加するなど、
インターナショナルなネットワークもすでにあるようですが、
これがモロッコでしかリリースされていないなんて、もったいなさすぎ。
どう考えたって、ローカルのみで聴かれるようなグループじゃないでしょう。
このまんま世界に通用するハイ・レベルなアルバムなんだから、全世界リリースすべき。
ケイナーンやアブダル・マリックがあれだけ売れんなら、それを上回らなきゃウソな大力作ですよ。

ルックスこそL.A.ヒップ・ホップな3人ですけど、
ヨーロッパかぶれの同胞に対する、名ばかりムスリムを批判するトラックもあるとのこと。
21世紀のナス・エル・ギワンとも目される、フナイールの面目躍如といったところですね。
モロッコ方言のダリジャ、ベルベル、英語、スペイン語、オランダ語、フランス語を駆使し、
モロッカン・シャアビとミックスした彼らのユニークなスタイルは、
「テクリディ・ラップ(伝統ラップの意)」と呼ばれ、キッズから絶大な支持を集めてるそうです。
このアルバムのあと、モロッコ出身のヴェテラン女性歌手サミーラ・サイードや、
アルジェリアのライ歌手、シェブ・ビラルをフィーチャーした曲なども発表していますが、
そちらはこのアルバムのような強烈な民族色を感じられず、ちょっと残念でした。

モロッコでしか手に入らないこのCD、日本から一歩も出ないぼくが聴けるのも、
はるばるマラケシュから買い付けてきてくれた、サラーム海上さんのおかげ。
世界を旅する人から、いつもおすそ分けにあずかり、感謝感謝であります。

Fnaïre "YED EL HENNA" Platinium Music 6111245800455 (2007)
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ムラユの復活を待ち望んで グレネック [東南アジア]

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ゆるやかにうねるリズムに身を任せていると、マラッカ海峡を渡る船の波動が伝わってくるかのよう。
ひさしぶりにグレネックを聴きながら、想いはマラッカ海峡へと馳せるのでした。

グレネックは、ポップ・インドネシアの大御所リント・ハラハップが、
生まれ故郷であるスマトラのムラユ・デリを、
現代的にブラッシュアップしようと結成したグループです。
リント・ハラハップは音楽学者のリザルディ・シアギアンとともに、
失われかけたムラユ・デリをロック、ラテン、ジャズのアレンジで見事にモダン化してみせ、
00年に出したデビュー作は、ファンの間で話題沸騰となりました。
グレネックは20名近くのメンバーからなり、リントはボーカルとアクースティック・ギター、
リザルディはボーカルとガンブースを担当しています。

当時マレイシアでは、シティ・ヌールハリザの「チンダイ」を皮切りに、
伝統音楽のスタイルで作られた曲をがヒットを呼び、
伝統路線がちょっとしたブームになっていました。
それに比べてインドネシアでは、
このような本格的なムラユは数十年来聞かれなくなっていただけに、
グレネックの登場はまさしくセンセーショナルだったのです。

ガンブースやグンダンなど伝統楽器の生音に、
エレキ・ギターを巧みに絡ませたアレンジも鮮やかで、
こんなアルバムが続々出るようになったら、
インドネシア音楽もすごいことになりそうと期待したんですが、
あとに続くアルバムはとうとう出ずじまい。残念ながら、これ1作だけで終わってしまいました。

いまでもたまに聴き返すんですけど、う~ん、やっぱりすばらしいアルバムですね。
とうの昔に歌手を引退し、地元のイスラーム寺院で子供たちに宗教歌を教えていたという、
メダン出身の往年のヴェテラン女性歌手、
ヌル・アイヌンを引っ張り出して歌わせたのも感涙ものでした。
惜しむらくはメリハリのないミックスで、ミックスをやり直せば、見違えるようになるはず。

グレネック以後のムラユ回帰といえば、
03年にイエット・ブスタミの“LAKSMANA RAJA DI LAUT” が話題となりましたけど、
イエットはダンドゥットをザッピン風味で聞かせただけで、
本格的なムラユ回帰とはいいがたいものでした。
もちろん、イエット・ブスタミのアルバムじたいは大好きなんですけどね。

あー、もうこういうムラユが復活することって、ないんですかねえ。
その後グレネックが活動を続けているのかどうかさえ不明ですけど、
こんな名作をたった1枚ポッと残して消えてしまうなんて、あまりにも残念です。

Grenek "SATU" Musica SRNCD003 (2000)
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ザンジバルの潮風に吹かれて [東アフリカ]

Zanzibar Musical Club.jpg不思議なドキュメンタリー映画です。

ザンジバルのターラブに
スポットをあてたドキュメンタリーなんですけど、
ナレーションがまったく入らないというのが、まず変わってます。
それどころか、出演する歌手や演奏者の
テロップすら出てこないので、
ターラブに詳しい人でないと、出演者が何者なのか、
これじゃさっぱりわかりませんね。

出演しているのは、カルチャー・ミュージカル・クラブ
の面々を中心に、歌手のマカメ・ファキやアミナ、
ザンジバルの人間国宝ともいえるビ・キドゥデ、
さらにモンバサのゼイン・ラブディンも登場します。
80年代末のイギリス、グローブスタイル盤を皮切りに、
ザンジバルのターラブを世界に紹介し続けてきた、
ターラブ研究の第一人者ウェルナー・グレブナーがコーディネイトしたとあって、出演者は豪華版。
これほどのメンバーを揃えながら、この不親切というか、愛想のない作りは、なんなんでしょう。

音楽家たちの日常生活や、ザンジバルの港で魚を売り買いする様子、
街角や道路などの日常風景の合間に、練習場でのリハーサルやコンサートの一部を織り込んだ、
まるでイメージ・ヴィデオのような作りとなっています。
撮影はザンジバルだけでなく、ターラブが盛んなケニヤのモンバサでも行われていますが、
どこがザンジバルで、どこがモンバサか、現地を知る人以外、これではわかりません。

映画の中でも一番の見どころとなっている、アラブ古典詩のカシーダを
パーカッションのみの伴奏で歌うイスラーム芸能のマウリディのシーンも
まったく説明がないため、観客は置いてきぼり状態にされてしまいます。
近年、海外の音楽祭などで注目の集まるマウリディですが、
イスラームの真っ白な衣装をまとった少年たちが、絨毯の上で横一列に並んで座り、
互いに手を繋いで優雅に舞う姿は、さながら蛇がのたうつようで、その美しい舞踊に目を見張ります。
マウリディ・ヤ・ホムは、一説にはインドネシアから伝わってきたとも言われていますが、
その起源は定かでなく、一度は途絶えた伝統が再興されて、
現在3つのグループが存在しているそうです。
マウリディの舞踏を観たのはぼくも初めてだったので、すっかり感激したのですが、
このシーンぐらいは、なんらかの説明が欲しかったところですねえ。

というわけで、ナレーションなし、テロップなし、出演者のセリフもほとんどない、
ないないづくしのこの静かなドキュメンタリーは、ロード・ムーヴィーのようともいえます。
制作者は知識や情報でターラブを理解させるのでなく、
ザンジバルのありのままの日常を見せながら、
ハレとケを対比させるように、ターラブを感じ取ってもらおうとしているのでしょう。
映像は、真っ白な砂浜とマリンブルーの海や、夜のモスク、スコールに沈む街並みなど、
ザンジバルの風物を実に美しく切り取っていて、
なんでもない街角の風景に、思わず旅情を誘われます。

監督はフィリップ・ガスニエとパトリス・ヌザン。
2010年5月、フランスとドイツのテレビ番組「ARTE」で放映。
英語・フランス語・ドイツ語・スペイン語字幕付。85分。

[DVD] Dir: Philippe Gasnier & Patrice Nezan "ZANZIBAR MUSICAL CLUB"
Buda Musique 860200 (2010)
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エジプトのシンデレラ レイラ・ムラッド [中東・マグレブ]

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ムハンマド・アブドゥル・ワッハーブが見出したといわれるレイラ・ムラッドは、
30~50年代に一世を風靡した歌う女優さん。

ユダヤ系モロッコ人で歌手の父とユダヤ系ポーランド人の母のもと、
1918年カイロに生まれ、俳優兼作曲家の兄のムニール・ムラッドの影響もあり、
幼い頃から歌手や女優を目指しました。
1932年初録音、同年映画にも初出演し、その後ワッハーブの後押しによって、
前回話題にあげた38年の映画“Yahya Elhob (Long Live Love)” に抜擢されます。
この映画は、のちにワッハーブの代表曲となる曲がたっぷりとフィーチャーされていて、
映画の大ヒットにより、ワッハーブとデュエットしたレイラは一躍、
「アラブ映画界のシンデレラ」と称されるスターとなったのでした。

ユダヤ系の家庭に育ったレイラですが、46年にイスラームへ改宗し、翌47年結婚します。
53年、イスラエルへの資金提供とスパイの嫌疑をかけられ、
シリアのラジオ局からボイコットを受けるという事件が起こります。
これらの嫌疑が事実無根とわかった後にも、いわれのない誹謗中傷が続き、
レイラは人気絶頂のなか、多くの人に惜しまれながら、引退してしまいました。
のちの大統領となったウム・クルスームびいきのナセルが、レイラ人気を邪魔に思い、
引退に追い込んだと信じるエジプト人は多いとのことですけど、真相は明らかになっていません。

そんなわけでレイラはLP時代を迎える前に引退してしまったので、アルバムは少ないのですが、
ぼくが愛聴してきたのは、戦前録音中心のバイダフォン盤とカイロフォン盤の2枚。
カイロフォン盤の方は、以前ライスから発売が告知されたものの、
発売中止となってしまったのは残念でしたが、いまも入手は容易なので、
レイラをはじめて聴く方にはおすすめです。

530.JPG   Sanatain.jpg

ほかにはSoutelphan盤もありますが、
30~50年代の録音をアトランダムに並べた曲順がペケ。
聴きものは古い録音の方なのに、魅力に乏しい50年代の長編曲を
1曲目にするセンスは理解不能。ラストに置くべきでしたね。
本盤と同内容のアルバムが、99年にヴァージン・フランスの
「アラビアン・マスターズ」シリーズでもリリースされたので、
レイラ・ムラッドのCDでは一番聴かれているアルバムだと思いますが、
もしバイダフォン盤やカイロフォン盤をご存じなければ、そちらをぜひ。

Layla Mourad "LA VOIX D’OR LAYLA MOURAD" Baidaphon BGCD616
Leila Mourad "THE BEST OF LEILA MOURAD" Cairophon CXGCD615
Laila Morad "THE BEST OF LAILA MORAD" Soutelphan GSTPCD530
Layla Murad "SANATAIN" Virgin 7243 8 48366 2 7
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ポップなアラボ・ラテン ムハンマド・アブドゥル・ワッハーブ [中東・マグレブ]

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ムハンマド・アブドゥル・ワッハーブの良さがわかるまでには、
ずいぶん時間がかかりました。

最初に聴いたのは大学生の時。
初体験が60年代頃のLPだったのは、いま思えば、出会いがマズかったですね。
ご存じの方も多いと思いますが、当時のアラブ歌謡は1曲20分以上超す長編がほとんど。
荘厳なオーケストラ演奏が延々と続き、いつまでたっても歌が始まらず、
じりじり待たされるというのが、お決まりのパターンでした。
エジプト歌謡の女王ウム・クルスームになると、1時間以上の曲がざらだったので、
これでアラブ歌謡にザセツしたって人が、ぼくの世代にはけっこういましたね。

その後、ワッハーブの代表曲『クレオパトラ』を両面に収めた10インチ盤を手に入れたものの、
格調の高い弦オーケストラが優雅すぎて、睡魔に襲われるばかりでした。
今でこそ作曲やアレンジの斬新さがよくわかるようになりましたけど、
まだ当時は、そんなこと気付きもしませんでしたね。
ちなみに、写真右はのちにCD化された同曲収録のアルバム。
その後何度も再発されて表紙は変わりましたが、現在もカタログに生きている定盤です。

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そんなこんなで、アラブ歌謡からすっかり遠ざかっていた80年代末から90年代初め、
フランスのクラブ・デュ・ディスク・アラブ(AAA)が
ワッハーブの初期録音をクロノロジカルに編集し、
全10巻の復刻CDをリリースするという快挙を成し遂げました。
こちらは戦前SP時代の録音ですから、曲はどれも6分程度と簡潔。
当時中村とうようさんや田中勝則さんが絶賛していたこともあって、
再挑戦のつもりで聴いてみたんですが、これまたピンとこなかったのでした。
古いアラブ音楽に馴染みがなく、その面白さがすぐにはわからなかったんですね。

ようやくその面白さに気付いたのは、
50~60年代のマレイシア歌謡を聴くようになってからです。
ラテン、ジャズ、ロックンロール、中国歌謡など世界各地の雑多な音楽をタフに消化する、
P・ラムリーやサローマのエキゾティックな歌の数々にすっかり骨抜きになっていた頃に聴いた、
エジプト古典歌謡のアスマハーンとファリド・エル・アトラーシュのSP録音は、
ショッキングでした。

LP時代のかしこまった古典音楽的なアラブ歌謡とはまったく表情の異なる、
ポップ感覚が新鮮で、とりあけタンゴを取り入れた曲のみずみずしさにはびっくり。
そしてアスマハーンとファリド・エル・アトラーシュの延長で聴くようになった
ワッハーブのバイダフォン盤で、ようやくワッハーブの魅力にハマったというわけです。

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クラーベのリズムにマラカスも軽やかに振られる、ラテン調の明るいナンバーや、
前半ピアノ伴奏でしっとりと歌い、後半ウードなどの伴奏でこぶしを利かせて歌う曲など、
西洋とアラブの折衷ぶりがなんともエキゾティックで、背筋ゾクゾクものの曲が満載。
収録曲には映画の挿入歌も多く、さらにポップ度は倍化して、
悩ましくも切なげに歌うさまは、古典調の曲を歌うワッハーブとはまるで別人です。

すっかりポップなワッハーブの魅力に取り憑かれ、バイダフォン盤を買い集めていくうち、
“HASSADOUNI” に聞き覚えのある、女性歌手とのデュエット曲がありました。
あれ?と思ったら、AAAの第9集に収録されている曲となんと同じ。
AAAのライナーを読んでみると、38年の映画“Yahya Elhob (Long Live Love)” の挿入歌で、
ワハーブのお相手の女性歌手は、レイラ・ムラッドとクレジットされています。

ええ?と思って、よくよく手元のAAA盤をチェックしてみると、
バイダフォン盤と曲がダブってるじゃありませんか。
ちなみにAAA盤でぼくの手元にあるのは、第1・6・7・8・9集の5枚だけですが、
バイダフォン盤はAAA盤とすべてダブっていることを、のちに知りました。
あらためて手元のAAA盤を全部聴き直してみたら、な~んて魅惑的なんでしょう!
つい数年前ピンとこなかったのが、こうまで違って聞こえるかってくらい、印象が一変。
いやー、よくわかんないからって、
売っぱらったりしないでよかったと、胸をなでおろしたもんです。

ワッハーブのポップなアラボ・ラテンにやられたのはぼくばかりじゃなく、
細野晴臣がミュージック・マガジンの2007年11月号で、
「50曲の"ルーツ・オブ・ハリー細野"」の1曲としてワッハーブの“Gafnouhou” を取り上げ、
“GAFNOUHOU ALLAM AL GHAZAL” のジャケットを掲げていましたっけ。
それを見た時は、へぇ~、細野さんも、と嬉しく思ったものです。

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AAAは戦前のバイダフォン時代までを収録していますが、
戦後のカイロフォン録音も聴きものです。
アラブ歌謡とキューバ音楽をミックスした音楽性で話題を呼んだ、
レバノンのハニーンとソン・クバーノがカヴァーした「アラ・バリ(我が心に)」の原曲も、
“MEN AD EH KONNA HENA” に入ってます。

ほかにも、アコーディオンが加わった曲には、ムラユそっくりな曲もあったりして、
意外にアラブ歌謡とアジア歌謡の距離が近いことにも気付かされます。
誤解のないように言うと、もちろんワッハーブの録音の方が古く、
ムラユがワッハーブなどのアラブ歌謡に影響されたわけですけど、
両者に通底する感覚はあるような気がしてなりません。
“AL KAMH” には、昭和30年代の日本映画で出てくるような、
行進曲ふうのリズムにコーラス合唱が付く青春歌謡みたいな曲があったりして、
こんなところもアジア歌謡に通じるものを感じさせます。

ワッハーブのポップなアラボ・ラテンを入り口にして、
アラブ古典の色濃い歌謡へと聴き進めていくほどに、
アラブ古典音楽と西洋音楽をミックスして、独自の歌謡様式を完成させたワッハーブのスゴさが、
だんだんとわかるようになっていったのでした。

Mohamad Abdel Wahab:
[10インチ] "CLEOPATRA" Pianophon 10091
"MOHAMAD ABDEL WAHAB" Soutelphan GSTPCD501
"INTEGRALE VOL.Ⅰ (1920-1925)" Club Du Disque Arabe AAA011
"INTEGRALE VOL.Ⅵ (1932-1933)" Club Du Disque Arabe AAA017
"INTEGRALE VOL.Ⅶ (1933)" Club Du Disque Arabe AAA018
"INTEGRALE VOL.Ⅷ (1935)" Club Du Disque Arabe AAA019
"INTEGRALE VOL.Ⅸ (1937)" Club Du Disque Arabe AAA020
"TOUL OMRI" Baidaphon BGCD603
"GAFNOUHOU ALLAM AL GHAZAL" Baidaphon BGCD607
"HASSADOUNI" Baidaphon BGCD608
"OLLI AAMALAL EH ALBI" Cairophon CXGCD630
"MEN AD EH KONNA HENA" Cairophon CXGCD634
"AL KAMH" Cairophon CXGCD644
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ムハンマド・アブドゥル・ワッハーブのEP [中東・マグレブ]

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チュニジアのジャスミン革命が飛び火した
エジプト騒乱のニュースを目で追いながら、
こりゃシャバービーなんぞ聴いてる場合じゃないぞと
引っ張り出してきたのが、ムハンマド・アブドゥル・ワッハーブ。

エジプトの大衆歌謡の基礎を作った
ムハンマド・アブドゥル・ワッハーブが一番魅力的だったのは、
なんといっても20~30年代のバイダフォンの時代。
原盤はもちろんSPですけど、LPの時代になっても、
CDの時代になっても、MP3の時代になっても
復刻され続けているのは、歴史を越えて愛され続けている証拠です。

エジプトにもついに革命がおこるのか、
反ムバーラクのうねりはかつてない大きなものとなっていて、
政権崩壊の様相をみせはじめています。
こういうときにはワッハーブを聴かなきゃと、
アラベスク模様で飾られたバイダフォンのEPを引っ張り出してきました。
次回ワッハーブの話のイントロとしましょう。

Mohamed Abdel Wahab "Ichat El Fallah - Ya Wabour Koulli" Baidaphone BA20
Mohamed Abdel Wahab "Koulina Nahib El Kamar - Indama Yati El Masaa" Baidaphone BA24
Mohamed Abdel Wahab "Al Hawa Wal Chabab - Yama Baneit" Baidaphone BA27
Mohamed Abdel Wahab "Khayef Aqoul - Miskin Ouhali Adam" Baidaphone BA41
Mohamed Abdel Wahab "Saket Lih Ya Lissani - Elli Iheb El Jamal" Baidaphone BA44
Mohamed Abdel Wahab "Balek Maa Mine - Fil Gawi Gheim" Baidaphone BA45
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ライ新作3連発 [中東・マグレブ]

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アルジェリアのライといえば、最近ぱっとした話題も聞かなくなり、
そもそも新作を聴く機会が、めっきり減ってしまいました。
バルベスあたりに行けば、ローカル盤がきっといっぱいあるんでしょうけど、
世界的なマーケットにのる新作はハレドくらいのもので、
目立ったアルバムはとんと現れませんね。

アラブ・アンダルーズ音楽やアマジーグのソロ作など、マグレブ方面に注目が集まるなか、
かつて一大ブームともなったライが失速気味なのは残念と思っていたら、
イキのいい新作を立て続けに3タイトルも聴くことができました。

まず1枚目はヴェテラン・ライ歌手、サハラウイの新作。
覚えてます? 昔女房だったシェバ・ファデラと、
ライ初の国際的ヒットを呼んだ“N’sel Fik”を歌った男性シンガー。
当時は名前の前にシェブが付いていて、シェバ・ファデラとシェブ・サハラウイの夫婦名義で、
89年にイギリスのマンゴから、アルバムをリリースしましたね。(う~ん、いい時代だったなー)
そのサハラウイもすっかりいいオヤジとなり、髪に白いものが交じったりしてますが、
中身は元気イッパイ。“N’sel Fik” のリメイクも含む充実作となっています。

ハウスの四つ打ちにのせて、ルンバ・フラメンカ調のトランペットに男衆のラップ、
さらにはインド人女性ヴォーカルとタブラまでぶちこんだアゲアゲ・ナンバーなど、
よくやるよといった感じですけど、この現役感たっぷりのスター歌手ぶりが頼もしいじゃないですか。
ゲストの女性シンガーとデュエットしたアーバン・タッチのライ&Bなどポップ感覚も豊かで、
緩急をつけたアルバム作りが成功しています。

そして2枚目はこちらもヴェテランの、元ライナ・ライのヴォーカリスト、ラルビ・ディダの新作。
オルケストル・ナシオナル・ド・バルベス脱退後ソロとなってリリースした、
初のアルバム“MALKOUM”(08)も快作でしたけど、この新作も力作です。
ブラウイ・フアリの古典ライあり、ライナ・ライの代表曲“Taila” のリメイクあり、
スタイフィありと、低予算ぽいプロダクションながら、流行に色目を使わず、
昔ながらのスピード感あふれるグルーヴで貫いたところが、潔いですね。

最後が、北フランスのリールを中心に活動するという、
在仏アルジェリア人歌手若手3人組のハニーニ。
ラルビ・ディダ同様、打ち込み控え目で生音勝負のアルバムとなっていますが、
ラルビ・ディラよりプロダクションは凝っていて、ネイやダルブッカなどが効果的に使われています。
ライを中心に、レッガーダやシャアビ調のナンバーを、
20数名のミュージシャンをバックに、元気いっぱい歌っています。
スークースまでやっているのはご愛嬌というか、ちょっと余計でしたけど、
力強いヴォーカルが爽やかな印象を残す傑作ですね。

こうして聴いてみると、スタイフィなど周縁の音楽を取り入れて、
活性化させているところが、ライの新局面でしょうか。
正直な話、ライがR&Bやハウスなどに接近して、ライ&Bなどと言い出したあたりから、
かつてサルサがロマンティカと言い出してダメになったのとダブって見えましたけど、
こんな新作を聴かせてくれるのなら、まだまだ期待できそうですね。

Sahraoui "PRINTEMPS UNIVERSAL" Gafaiti Production no number (2010)
Larbi Dida "BOUG BOUG" MLP 00755 (2010)
Hanini "AFRICAINS DU NORD" Gafaiti Production no number
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バルス・ペルアーノのボサ・ノーヴァ的展開 チャブーカ・グランダ [南アメリカ]

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ごめんなさい。
チャブーカ・グランダの未発表曲集ということで、ずっと「パス」してたんです。
チャブーカのアルバムは手元に何枚もあるし、
なにも未発表作まで手を出さなくても…、な~んて思ってたのでした。

ところが、日本盤が出たのを機に聴いてみたら、びっくり。
こんなチャブーカ、聴いたことない!
こりゃ異色中の異色作じゃないですか!
未発表作なんてことより、異色作かつ問題作ということを強調すべきアルバムですね。

なにが異色って、いきなりフランス語で歌い出す1曲目に、
えぇ?これがチャブーカなの?と驚かされるわけですけど、
問題はまるっきりボサ・ノーヴァ・スタイルのギター。
いつものバルス・ペルアーノとはまったく異なるタイプのギターです。
これ、いったい誰が弾いてるんでしょうか。
フラット・フィフス、フラット・ナインスやディミニッシュを多用するコード使いは、
どう考えてもオスカル・アビレスとかじゃないですよねえ。

まるでデモのようなラフな音質のこの録音、どういう経緯で残されたんでしょう。
15曲中13曲は自作とはいえ、
残りの2曲はアルゼンチンのフォルクローレとアストラ・ピアソラの曲という選曲もナゾで、
ひょっとしてアルゼンチン録音なのかもしれませんね。
じゃあギターは最近日本でも人気のアルゼンチン人ボサ・ノーヴァ・ギタリスト、
アグスティン・ペレイラ・ルセーナか、なーんて、まさかね。
一番ありえる線は、68~75年にチャブーカのギタリストだったルーチョ・ゴンサレスでしょう。
ルーチョはジャズ的なコードを使ったギターも弾きましたからね。

チャブーカのヴォーカルは、アマチュアぽいところが物足りなくもあるんですけど、
こういうボサ・ノーヴァぽいシャレたサウンドだと、ぴたりハマりますね。
つい、いつものバルス・ペルアーノより魅力的かも…と、口がスベっちゃいそうです。

Chabuca Granda "LO NUEVO DE CHABUCA GRANDA" Iempsa IEM0572-2 (1968)
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