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オールド・スクール・ヴォーカル+ヒップ・ホップ・ソウル アリ・テナント [北アメリカ]

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ふた月近く、折にふれ聴いてたけど、そろそろ棚にしまう頃合いかと、
デジパックのケースにCDを戻した、UKシンガー、アリ・テナントの新作。
そういえば、これもここでは取り上げていなかったっけ。

思えば最近、R&Bの新作を、ちっとも記事にしてませんね。
愛聴したアルバムはけっこうあるんだけど、
アフリカ、ブラジル、カリブ、アジアがとにかく大豊作なもんで、
とてもR&Bまで手が回りません。
去年の秋から暮まで聴き倒したアフター7も、結局書かなかったしなあ。

うん、でも、この人はちょっと書き残しておこう。
たまたま聴いたサンプルで、「おお、すごい歌えるな、この人」とびっくりしたんでした。
狂おしく歌い上げる粘っこい歌唱スタイルは、
イマドキのR&Bシンガーらしからぬ、ディープな感触がありますよね。
『ミュージック・マガジン』4月号の鈴木啓志さんの記事を読むまで、
このアリ・テナントが98年の名作“Crucial” のアリと同一人物だとは、まったく気づかず。

どうりで上手いわけだわ。
なんとあの傑作以来19年ぶりのアルバムだそうで、
ヴォーカル・トレーナーをやったり、曲を提供したりと、ずっと裏方に回っていたのだそう。
そんな裏方で磨いたスキルを発揮した、
大ネタ使いのヒップ・ホップ色強いキャッチーなトラックが多くて、
オープニングから「おお、ルーサーだ」、続くステッパーは「R・ケリーじゃん」、
タイトル曲は「まるでジャヒームみたい」と、突っ込みどころ満載の
華やかなダンス・トラックが並びます。

曲調やサウンドこそ、いろいろな人を連想させるものの、
本人の歌いぶりはというと、その誰とも似ていなくて、
鈴木さんが「現在のR&Bの文脈に照らし合わせてみれば、
こうしたタイプのシンガーは全く残ってない」というのも、ナットクです。

感情を押し殺すことなどできない、激情型の歌いっぷりが胸をすく
オールド・スクールなヴォーカル・スタイルが、
ヒップ・ホップ・ソウルに調和した得難いアルバムです。

Ali Tennant "GET LOVED" Seven Ibs Entertainment no number (2017)
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