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ポップなジャズ・サンバ ジョアン・ドナート [ブラジル]

Joao Donato  BLUCHANGA.jpg

ジョアン・ドナートといえば、ついこの前、宇宙船を操縦している
ぶっとんだ絵柄の新作が出て、ナンジャこりゃと、口あんぐりしたばかり。
息子のドナチーニョとシンセ・ブギー・ファンクを繰り広げるという、
ジャケット同様ぶっとんだ内容で、80越してもシンセをぶりぶり鳴らす
気持ちの若さに、オソレいるばかりなんですが、さすがにこれは手が伸びず。
すると今度は、ぐっと落ち着いたジャズ・サンバ・アルバムが届きましたよ。

終りゆく夏の、まさに今の季節感どんぴしゃのジャケット写真に、目を奪われます。
暮れなずむ海を眺める、男たちの後ろ姿のかなたには、
日が落ちたばかりの、ピンクとイエローに染まった水平線が広がり、
淡いブルーの空が夏の終わりを告げる、
去りゆく夏への名残惜しさとさみしさの入り混じる、いい写真です。

そんなせつなさが、やすっぽい感傷に変わるのを拒むかのように、
ジョアン・ドナートの名とタイトルを、
どーんと大きくデザインしたところが、秀逸じゃないですか。
芸術家気取りなんて、みじんもないところが、ドナートのいいところです。

15年リリースながら、流通が悪かったらしく、これが日本初入荷。
アメリカ時代に書いた楽曲のうち、自身のアルバムに収録したことのなかった
レパートリーを集めたという、正統派のジャズ・サンバ・アルバムです。
ピアノ・トリオに、ギター、パーカッション、2管を含む7人編成で、
各自のソロより、グループ全体のサウンドを重視したアレンジによる
12曲が収録されています。

未発表曲というわりに、聞き覚えのあるリフやハーモニーが、
そこかしこから飛び出します。
独特のコード展開や、凝った転調を駆使しまくりながら、
そうとは意識させず、ポップなメロディで親しみやすく仕上げる、
いつものドナートらしい曲が満載。ラテン・タッチのアレンジもシャレていて、
セルジオ・メンデス好きのボサ・ノーヴァ・ファンには、どストライクでしょう。

どの曲もメロディアスな歌ものに仕上がっているんですが、
1曲だけ異質の、歌向きでないジャズぽいトラックがあると思ったら、
ホレス・シルヴァーの曲でした。やっぱりね。
かっちりとしたリズム隊が繰り出す骨太なグルーヴも心地よく、
今回はドナートのへたくそな歌も出てこないので、
気持ちよくポップなジャズ・サンバを堪能できること、ウケアイです。

João Donato "BLUCHANGA" Mills ACM002 (2015)
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多民族共存を目指すイスラエル発アフラブ クォーター・トゥ・アフリカ [西アジア]

Quarter to Africa.jpg

イスラエルからミクスチャー系グループが続々登場して、
立て続けに日本にやってくるとは、なんだかイスラエル、きてますねえ。
だいぶ前に話題を呼んだイダン・ライヒェルは、
ぼくは受け付けられなかったけれど、今度の波には乗れそうです。

9月にはイエメン系ファンク・グループのイエメン・ブルースが来日する予定で、
10月にはアフロ=アラブ・ファンク・バンドの
クォーター・トゥ・アフリカがやってきます。
イエメン・ブルースは、故マリエム・ハッサンをフィーチャーした曲に
心を揺り動かされましたけれど、今回取り上げるのはクォーター・トゥ・アフリカのほう。

14年にテル・アヴィヴのヤッファ出身の
サックス奏者とウード奏者の2人によって結成されたクォーター・トゥ・アフリカは、
サックス×2、トランペット×2、トロンボーン、ウード、キーボード、
ベース、ドラムス、パーカッションの10人を擁するビッグ・バンド。

日本盤が出るまで、ぼくもこのバンドのことをまったく知らず、
試聴させてもらって、そのフレッシュなサウンドにびっくり。
すぐさまネットで調べて、バンドキャンプにオリジナルのイスラエル盤をオーダーしました。
日本盤は紙ジャケでしたけれど、
イスラエル盤は普通のプラスチック・ケース仕様なんですね。

分厚いホーン・サウンドに支えられ、彼らが自称するアフラブ Afrab なる
アフロ=アラブ・サウンドが爆発する、ダンサブルなサウンドが快感。
イエメンのウードを核に、歯切れ良いダルブッカのビートがドラムスと絡みあい、
アフロ・ファンクなホーン・リフが畳みかけてきます。
演奏力の高さは相当なもので、タイトル・トラックでは世界的に注目を浴びる
ジャズ・ベーシストのアヴィシャイ・コーエンがゲストでベースを弾いています。

演奏力ばかりでなく、音楽性も豊かで、
6曲目ではホーン・リフがバルカン・ブラスを思わせるなど、
アフロ=アラブにとどまらない、南東ヨーロッパをも俯瞰したサウンドを聞かせていて、
彼らが広範なサウンドを目指していることがうかがえます。

はじめ試聴した時の、「おお! かっこいい!」という第一印象が、
オルケストル・ナショナル・ド・バルベス(ONB)のデビュー作とダブったんですが、
アグレブとアラブの違いはあっても、そのミクスチャー・センスは似ていますね。
違いといえば、ONBほどジャズ/フュージョンぽくなく、
ラガの要素がないことでしょうか。
ジミ・ヘンドリックスの“Voodoo Child” のカヴァーなど、
ジャズよりロック/ソウルのセンスを強くうかがわせるバンドで、
こりゃあ、ライヴが楽しみですねえ。

Quarter to Africa "THE LAYBACK" Quarter to Africa no number (2017)
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世界に誇れる日本初のアフリカン・ヴィンテージ・ボックス [西アフリカ]

Palmwine Music Of Ghana.jpg

3年越しのリイシュー・ワーク、ついに完成!
待たされただけのことはある、アフリカ音楽遺産のスゴイ復刻がついに登場です!!
パームワイン・ミュージックからギター・バンド・ハイライフに至る道のりを
深沢美樹さんが所有するSPコレクションから選曲して、2枚のCDに収めたボックス。
これは世界中のアフリカ音楽マニアをウナらせること、必至でしょう。

いやぁ、ついに出来ちゃいましたねえ。
6年前、ダスト=トゥ=デジタルからリリースされた、
ジョナサン・ウォードのアフリカ音楽のSPコレクション集
“OPIKA PENDE : AFRICA AT 78RPM” にも匹敵するボックスで、
日本にもスゴいコレクターがいるんだぞってことを、世界に証明したってなもんです。
深沢美樹さんの名前、世界にとどろきますね。

深沢さん渾身の解説も超充実。
パームワイン・ミュージック成立の歴史を解説するなかで、
新大陸アメリカやカリブ海から持ち込まれた音楽を、
「帰還者系音楽」と称されたのは、とても示唆に富む指摘です。

たとえば、ここに収録されていない
ザ・ウェスト・アフリカン・インストゥルメンタル・クインテットの29年録音を聞くと、
当時の西アフリカ沿岸のギター・ミュージックには、
カリブ海からの帰還者が持ち込んだストリングス・アンサンブルや
リズムの影響が色濃かったことがわかりますからね。
ただ、そうしたギター・ミュージックは、パームワイン・ミュージックに比べて
ぜんぜん魅力がなく、だから深沢さんもこのボックスにはいっさい選曲していません。

また、よく混同して書かれるパームワイン・ミュージックとハイライフについても、
本来異なる出自であることを解説したうえで、
なぜ混同されるのかという原因にも触れながら、
両者のややこしい関係を丁寧に説いているところは、さすが深沢さんです。
そのうえで、パームワイン・ミュージックを指してハイライフと言うのは、
「アメリカの黒人音楽はすべて『ジャズ』と言っているようなもの」と
クギをさすのも忘れていなくて、読みながら思わず大きくうなずいてしまいました。

個人的に目ウロコだったのは、名ギタリストのK・グヤシ K Gyasi のカナ読みを、
K・ジャシと訂正されていたこと。
そういえば、Gyedu Blay Ambolley をジェドゥ・ブレイ・アンボリーと読んでたのに、
なんでいままで気付かなかったんだろう。
「グヤシ」という読みにずっと違和感を持っていたので、長年の疑問が氷解しました。
アカンの神々のシンボルとして有名なGye Nyame も、
ジ・ニヤメ(一般に「ジニャメ」と書かれる)と読むもんねえ。

そして、内容の方も、サムことクワメ・アサレのディスク1の1曲目から、
その生々しいギターとヴォーカルに、もうドキドキ。
実は、選曲段階で、このSP原盤の音を聞かせてもらったとき、
あまりにノイズが酷くて、「これは無理なんじゃないの」と言ったことがあるだけに、
このリマスタリングの仕上がりは、アンビリーヴァブル。

この神がかりなリマスターをしたのは、森田潤さん。
単にノイズを取り除くなんてレヴェルを超越した
エンジニアリングの手腕は、ほんとにスゴイ。
スクラッチ・ノイズだけでなく、ホワイト・ノイズを丁寧に除去したうえに、
もともと滅茶苦茶に音割れしていたヴォーカルの箇所をひとつひとつ補正して、
本来こうであったろうという音像を、想像力を働かせながら、
蘇らせたというのだから、頭が下がります。

吉岡修さんのボックス・デザインもサイコーですね。
当初のラフ案は、もっとアジアン・テイストのデザインで、
う~ん、吉岡さん、インドネシア音楽コレクター魂が抜けてないなあ、
なんて笑っていたんですけど、軌道修正を繰り返して、
ファイナルは見事、西アフリカ・ムード溢れるものに仕上がりました。

拍子木が取るリズムが三つ打ちからクラーベに変わる様子や、
ギターばかりでなく、コンサーティーナやパーカッションのみの伴奏のものなど、
パームワイン・ミュージックのヴァリエーションにも目を見張らされました。
クワー・メンサーなんて、これまでみくびってたけど、
こりゃ再評価しなきゃいけませんね。
E・K・ニヤメのジャイヴなんて珍品もあって、
聴きどころを書きだしたら、もうキリがありません。

選曲・解説・音質・デザイン、どこを取ってもスキなく作られた、
日本初の個人コレクションによる、アフリカン・ヴィンテージ時代の本格的リイシュー、
本日発売です。

V.A. 「PALMWINE MUSIC OF GHANA, FROM PALMWINE MUSIC TO GUITAR BAND HIGHLIFE」 El Sur 008
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マキシム・ラオープを想って バン・ラオープ [インド洋]

Bann Laope.jpg

もう1枚入手したセガ近作が、
セガの名クルーナー、マキシム・ラオープが05年に亡くなる1年前に、
マキシムの子供や孫たちによって結成された、バン・ラオープ。
マキシム・ラオープをご存じない方は、以下の記事をご覧ください。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2013-02-15

はじめはプライヴェートなパーティやコンサートなどを催して、
演奏活動をしていたらしんですが、マキシムが亡くなったあと、
06年5月のコンサートで、初めてプロ・デビューしたそうです。
14年にリリースしたデビュー作では、
マキシムがかつて歌っていたレパートリーを歌っています。

正直、歌はアマチュア芸の域を脱していませんが、
親族やマキシムゆかりの友人たちによる演奏は、なんとも温かくって、
悪口を言う気になりません。
手作りのぬくもりが伝わるサウンドは、ドラムス、ベースとも人力。
カヤンブ、ジェンベなどキレのあるパーカッションのビートが利いています。
トランペットとサックスの2管を擁しているのも嬉しいですね。
打ち込みは使っておらず、シンセも1曲のみバックでうっすらと鳴らす程度。

本デビュー作では、マキシムの代表曲“Célia” はじめ、12曲が歌われています。
レゲエ・アレンジで歌われる“Lapesh Kameleon” は初めて聞きましたが、
トボけた味がなんともマキシムらしくて、いい曲ですねえ。
原曲はシャンソン・クレオールなのかな。

マキシム・ラオープのセガのほっこりとした味をよく再現した、
心あたたまるアルバムです。

Bann Laope "I SHANTE MAXIME" no label no number (2014)
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レユニオンのローカル・ダンス・ミュージック ベフ・セガ [インド洋]

Bèf Séga  POU TWÉ.jpg

レユニオンというと、いまではすっかりマロヤの方が有名になっていますけど、
もともとはセガが盛んだった土地柄。
セガは、レユニオンばかりでなく、モーリシャスやロドリゲス、セーシェルなど、
マスカリン諸島からセーシェル諸島、チャゴス諸島に広く伝わる、
奴隷として渡ったアフリカ系住民が産み落としたダンス音楽です。

レユニオンではシャンソン・クレオールと結びついて、早くから歌謡化し、
戦後になると、観光開発にともなって、ヨーロッパからやってくる客を目当てにした、
カラフルな民族衣装を着た女性たちのダンスで有名になりました。
音楽の方もあまりに観光化されすぎて、LPやCDはつまらないものが多く、
地元民が楽しむ歌謡セガの美味しいところは、
EP盤でないと聴けないという時代が、長く続いたんですよね。

いまではタカンバが復刻したCDで、
往年の歌謡セガのヴィンテージ録音も容易に聞けるようになりましたけれども、
いま現在、地元でどんなセガが聞かれているのかというと、
とんと伝わってくるものがなくて、マロヤ再評価の影に隠れてしまった感があります。

今回入手したベフ・セガは、サン=ピエールを拠点に活動しているグループとのことで、
プロダクションは、はっきりいって地元仕様のチープさは免れません。
とはいえ、90年代主流だった打ち込みとシンセで組み立てられたサウンドではなく、
生のドラムス、手弾きのベースで、打ち込みで代用していないところは好感が持てます。
ギターやピアノも、アクースティックとエレクトリックを効果的に使い分け、
トランペットも加わり、ユーモラスな雰囲気を盛り立てています。

お気楽な軽いタッチのノリのセガばかりでなく、
パーカッション・アンサンブルを前面に立てた
アフロ色濃厚なマロヤもやっていて、演奏力は確かなグループですね。
プロデューサーに恵まれれば、もっといい作品も作れそうです。
マロヤばかりでなく、セガも、インターナショナルに飛び出して欲しいな。

Bèf Séga "POU TWÉ" Arts Et Vivre AAV001 (2010)
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コンテンポラリー・ガウーショ アレサンドロ・クラメル [ブラジル]

Alessandro Kramer Quarteto.jpg

ブラジルの若手アコーディオン奏者の新作。

お店のコメントに、
「これまでのアコーディオン・ショーロの概念を打ち破る意欲作」とあるので、
期待して買ってみたら、期待とはだいぶ違っちゃいましたけど、好アルバムでした。

期待と違ったのは、そもそも本作は、ショーロ・アルバムではないこと。
アレサンドロ・クラメル自身、ショーロのミュージシャンではなく、
ショーロうんぬんのコメントをするのは、
このアルバムには適切じゃないし、誤解のもとだと思いますね。

ベベー・クラメルの愛称を持つというアレサンドロ・クラメルは、
南部リオ・デ・グランデ・ド・スル州ヴァカリア出身のアコーディオン奏者。
出身から察せられるように、アレサンドロはガウーショ(牧童)を自認していて、
19世紀末にイタリア移民によってもたらされた、
アコーディオン音楽が根付いた南部地方の音楽をルーツとする人です。
というわけで、アレサンドロはショーロの音楽家ではないんですね。

ブラジルのアコーディオンは、一般的にサンフォーナと呼ばれますけれど、
それは北東部のアコーディオンを指していて、
南部のガウーショたちが弾くアコーディオンは、ガイタと呼ばれます。
「サンフォーナとガイタはまったく別の楽器だ」と、
ギタリストのマルコ・ペレイラが本作のライナーで強調しているのは、
奏法や音楽性が別物だと言うことですね。

Renato Borghetti  PENSA QUE BERIMBAU É GAITA.jpg

現在リオで活躍するアレサンドロは、南部の音楽をベースに、
ショーロ、サンバ、北東部音楽、ジャズ、クラシックなど多様な音楽を吸収した
音楽性を発揮し、本作でもそれを聴き取ることができます。
古くからのブラジル音楽ファンなら、
レナート・ボルゲッチを思い起こす人もいるんじゃないでしょうか。
そう、アレサンドロは、レナートの後進にあたるガイタ奏者なわけですね。

アレサンドロは、ヤマンドゥ・コスタやガブリエル・グロッシなどと共演、
ヨーロッパなどにもツアーするなどのキャリアを積んでいるそうです。
本作は、売れっ子ベーシストのグート・ヴィルチ、
先日ニーナ・ヴィルチとの共演作を出したばかりのバンドリンのルイス・バルセロス、
7弦ギターのセルジオ・ヴァルデオスと演奏しています。
アレサンドロの自作曲は、
ガウーショらしいのどかさに現代性がミックスされた洒落た感覚があって、
コンテンポラリー・フォルクローレが好まれる現代によくマッチします。

Alessandro Kramer Quarteto "ALESSANDRO KRAMER QUARTETO" Borandá BA0031 (2017)
Renato Borghetti "PENSA QUE BERIMBAU É GAITA" RGE 342.6130 (1992)
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完全復調したコリントン・アインラ [西アフリカ]

Kollington Ayinla  EHUN FUNFUN.jpg

すっかり興味の失せたナイジェリアのフジ。
フジを生み出したシキル・アインデ・バリスターが10年に亡くなり、
ひとつの時代が終わったのを実感してからというものの、
自分の中でじょじょに関心が薄れていったのは確かです。

その大きな原因のひとつに、打楽器と肉声だけのフジを聞くことができなくなり、
シンセ、ギター、サックスなどの西洋楽器を取り入れたジュジュ寄りのサウンドが、
デフォルトとなってしまったことがあります。
黄金期のハードエッジな正調フジを知る者には、
中途ハンパに西洋楽器を取り入れたジュジュ・フジ・サウンドは、
いくら聞いても馴染むことができません。
かれこれ10年以上も、サウンドが気に食わないと、ブツクサと不満をいい続けながら、
新作を追いかけるのにも、いい加減疲れてしまいました。

中堅どころのワシウ・アラビ・パスマ、アバス・アカンデ・オベセレ、レミ・アルコ、
さらにもっと若いスレイモン・アディオ ・アタウェウェ、セフィウ・アラオ・アデクンレ、
アカンデ・アデビシ・カレンシーなどなど、歌えるシンガーは山ほどいるものの、
ヴォーカルと丁々発止をするでもない、キリッとしたソロをとるでもない、
メリハリのない垂れ流しの伴奏を付けるだけの、
シンセ、ギター、サックスには、もうウンザリです。

最近では、無理して新作フジを買うくらいなら、
昔のフジを聴くわという気分にどんどんなっていたので、
ひさしぶりに見かけたコリントン・アインラの新作を目にしても、
まったく手の伸びない自分に、自分で驚いてしまいました。
ひと昔前なら目の色変えて、飛びついただろうに。

Kollington Ayinla  BACK TO SENDER.jpg   Kollington Ayinla  POPSON.jpg
Kollington Ayinla  A DUPE LOWO OBEY.jpg   Kollington Ayinla  THANK YOU & SWEET MOTHER.jpg

コリントン・アインラの新作を買ったのは、かれこれ10年くらい前でしょうか。
最後に買ったのが“BACK TO SENDER” で、
遠藤さんのディスコグラフィでは07年頃の作品と書かれています。
その後、コリントンの新作CDが入手しずらくなり、
VCDで“POPSON” “A DUPE LOWO OBEY”
“THANK YOU & SWEET MOTHER” の3作をフォローしてきましたが、
かつての輝きは感じられず、CDを探そうという意欲はわきませんでした。

現地の報道によると、コリントンは精神的な問題を抱えていたようで、
じっさい活動は低迷していたようですね。
VCDなどで観たコリントンが、あてぶりにせよ、軽く歌っているという感じで、
生気がないように思えたのは、そのせいだったのでしょうか。

今年の3月に出たばかりの新作、
タイトルに使われた‘Esin funfun Ayinla tigbera bayi o’ は、
「先へ進もう。だれも私を止めることはできない」という意味で、
トラブルからすっかり吹っ切れたことを宣言しているようです。

ジャケット裏にはA面・B面とクレジットされていて、
A面はいつものジュジュ・フジのサウンドながら、
コリントンの歌声に張りが蘇っていて、流し歌いのようなところはみられません。
まったく期待もしていなかったせいか、思わず、おぅ!と声を上げてしまいましたよ。

そして、さらにオドロキはB面。
なんと最初から最後まで、シンセもサックスもギターもまったく登場しない、
打楽器と肉声だけによる正調フジ。
トラップドラムとパーカッションが鼓舞する、
コリントンのトレードマークだったバタ・フジが蘇っているんですよ。

これには、カンゲキしました。
祝詞のようなコブシ使いでじっくりと始めるイントロもかつてのようなら、
要所要所でメリスマを爆発させる歌いぶりは、これぞフジといえるものです。
80年代黄金期のような咆哮は求められないとはいえ、
これは完全復調といっていいでしょう。

Gen. Kollington Ayinla "EHUN FUNFUN" Corporate Pictures no number (2017)
Alhaji Gen. Kollington Ayinla "BACK TO SENDER" Corporate Pictures no number (2007)
[VCD] General Kollington Ayinla "POPSON" Jossy Halleluya Music no number
[VCD] General Kollington Ayinla "A DUPE LOWO OBEY" Jossy Halleluya Music no number
[VCD] Alhaji General Kollington Ayinla "THANK YOU & SWEET MOTHER" Jolaosho no number
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サン=ルイのゴールデン・ヴォイス アブドゥ・ギテ・セック [西アフリカ]

Abdou Guité Seck  NDIOUKEUL.jpg

このンバラ・シンガー、ただもんじゃない。

冒頭の1曲目にヤられました。
オープニングは、キャッチーなヒット性の高い曲を置くのが定石。
ところがこのアルバム、いきなり子供のア・カペラで始まり、
ハラムに導かれてアブドゥ・ギテが歌い始めるという、異色のナンバー。

コーラスも子供たちが歌っていて、伝統色の濃い曲と思いきや、
途中でアブドゥ・ギテがフランス語で語りを入れます。
なんらか明快なメッセージを持つ曲なんでしょう。
こういう曲を冒頭に置くところに、気骨を感じさせるじゃないですか。

そして、2曲目からは一転、
サバールとタマが炸裂するストレイトなンバラが炸裂します。
アブドゥ・ギテ・セックは、味のある歌い回しを持つシンガーで、
ユッスーと節回しがそっくり。ユッスーばりのハイ・トーンは炸裂しないけれど、
知らずに聞いたら、ユッスーと思う人がいるんじゃないかな。

そして、バンドの演奏力もすごく高いんですよ。
リズム・セクションがタイトに引き締まっていて、
ドラムスとパーカッションの絡みなど、小気味いい場面を随所に作っているし、
ギターも要所で光るプレイを聞かせます。
気になって、ジャケット裏のクレジットを見たら、
なんと、ジミー・ンバイじゃないですか!
ご存じ、ユッスーのシュペール・エトワールの名ギタリストですよ。

6曲目では、途中からサルサ・タッチのピアノがフィーチャーされるなど、
アレンジも気が利いています。
アレンジはアブドゥ・ギテとドラムスのウスマンヌ・カに二人が担当しています。

アブドゥ・ギテ・セック、あらためて経歴を調べてみると、
79年6月18日、サン=ルイのグリオの家系に生まれた人。
96年にサン=ルイでフランス白人のドラマーと、ンバラとロックをミックスしたバンド、
ウォック(ウォロフとロックの合成語)を結成して活動したのち、
02年にソロ・デビューしたといいます。

そういえば、この人のCD第1作の04年作を持ってたけど、手放しちゃったな。
デビュー・カセットから数えて今作で8作目。
十分なキャリアを積んだ人ならではの、ンバラ会心作です。

Abdou Guité Seck "NDIOUKEUL" AGS Music no number (2017)
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ンバラ100% ユッスー・ンドゥール [西アフリカ]

Youssou Ndour  SEENI VALEURS.jpg

まじりっけなしのンバラ。

昨年の“SENEGAAL REKK” に続き、
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2016-12-16
地元セネガルでリリースされたユッスー・ンドゥールの新作は、
これまたまぎれもなくストレイトなンバラです。
いやあ、やっぱ底力が違うじゃないですか。
迷うことなく、またンバラを歌うようになったユッスー、
この輝きは他の誰にもマネできませんよ。

アラブへ行ったり、レゲエに行ったり、ジャズに行ったりと、
チャレンジといえば聞こえはいいけれど、
自分のやりたい音楽がなくなっちゃったんじゃないのという不満を、
かれこれ十年以上抱いていただけに、
この本格的なンバラ回帰には、やっと帰って来てくれたかという感慨があります。

他の音楽を試みることじたいは、もちろん批判されることじゃありません。
でも、その試行錯誤が、自分たちが育てたンバラにフィードバックされないのなら、
なんのためのチャレンジなのかと思ってしまうんですよね。
ンバラをより深める方向に向かわないことに、ずっと苛立ちを覚えていたんですよ。

昔のような輝かしいハイ・トーン・ヴォイスが出なくなろうが、
そんなことはかまいません。
どんな歌手だろうと、加齢は避けられないんだから、
年を取れば取ったなりの、老練な表現を身につけるだけの話じゃないですか。
だから、かつてのユッスーのハイ・トーンが聞かれなくなったことは、
ぼくにはちっともマイナスに感じません。

それよりも、円熟したンバラを聞かせてほしい。
かつてダカールの若者の音楽として誕生したンバラを、
大人の音楽として円熟した姿で示してほしいんですよ。
それをユッスーは、ついに見せてくれました。

前作で、インターナショナル向けにリリースされた“AFRICA REKK” と、
セネガル現地向けにリリースされた“SENEGAAL REKK” の
アルバム・タイトルのキー・ワードとなっていたウォルフ語の‘rekk’ とは、
‘onlly’ を指す言葉なんですってね。

それなら、「アフリカ」や「セネガル」という顧客マーケットを限定するんじゃなくて、
“MBALAX REKK” と音楽性を絞るのが、アナタのミッションでしょうが(←お説教)。
その昔、ポップ・ライが盛り上がった80年代に、
「ライ100%」というキャッチ・フレーズをよく目にしたけど、
「ンバラ100%」という心意気で、頼むよ、ほんとに。

P.S. しかし、今回の新作、ジャケットにはアーティスト名の記載なし。
どこを探しても、ユッスーのユの字もありません。う~ん、大物です。

Youssou Ndour "SEENI VALEURS" Prince Arts no number (2017)
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ファンシーなアヴァン・ジャズ メアリー・ハルヴァーソン [北アメリカ]

Mary Halvorson Octet  AWAY WITH YOU.jpg

こんな人がいたなんて。

『ミュージック・マガジン』8月号の特集記事「越境するギタリストたち」で、
初めてその名を知ったメアリー・ハルヴァーソン。
エリック・ドルフィーが今の時代に生まれ変わって、もしギターを弾いたら、
きっとこんなプレイをするんじゃないかと思わせるような、
独自の語法を持っている人で、その個性は際立っています。

ブルックリンを拠点に活動している人だそうで、
現在所属するファイアーハウス・12のレーベル・メイトでもある
アンソニー・ブラクストンやイングリッド・ラブロックとも共演歴があります。
クリアなギター・トーンを特徴としていて、
エフェクトに頼らず、ギター一丁で勝負する潔さが男前じゃないですか。

いちおうフリー系のギタリストとして括られる人だとは思うんですけれど、
彼女が演奏しているのは、フリー・ジャズじゃありませんね。
一聴して、ドルフィーを思い浮かべたように、
チャーリー・パーカーからの伝統を継いだ、
正統的なジャズの語法を持つ人だと思いますよ。

正統的とはいえ、その独自の音楽セオリーによるアブストラクトな語法は、
ドルフィー・クラスのジャズに相通じるんだから、スゴイ才能の持ち主ですよ。
パーカー~ドルフィー派のぼくにとって、これほど好みのプレイヤーはありません。
すっかり舞い上がっちゃいましたよ。

トランペット、アルト・サックス、テナー・サックス、トロンボーンの4管に、
ペダル・スティール・ギター、ベース、ドラムスのオクテット編成の本作は、
メアリーのギター・プレイばかりでなく、楽曲がすばらしくて、
コンポジションの才能も並外れています。
こちらは、カーラ・ブレイやヘンリー・スレッギル級ですよ。

穏やかな曲調が多いんですが、整合感のある穏やかさの中で、
メロディが逸脱して狂っていくようなところが、たまんないんです。
いや、もう、まいっちゃったな。

びっくりして、ファイアーハウス・12のサイトから、メアリーの過去作を聞いてみたら、
これがまた、全部いいんですね、ホントに。
こりゃあ、もうまとめて買うしかないだろう、と舞い上がったんですが、
なんだか冷静さを失ってるような気もするので、
一晩寝て、もう一度試聴することにしました。
で、翌日再トライしたわけなんですが、結果は同じ。
えぇ~い、ままよとばかり、一気に5作をまとめてオーダーしちゃいました。

こんな惚れ込み方をする音楽家と出会えるなんて、
人生、そうそうあるこっちゃない。
いや~、なんか嬉しいなあ。
こういう出会いがあるから、音楽を聴く喜びがあるっていうもんですよね。

ご本人の写真を見ると、知的な文学少女といった風貌の眼鏡女子で、
なんか、すごく意外なんですけど。
ギルドのフル・ボディのギターを抱えている姿は、
ジャズ・ミュージシャンというより、学校の先生みたい。

ファンシーなアヴァン・ジャズ、圧倒支持します。

Mary Halvorson Octet "AWAY WITH YOU" Firehouse 12 FH12-04-01-024 (2016)

【訂正とおわび】2023.2.10
メアリー・ハルヴァーソンをカナダ生まれと誤解をしていて、
カナダ人のように書いていましたが、誤りでした。
正しくは、マサチューセッツのブルックライン生まれのアメリカ人です。
拙著『音楽航海日誌』で、本記事をカナダの項に収録したのも誤りです。
謹んで訂正いたします。
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ラテンとサルサの違い ルベーン・ブラデス [中央アメリカ]

Rubén Blades   SALSA BIG BAND.jpg

ひさしぶりのルベーン・ブラデスに、
「いいじゃん、いいじゃん」と盛り上がった前作。
(そのわりにイヤミな書きっぷりになりましたが)
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2017-05-01

はや新作が届くとは、精力的ですねえ。
というか、前作が2年遅れで入ってきたからでもあるんですが、
今回も、パナマのロベルト・デルガード率いるオルケスタが伴奏を務めています。
『サルサ・ビッグ・バンド』のタイトルどおり、
トロンボーン×3、トランペット×2、サックスを擁していて、
重厚でパワフルなサウンドというより、アレンジの妙でヌケのいいサウンドを
聞かせてくれるのが、このオルケスタの特徴ですね。

今回聴いていて、あらためて思ったのは、
ルベーンって、サルサの歌手だなあということ。
特にスローを歌うと、明らかなんですけれど、
ボレーロといった雰囲気がぜんぜん出てこないんですよね、ルベーンの歌って。
むしろ、ロックやソウルのシンガーが歌う、バラードやスローに近い感覚。
そこに、ブーガルーを通過した世代特有のセンスを感じます。

今思えば、チェオ・フェリシアーノとの共演作でも、
その歌いぶりの差は歴然としてましたね。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2012-06-14
チェオ・フェリシアーノもサルサ時代に活躍したサルサを代表するシンガーとはいえ、
その歌いぶりやセンス、味わいは、伝統的なラテンの美学を引き継いだものでした。
でも、ルベーンは違いますね。ルベーンにラテンの美学はない。
だからこそ、のちにロック的なセイス・デル・ソラールに向かったのは、
自然なことだったんでしょう。

今作はスロー・ナンバーが多いので、余計にそんなことを感じたわけなんですが、
70年の“DE PANAMÁ A NEW YORK” で歌った“El Pescador” の再演では、
前半をフォー・ビートにアレンジしてジャジーに歌っていて、
オリジナルのトロンバンガ・サウンドのスロー・バラードとは
また違った趣を醸し出しています。
いずれにせよ、その世界観は、ボレーロとは別物といえますね。

Rubén Blades - Roberto Delgado & Orquesta "SALSA BIG BAND" Rubén Blades Productions no number (2017)
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ついに日本でリリースされたルークトゥンの女王 プムプワン・ドゥワンチャン [東南アジア]

Phumphuang Duanchan  LAM PHLOEN PHUMPHUANG DUANDHAN.jpg

「プムプワン本邦初の公式リリース」というメーカー・インフォメーションに、
思わずため息。
そうかぁ。ルークトゥンの女王とみなされた最大のスター、プムプワンのCDすら、
日本ではこれまで1枚も出ていなかったんだっけ。

90年代のワールド・ミュージック・ブームの時代には、
欧米経由ではなく、日本人によって紹介された東南アジアの音楽も
たくさんあったように記憶していましたけれど、それはすべて現地輸入盤で、
結局国内CDとしてリリースされたのは、
インドネシアとマレイシアぐらいしかなかったんだなあ。
タイやミャンマーやカンボジアは、蚊帳の外だったんですね。

それにしても、タイ音楽を掘り下げる Soi48 の活動ぶりには、
目を見張ります。今年彼らが出版した
『旅するタイ・イサーン音楽ディスク・ガイド TRIP TO ISAN』は、
たいへんな労作でした。
こんなにドキドキ・わくわくしながらページをめくった音楽書は、何年ぶりでしたかね。
今回のプムプワン・ドゥワンチャンの絶頂期にあたる、知られざるアルバムの復刻は、
まさしく彼ら(宇都木景一さん&高木紳介さん)にしかできない仕事といえます。

わずか30歳で夭折してしまったプムプワン・ドゥワンチャンの絶頂期が
80年代半ばだったことは、熱心なマニアの間での了解事項となっていましたけれど、
ぼくが当時の録音を聴くことができたのは、ずっと後のことで、
ようやく2000年代に入ってからでした。
なんせ当時のタイのメディアの主流はカセットだったので、
CDしか聞かない非マニアのファンにとっては、
CDでオリジナルのカセット音源を聴けるようになるまで、すごく時間がかかったんです。

Pumpuang Duangjan  NAAMPHUNG DUAN HAA.jpg

プムプワン・ドゥワンチャンというすごい歌手がいると知ったのも、
カセットとCDが同時リリースされた
91年の晩年作“NAAMPHUNG DUAN HAA” があったからこそ。
そこからプムプワンの過去作を追っかけていったものの、
その翌年にプムプワンが亡くなり、追悼に便乗してやたらとリリースされたCDは、
新旧録音ごちゃまぜの編集盤ばかりで、
なかなかプムプワンの全貌を捉えることができませんでした。

Phumphuang Duanchan  150KT002.jpg   Phumphuang Duanchan  150KT003.jpg
Phumphuang Duanchan  150KT004.jpg   Phumphuang Duanchan  150KT001.jpg

カセットを熱心に聴くマニアだけが知っていたプムプワンの黄金期は、
アゾーナと契約していた時代。
83年から86年にアゾーナからリリースされたカセット8作品が
2イン1でCD化されたのは、04年のことでした。

今回復刻されたのは、アゾーナと契約が切れた直後の80年代半ばの作品。
ポップな感覚のルークトゥンで売り出していた当時としては異色の、
イサーン色の強いラム・プルーンを歌ったモーラム・アルバムで、
こんなアルバムがあったとは知りませんでした。
楽勝でモーラムも歌えるんですねえ。すごいな。

日本で初めて紹介される、ルークトゥンの女王プムプワンのCDが、
彼女のキャリアとしては異色の、地味なモーラム・アルバムだというのは、
初めてプムプワンを聴く人にとってはどうなのとも思いますけれど、
内容は極上なのだから、目をつむっちゃいましょうね。

テレサ・テンみたいなジャケットの絵が、80年代半ばにしてはやや違和感があり、
初期の録音をまとめたCDに近い雰囲気がありますけれど、
この絵はオリジナルなんでしょうか。
ライナーには本作の原盤ジャケットの写真が載せられていないのが、残念です。

どんなタイプの曲にも対応する、プムプワンの天才的な歌いぶりは、
この80年代半ばがまさしく絶頂といえますけれど、
それ以前の初期の録音にも魅力的なものは多く、
初期録音をまとめた好編集のCDを最後にご紹介しておきますね。

Phumphuang Duanchan  VOL. 1.jpg   Phumphuang Duanchan  CHIEWIT COHN PHUM.jpg
Phumphuang Duanchan  KUN MYLACK TANMY MYBOAK.jpg   Phumphuang Duanchan  SATCHAKUM CUP KWAAM LACK.jpg

Phumphuang Duanchan "LAM PHLOEN PHUMPHUANG DUANDHAN” EM EM1166CD
Phumphuang Duanchan "NAAMPHUNG DUAN HAA" BKP BKPCD58 (1991)
Phumphuang Duanchan "JA HAI RAW PORSOR NAI / DUANG TA DUANG JAI” Azona/KT Center 150KT002 (1982/1982)
Phumphuang Duanchan "SAO NA SUNG FAN / NAD POB NA AMPUR” Azona/KT Center 150KT003 (1983/1984)
Phumphuang Duanchan "TIN NAH LOOM THUNG / KON DAN LOOM RAN KWAAI” Azona/KT Center 150KT004 (1984/1985)
Phumphuang Duanchan "EU HEU LOR JUNG / HAN NOI TOY NIT” Azona/KT Center 150KT001 (1985/1986)
Phumphuang Duanchan "VOL. 1" Tulip Entertainment CDL029
Phumphuang Duanchan "CHIEWIT COHN PHUM" Lepso Studio LPSCD42A11
Phumphuang Duanchan "KUN MYLACK TANMY MYBOAK" Lepso Studio LPSCD42A64
Phumphuang Duanchan "SATCHAKUM CUP KWAAM LACK" Saha Kuang Heng SKHCD032
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50年代のサンバ・カーニヴァル [ブラジル]

GENUÍNO CARNAVAL BRASILEIRO.jpg

ジョアン・マカコーンの新作で、
オルランド・シルヴァやジョルジ・ヴェイガが愛唱したサンバを聴いていたところに、
どういう風の吹き回しか、その二人に加え、カルメン・コスタや
ジャクソン・ド・パンデイロ、ブラック=アウトといった往時の人気歌手たちが歌う、
50年代半ばのカルナヴァル(カーニヴァル)集が届きました。

ブラジルでは、LP初期の時代から、毎年カーニヴァルの季節になると、
各レコード会社が競ってサンバ・アルバムを出していましたけれど、
今回届いたのは、コパカバーナ社が出した55年と56年の10インチ盤2枚のリイシューCD。
これに加えて、57年にトゥルマ・ダ・ガフィエイラを名乗る楽団が演奏する、
アルタミーロ・カリーリョ曲集の10インチ盤も一緒に復刻されています。

Carnaval 55.jpg   Carnaval 57.jpg

ぼくは、55年と57年の10インチ盤2枚を持っていますが、
56年の10インチ盤は持っていなかったので、今回初めて聴きます。
こうした企画アルバムが復刻されることは、めったにないことで、
なんでこんな昔のカーニヴァル集がCD化されたのか、謎なんですけど、
CD化したのはブラジルではなく、なんとポルトガルのCNM。

オフィス・サンビーニャの配給で日本に入ってきたCDで、
10年にポルトガルで出ていたんですね。知りませんでした。
どういう経緯で復刻されたのかわかりませんが、
曲目と歌手名、作詞・作曲者のクレジットがあるだけで、
解説の1文もなく、表紙はペラ紙1枚というそっけなさ。
せっかくの貴重な音源なのに、これヒドくない?
半世紀以上も昔のカーニヴァル集を、こんなテキトーな作りで復刻して、
果たして売り物になるんでしょうかね。

まあ、それはさておき、今のカーニヴァルと比べると、
ずいぶん素朴に聞こえるかもしれませんけれど、
まだ大資本の匂いのしない大衆味に溢れていて、
ほっこりとした温もりが伝わってきますよね。
ポコポコしたパーカッションの響きに、50年代のムードが溢れます。
ジャクソン・ド・パンデイロのポップさには韜晦味もあって、
北東部人ならではのセンスを発揮しているんじゃないでしょうか。

そして、カーニヴァル集のあとに収録されたトゥルマ・ダ・ガフィエイラが、貴重なんです。
クレジットがないので、書いておきますけど、エジソン・マシャード(ドラムス)、
シヴーカ(アコーディオン)、アルタミーロ・カリーリョ(フルート)、
ラウル・ジ・ソウザ(トロンボーン)、マウリリオ・サントス(トランペット)、
シポー、ぜー・ボデガ(サックス)、ゼキーニャ・マリーニョ(ピアノ)、
ルイス・マリーニョ(ベース)、ネストール・カンポス(ギター)という面々なんですよ。

当時最高の名手たちが勢揃いしているのもナットクのカッコよさで、
さすがこの面々のプレイだと、今聴いても、古さを感じさせませんよねえ。
トゥルマ・ダ・ガフィエイラにはもう1枚12インチLP(“SAMBA EM HI-FI”)があって、
そちらでは、バーデン・パウエルがギターを弾いているんです。

できれば、カーニヴァル集の方とは別に、
トゥルマ・ダ・ガフィエイラの2枚をCD化して欲しかったなあ。
それで、カーニヴァル集の方は、55・56・57年の3枚でCD化してくれれば最高でしたね。
とまあ、ファンはいろいろ勝手なことを言うものですけれど、
50年代のカーニヴァル集を聞いたことのない人なら、マストな逸品であります。

【追記】2017.11.26 
コパカバーナ社が出した56年のカーニヴァル集を見つけたので、画像を貼っておきます。
顔切り抜きデザインの裏ジャケットも、いいですね。

Carnaval 56.jpg   Carnaval 56 Back.jpg

Black-Out, Jorge Veiga, Orlando Silva, Carmen Costa, Jackson Do Pandeiro, Angela Maria, Turma Da Gafieira and others
"GENUÍNO CARNAVAL BRASILEIRO" CNM CNM239CD
[10インチ] Black-Out, Jorge Veiga, Orlando Silva, Carmen Costa, Jackson Do Pandeiro, Gilberto Alves
"CARNAVAL COPACABANA DE 1955" Copacabana CLP2004 (1955)
[10インチ] Emilhinha Borba, Jorge Goulart, Vera Lucia, Ruy Rey, Vagalumes Do Luar, Duo Guaruja, Nora Ney and others
"CARNAVAL 57" Continental LPP47 (1957)
[10インチ] Angela Maria, Jorge Veiga, Gilberto Alves, Roberto Silva, Carmen Costa, Jackson Do Pandeiro, Black-Out and others
"CARNAVAL DE 1956" Copacabana CLP3018 (1956)
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古いサンバ・カンソーンの灯を消さないで ジョアン・マカコーン [ブラジル]

João Macacão  BAILE DE CHORO.jpg

あぁ、こういう人の新作が、ちゃんと出るというのは嬉しいですねえ。
サンバ新世代のシーンが活発になって、またサンバに光が当たっているとはいえ、
こういう古いサンバを聴く人なんて、今のブラジルではほとんどいないだろうに、
それでも、きちんとCDが出るところに、ブラジル音楽業界の懐の深さを感じます。

シルヴィオ・カルダスの伴奏を20年以上務めた7弦ギタリスト、
ジョアン・マカコーンの新作です。
この人のおそらくデビュー作だったと思うんですけれど、
06年作を聴いて、頬がすっかりゆるんでしまったのを思い出します。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2009-07-22

古いサンバ・カンソーンやセレスタが好きな人には、
どストライクなサンビスタといえますけど、
そんな奇特な人にお目にかかったことがないもんなあ。
日本のどこかに、そんなファンが10人くらいはいそうな気がしますけど、
そういう人は、ネットとか見ない年代かもしれないなあ。
この記事が、そんなファンの目にとまれば、嬉しいんだけれど。

João Macacão  CONSEQUÊNCIAS.jpg

前作“CONSEQUÊNCIAS” も、アタウルフォ・アルヴィス、アリ・バローゾ、
パウロ・ヴァンゾリーニ、カルトーラ、ゼー・ケチといった人たちの、
シブい選曲で楽しませてくれましたが、
今回も、古いサンバ・ファンにはこたえられないレパートリーが選ばれています。

ネルソン・ゴンサルヴィスが歌った“A Deusa Da Minha Rua”、
オルランド・シルヴァが歌った“Curare”、
ジョルジ・ヴェイガが歌った“Piston De Gafieira”。
どれもメロディがいいよなあ。
今のサンバとは、情の濃さが段違いで、比べ物にならないですよね。

今作でも、バンドリン奏者ミルトン・ジ・モリをはじめとする、
伴奏陣のサンバ/ショーロのしっかりとした演奏が、
ノスタルジアに陥らない現代性を加味して、
低音ヴォイスのジョアンの味わい深い歌声を支えています。

João Macacão "BAILE DE CHORO" Pôr Do Som PDS0065 (2016)
João Macacão "CONSEQUÊNCIAS" Pôr Do Som/Atração ATR37045 (2013)
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セカンド・ライン・ファンクのクイーン シャーメイン・ネヴィル [北アメリカ]

Charmaine Neville  QUEEN OF THE MARDI GRAS.jpg

真夏の定番の話題をもうひとつ。
これは納涼用に夜聴くアルバムではなくて、
暑い夏は熱く燃えようぜ!という、真っ昼間のダンス・アルバムであります。

ネヴィル・ブラザーズのチャールズ・ネヴィルの娘、
シャーメイン・ネヴィルの最高傑作、98年の“QUEEN OF THE MARDI GRAS” です。
タイトルそのまんま、マルディ・グラのお祭り気分をたっぷり味わえる、
これぞニュー・オーリンズといった一枚で、愛聴されている人も多いんじゃないかな。

“Iko Iko” “Mardi Gras Mambo” “Second Line” “Mardi Gras in New Orleans” など、
おなじみの曲をハツラツと歌うシャーメインは、
さながら、ニュー・オーリンズのおてんば娘、といったところ。
ヒャッハァー! といった吹っ切れた歌いっぷりも気持ちいいんですけれど、
そのヴォーカル表現にはなかなか奥行きもあって、
ただ陽気なばかりじゃないってところに、引きこまれます。
アルバム・ラストの“Clean Up” で、終わりを告げるマルディ・グラを見送るような、
哀切のこもった歌いぶりも、味があります。

スタジオ・ライヴのような感じでレコーディングされた
ライヴ感あふれる演奏は、ギミックなしのストレイトさで、胸をすきます。
曲によりバリトン、アルト、ソプラノとサックスを吹き分けている、
レジー・ヒューストンが大好演。本作のサウンドの要となっています。
山岸潤史の職人的なギターも、随所で光るプレイを聞かせていますよ。

セカンド・ライン・ファンクの合間に、
メンバーみんなで口笛を吹く“Whistle Krewe” のような曲があったりと、
アルバムは変化に富んでいて、楽しいことこの上なし。

シャーメインはこのアルバム以前の92年に、自身のバンドを率いて来日し、
ニューポート・ジャズ・フェスティバル・イン・斑尾に出演していたそうです。
05年のハリケーン・カトリーナの被害では、シャーメインが生々しい惨状を伝えて、
話題を呼んだこともありましたね。
その後、CADASIL(遺伝性脳小血管病)という
難病と闘っているという話を聞いて心配しましたが、
2017年の今も、元気にライヴ活動をしているようです。

Charmaine Neville "QUEEN OF THE MARDI GRAS" Ten Birds GT1120 (1998)
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南国リゾートのラウンジで ビバップ・バハマ [北アメリカ]

BeBop Bahama.jpg

マイアミから飛行機で、カリブ海をひとっ飛び。
カリブ海の一大リゾート地、バハマのナッソーのホテルに宿泊して、
ラウンジのバーでくつろいでいると、
ハウス・バンドのショウ・タイムが始まりました。

ビバップ・バハマの音楽を表わすなら、こんな感じでしょうか。
肩肘の張らない、イージー・リスニング・ジャズ。
ラウンジー気分で楽しめる、夏の夜の納涼盤であります。
久し振りに思い出して、棚から取り出してきました。

ビバップ・バハマは、スティール・ドラムをリーダーとする、
ヴィブラフォン、ベース、ギター、ドラムスの5人編成。
ヴィブラフォンとベースは、曲により交替する別の2人がいて、
7人の名がクレジットされています。

スティール・ドラムでジャズというと、
モンティ・アレキサンダーとオセロ・モリノーの共演や、
現在来日中のアンディ・ナレルを思い浮かべますけれど、
こちらは、もっとイージー・リスニング寄りのグループ。

レパートリーは“On The Sunny Side of The Street”
“Shiny Stockings” “Here's That Rainy Day” “In A Mellow Tone”
といった有名スタンダード曲が中心で、
グループ名にビバップを名乗るだけあって、
ガレスピーとパーカーの古典曲“Groovin' High” “Au Privave” を取り上げ、
カリプソにアレンジしたところがミソ。

選曲はいかにも凡庸で、典型的なBGM用の駄盤に思われがちですけど、
これがあにはからんや、なかなかいいんです。
スティール・ドラムをフィーチャーしたイージー・リスニングもので、
このビバップ・バハマは、頭一つ抜けた作品といえますね。

正直買う前は、あまりにヒドいジャケット・デザインに、ビビったんですどね。
コンピュターで書いたヘタウマならぬ、テキトーなグラフィックは、キッチュの極み。
スティール・ドラムとベースとドラムスが演奏するステージは、
カリブというよりポリネシアのイメージだし、
なんだかティキティキみたいな安っぽい南国風レストランみたいで、
聴く気も萎えるんですが、これは侮れない一枚です。

あ、ちなみに、メンバーは全員LA出身のミュージシャンです。
バハマのミュージシャンというわけではないので、あしからず。

BeBop Bahama "BEBOP BAHAMA" Sea Breeze SB3064 (2004)
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