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ヴェトナム演歌の歌謡ショー フーン・トゥイ [東南アジア]

Hương Thủy  DÒNG ĐỜI.jpg

ひさしぶりに聴く、越僑歌手の新作です。
というと、お、ニュ・クイン!なんて思われる方もいるでしょうが、
残念ながらそうじゃないんだな。
フーン・トゥイ、4年ぶりのアルバムです。
みんなが待ち焦がれるニュ・クインの新作の方は、
ちっとも出る気配がありません。
ステージ・シンガーに収まってしまったみたいで、残念すぎます。

フーン・トゥイの方も、13年の前作から久しぶりのリリースで、
これが6作目となります。この人を知ったのは、だいぶあとになってからで、
作品をさかのぼって聴きましたが、2作目にあたる06年作がダントツでしたね。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2012-12-21

フーン・トゥイは現在43歳と、いままさに旬といえる、
脂の乗り切った歌声を聞かせてくれます。
明快なディクションに、メリハリの利いた歌い回し、
キレ味抜群の歌いっぷりは、天下一品です。

カイルオンの味わいを伝える、南部らしい雰囲気を持った歌謡歌手ですが、
本作ではカイルオンのレパートリーはないものの、
本格的なヴォンコやタンコを歌ってきたキャリアに裏打ちされた節回し、
とりわけ、こぶし使いの技巧には、思わずため息がこぼれます。

ダン・バウ(1弦琴)やダン・チャン(箏)、ダン・ニー(胡弓)などの
伝統楽器も効果的に配したプロダクションは、
まさに大衆歌謡路線ど真ん中でしょう。
4曲目でフィーチャーされる濁った音色のギター・フィムロンなんて、
おおっと、身を乗り出しちゃいましたからね。

ここのところヴェトナム本国の歌手による、
上品な戦前抒情歌謡のボレーロばかり聴いていたせいか、
ぐっとくだけた大衆味あふれる演歌調レパートリーが、新鮮に聞こえます。

Hương Thủy "DÒNG ĐỜI" Thúy Nga no number (2017)
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没後4年目に完成した傑作 ミカヤ・ベハイル [東アフリカ]

Mikaya Behailu  2017.jpg   Mikaya Behailu  2007.jpg

ネッサネット・メレセの新作、聴けば聴くほどイイですね。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2018-01-06
年末年始、絶賛ヘヴィロテ中、まだまだ続きそうです。
年末に2017年のベスト10を選び終えてから聴いたもので、
もう1枚も替えたくなかったから、ブログの記事を年始に後送りして、
2018年のベストに入れようという、セコいまねもしたりして。
グリグリこぶしを回す、ネッサネットのエチオ演歌ぶりも痛快ですけれど、
なんといっても嬉しいのは、生演奏という点。
やっぱ人力演奏は、打ち込み代用では出せないグルーヴがありますよ。

そんな快感を味わえるアルバムがまたひとつ、届きました。
ミカヤ・ベハイルという女性歌手の新作。
見覚えのある顔だなと思って、棚をごそごそ探したら、
ありましたね、07年のデビュー作が。
正直デビュー作はあまり印象に残っていなかったんですけれど、
本作での生音グルーヴにのる、ハイ・トーンとファルセットには、
グッときてしまいました。

あれえ、こんないい歌手だったっけ。
あらためてデビュー作を聴き直してみると、チープな打ち込みとショボいミックスのせいで、
ミカヤの個性的な歌声が生かされず、残念な仕上がりとなっていました。
この人の最大の魅力は、独特のハイ・トーンのシャウト。
パワフルにシャウトしているのに、ふんわりとした軽い声のせいで、
押しつけがましさがなく、シャウトしていることじたいを意識させません。
ファルセットも柔らかでふくよかなところが、とても魅力的です。

充実したプロダクションは、一聴して、ネッサネットの新作同様の生演奏と
思い込んだんですが、よくよく聞けば、打ち込みもありますね。
とはいえ、生のドラミングを模したデリケイトな使い方なので、チープ感はありません。
デビュー作は、コンテンポラリー・ポップな曲ばかりでしたけれど、
本作には、情感溢れるスローのエチオ歌謡ティジータあり、
マシンコやケベロをフィーチャーしたアムハラ民謡調もあり、
その一方、オルガン、ピアノ、サックスをフィーチャーしたジャジーなトラックに、
ポップなダンス・トラックやレゲエとカラフルなレパートリーを楽しめます。

本作はデビュー作以来のアルバムとなりますが、
なんとミカヤは、慢性の自己免疫疾患によって、
13年のクリスマス・イヴに亡くなるという、突然の悲劇に見舞われていたのでした。
まだ30代半ば、娘さんが一人いるとのことで、なんとも痛ましく言葉を失います。
ミカヤの死後、未完成のままとなっている録音の存在がテレビ番組で明かされると、
ファンから多くの反響が巻き起こり、あらためて多くのプロデューサーから録音が集められ、
最終的にシカゴでミックスして、本作が完成したといいます。

バラエティ豊かなレパートリーやプロダクションに違いがあるのは、このためのようで、
ミックスのクオリティも、デビュー作とは段違いの仕上がりとなりました。
若くして亡くなった才能あるシンガーにふさわしい、丁寧な制作の傑作です。

Mikaya Behailu "GIZE BINEGUDIM" Vocal no number (2017)
Mikaya Behailu "SHEMAMETEW" Nahom NR2257 (2007)
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ミャンマー・エレクトロ・ヒップ・ホップ ターソー [東南アジア]

Thxa Soe.jpg

昨年暮れのメーテッタースウェの新作の記事の最後に、
「カッティング・エッジなんて価値観とは、正反対のポップスがここには存在する」
と書きましたけれど、それじゃあ、ミャンマーのカッティング・エッジといえば、
それは間違いなく、ターソーでしょうね。

80年ヤンゴン生まれという、ヒップ・ホップ世代ど真ん中のターソー。
軍事政権下のミャンマーで、アンダーグラウンドなヒップ・ホップ・ユニットを結成して
活動していたという経歴も、世界津々浦々に存在する
ヒップ・ホップかぶれにありがちな話で、それ自体はどうってことありません。

面白いのは、それからあとの話で、ゼロ年代初めにロンドンへ留学し、
そこでドラムンベースなどのアンダーグラウンド・シーンを体験し、
同時に大英図書館でミャンマーの伝統音楽と出会って
衝撃を受けたというんですね。

まあ、ヒップ・ホップにカブれる若者だから、
自国の伝統音楽に無知なのも当然なんだけど、
ロンドンまで留学しなけりゃ、自国の文化と出会えないっていう距離感、
なんとかならないのかねえ。
若者と伝統音楽の断絶ぶりは、どの国も深刻だよなあ。
日本の若者が雅楽や三味線音楽を知らないのだって、もう半世紀以上になるし。

で、大英図書館で聴いた伝統音楽が、
まるでエレクトロ・ハウスのように聞こえたっていうんだから、傑作です。
そして帰国後、ミャンマーの伝統音楽とエレクトロニック・ミュージックを融合した音楽を
ターソーは試みるようになるんですが、これがブットビの面白さで、
ぼくもYoutubeで初めて観て、なんじゃあ、こりゃあと、大声をあげてしまいました。

そこでは、伝統衣装をまとった男女複数のダンサーたちが、
伝統音楽のメロディをヒップ・ホップのリズムにのせたトラックで踊り、
ステージの中央では、ターソーがラップをしながら、アジりまくっているんです。
その間、ステージ脇からは、観客に向けて何本ものホースで放水されて、
びしょ濡れになった観客たちが熱狂して踊りまくるという、
ダジャン(水かけ祭り)さながらのヤンゴン・レイヴが繰り広げられていたのでした。

別のヴィデオでは、大勢のきらびやかな伝統衣装のダンサーたちが舞い、
その中央で、黒のスーツという地味な姿のターソーがラップするというステージ。
バックでは生のサイン・ワイン楽団とDJがプレイしていて、
見事にショー化された演芸の世界。そんなスペクタクル・ショウに、
若い観客が熱狂しているんです。

この二つのヴィデオを観て、とんでもないことが起こっているという予感はしましたが、
その後手に入れたターソーのCDは、残念ながら、
ライヴのエネルギーの100分の1も感じられなくて、がっくり。
う~ん、あの熱狂と猥雑を、なんとかパッケージできないものかと願ってたんですが、
ついにやりましたね。今回入手した14年作は、
映像から受けた衝撃を追体験できる快作なのでした。

冒頭M1・2の2部構成のアルバム・タイトル・トラックは、
サイン・ワインとエレクトロをがっちり融合させたアッパーなナンバー。
江南スタイルも取り入れ、フロアの熱狂を誘うこと間違いなしでしょう。
アルバム全編で、サイン・ワイン、フネー(チャルメラ)、ゴング、大太鼓など
伝統楽器の響きばかりでなく、ミャンマーの伝統的なメロディも散りばめ、
四つ打ちのエレクトロ・ビートにのせた手腕が鮮やかです。

童謡みたいなメロディのM8“Thu” など、
ハードコアに傾かない親しみのあるポップ・センスがいいなあ。
バングラ・ビートあたりにも通じる芸能感覚が、ツボです。
このあとの15年作も聴いてみたいっ!

Thxa Soe "YAW THA MA PAUNG CHOTE" no label no number (2014)
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真冬のピッツィカ カンツォニエレ・グレカーニコ・サレンティーノ [南ヨーロッパ]

Canzoniere Grecanico Salentino  CANZONIERE.jpg   Canzoniere Grecanico Salentino BALLATI TUTTI QUANTI BALLATI FORTE.jpg   
Canzoniere Grecanico Salentino  FOCU D’AMORE.jpg   Canzoniere Grecanico Salentino  PIZZICA ONDIAVOLATA.jpg


朝、玄関を開け、一歩外に踏み出した途端に包まれる冷気が、
スキー場か!という今日この頃ですけれど、
そんなシバれる頃になると、身体が欲する、南イタリアの音楽。

ナポリのタランテッラを聴くのが、ぼくは決まってこの季節なんですけど、
今年はサレントのピッツィカが届きました。
アドリア海とイオニア海に突き出ているサレント半島、
長靴のかかとの部分とよく形容される、そのサレント半島の中心都市
レッチェを拠点に活動する古参のグループ、
カンツォニエレ・グレカーニコ・サレンティーノの新作です。

彼らの熱心なフォロワーというわけではなく、飛び飛びに聴いてきただけなので、
一聴して、別のグループかと思うほど、垢抜けていたのには、ちょっとびっくり。
ずいぶんとコンテンポラリーなサウンドになったんですねえ。

前回の結成40周年記念作は、聴かないまま過ぎちゃいましたけれど、
たしかイアン・ブレナンがプロデュースしたんでしたよね。
今回は、ジョー・マーディン(アレフ・マーディンの息子)がプロデュースしていて、
曲もジョー・マーディン、マイケル・レオンハート、スコット・ジャコビー、
スティーヴ・スキナーと共作し、演奏にもそれぞれゲストで加わっています。
ピッツィカの土俗的な武骨さが影を潜め、楽曲もずいぶんとポップになったのは、
ちょっと肩すかしだったかな。よくプロデュースされたアルバムではあるんですけれど。

というわけで、旧作を取り出してみたんですが、手元にある一番古い作品は98年作。
80年代のアルバムも持っていたはずなんだけど、そうか、処分しちゃったか。
彼らの初期作は、ピッツィカの再興をめざす伝統保存の姿勢がまだ前面に出ていて、
アマチュアぽい生硬さが丸出しでしたからねえ。それがツラくって、手放したんだな。
その当時から比べると、格段に度量が広がって、プロっぽくなりましたよね。

伝統的なピッツィカばかりでなく、南イタリアの多彩なフォークロアも織り交ぜて、
カラフルに聞かせた10年作の“FOCU D’AMORE” は良かったなあ。
ダンサブルなピッツィカの野趣な味わいを残したまま、現代性を獲得した
12年作の“PIZZICA ONDIAVOLATA” も印象深かったですねえ。
ゲストのバラケ・シソコのコラが、驚くほど彼らのサウンドに馴染んでいました。

新作をきっかけに、また旧作をいろいろ聴く、
真冬のカンツォニエレ・グレカーニコ・サレンティーノです。

Canzoniere Grecanico Salentino "CANZONIERE" Ponderosa Music CD142 (2017)
Canzoniere Grecanico Salentino "BALLATI TUTTI QUANTI BALLATI FORTE" Dunya/Felmay 2175080112 (1998)
Canzoniere Grecanico Salentino "FOCU D’AMORE" Ponderosa Music & Art CD076 (2010)
Canzoniere Grecanico Salentino "PIZZICA ONDIAVOLATA" Ponderosa Music & Art CD102 (2012)
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情熱のピアニズム グレゴリー・プリヴァ [カリブ海]

20180119 Grégory Privat.jpg   20180119 Grégory Privat Trio.jpg

やっぱり観てみなきゃ、わからないもんです。
マルチニーク出身の若手ジャズ・ピアニスト、グレゴリー・プリヴァ。
1月19日、丸の内コットンクラブ一夜限りのショウ、セカンド・ステージ。
この人の音楽性が、ようやくわかった一夜でした。

当初、マラヴォワのピアニスト、ホセ・プリヴァの息子さんということで、
12年のデビュー作を大期待で聴いてみたわけなんですが、
正直、期待はずれでした。
グアドループのグウォ・カで演奏される、カという太鼓のパーカッショニストも加え、
クレオール・ジャズを演出するかのように装ってはいるんですが、
グレゴリーのピアノからは、ビギン、マズルカ、カドリーユといったクレオール音楽も、
ベル・エアー(べレ)やグウォ・カなどのアフロ・アンティーユ音楽も、
まーったく出てきません。

むしろ、この人のピアノ・タッチからは、
クラシックの素養がしっかり備わっていることが聴き取れ、
ミシェル・ペトルチアーニのようなジャズ・ピアニストだということがわかります。
じっさい、ジャズ・ピアノを志したのも、お父さんのレコード・コレクションから、
ミシェル・ペトルチアーニを探し当てたのがきっかけだったらしいし。

マルチニーク出身の若手ビギン・ジャズ・ピアニストなら、
エルヴェ・セルカルがいますけれど、
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2013-06-09
グレゴリーはまったく資質の異なるピアニストであることは、耳のある人なら瞭然でしょう。
なので、「カリビアングルーヴが胸を打つクレオール・ジャズの新星」という
コットンクラブのコピーが、まったくの的外れというか、ミス・リードだったので、
さて、どんなステージになるのやらと思っていました。

ステージは、最新作に収録されていた“Riddim” からスタート。
ダンスホール・レゲエを採り入れた曲だとご本人は語っていましたが、
ドラマーの4拍目のスネアのアクセントに、多少そのフシがあるくらいで、
レゲエとは似ても似つかぬもの。タイトル名だけ、カリビアン・ジャズを名乗るための
アリバイ作りしてんのかなという感じで、ちょっと鼻白んでいたりもしたんですが、
ライヴではだいぶ様相が違いましたよ。

演奏の始まりこそ、静謐なクラシカルなタッチで始まるんですが、
それ以降の展開がすごい。
徐々に熱を帯びていって、メロディをハーモニーの中に沈み込ませていったり、
反対にハーモニーからメロディを浮き立たせたりと、
さまざまに場面を変化させていきながら、
やがて両手で生み出す分厚いハーモニーが、音の壁のように積み上がっていって、
リズムの塊になって押し寄せてくるんです。気付いた時は、手に汗握る興奮に包まれ、
始まりの静謐な雰囲気など、どこかへ行ってしまったかのような高揚感に包まれます。

それがある局面を迎えると、ばあーっと音の壁が崩壊して、
また静謐で美しいタッチに戻るんですね。
このドラマティックな展開には、ちょっと驚かされました。
とにかく1曲の演奏が長いんです。どの曲も20分ぐらいやっていたんじゃないかな。

CDでは、上手いけど小粒なピアニストだなあ、なんて感想も持っていたんですが、
ライヴのエネルギーは、CDにはぜんぜん捉えられていませんね。
ステージは、エスビョルン・スヴェンソンに近いものを感じさせましたよ。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2016-08-26

デビュー作で女性が担っていたヴォイスを、
ライヴではグレゴリーがピアノを弾きながらハミングしていて、
ミナス的な色合いを付け加えていくところなどは、イマドキのジャズらしさもあり。
ダイナミックな展開にぐいぐい引きこんでいく、情熱のピアニズム。鮮やかでした。

Grégory Privat "KI KOTÉ" Gaya Music Production GPGCD001 (2012)
Grégory Privat Trio "FAMILY TREE" ACT ACT9834-2 (2016)
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理想のラッパ ウディ・ショウ [北アメリカ]

Woody Shaw  AT ONKEL PO’S CARNEGIE HALL VOL.1.jpg

悶絶。
やっぱ、ウディ・ショウのラッパ、かっこえ~。
ジャズ・トランペットの理想形ですね。

ビル・エヴァンスやウェス・モンゴメリーなど、
ジャズ・レジェンズの未発表音源の発掘が続く今日この頃。
いくらジャズが面白くなってきたといっても、
いまさら、この時代のジャズを聞き返す気にはならないので、
ずっとやりすごしていたんですけれど、さすがにリアルタイムで聴いていた
ウディ・ショウとなると、無視はできません。

発掘されたのは、82年、ハンブルクでのライヴ。
コロンビア時代の最終作“UNITED” (81)のメンバー、スティーヴ・トゥーリ、
マルグリュー・ミラー、スタッフォード・ジェイムズ、トニー・リーダスが勢ぞろい。

大学2年生の時に聞いたヴィレッジ・ヴァンガードのライヴ
“STEPPING STONES” (78)で、ショウのファンになったぼくですけれど、
これまでに聴いたショウのライヴでは、これ、間違いなく最高作ですね。
あぁ、80年に来日したのになあ。観ときゃよかったなあ。痛恨の見逃しであります。

ショウのラッパのブリリアントなことといったら。
フュージョンの一大ブームでジャズ冬の時代に、
アクースティックの新主流派ジャズを貫いた、ハードボイルドなお人でありましたね。
太くふくよかな音色で、大きく跳躍するフレージングを鋭くブロウするスタイルは、
当時のフレディ・ハバードにもない、ショウ独自の個性でした。

そんなショウの輝かしいラッパが、
全編で繰り広げられているんだから、もう、たまんない。
収録された4曲は、もっとも短くて13分強、ほか3曲は20分弱に及ぶ長尺の演奏。
メンバー全員がドライヴしまくり、熱気溢れるインタープレイを繰り広げます。

とりわけ、スティーヴ・トゥーリ(「トゥーレ」でも「ターレ」でもない)
のトロンボーンがすさまじい。“Sunbath” での超低音ソロなんて、
どう聴いてもチューバにしか思えないんだけど、
こんな分厚い低音を、ほんとにトロンボーンで出しているのか。信じられん。

“VOL.1” とあるのは、ショウがMCでしゃべっているとおり、
このライヴがファースト・セットだからで、
セカンド・セットのリリースも予定されているのかな。
“VOL.2” を出す時は、
インレイの背表紙に“Quartet” と誤記されているのをぜひ直してね。

The New Woody Shaw Quintet "AT ONKEL PÖ’S CARNEGIE HALL VOL.1" Delta Music & Entertainment N77045
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集団即興の快感 ティム・バーン [北アメリカ]

Tim Berne's Snakeoil  INCIDENTALS.jpg

おととしだったか、ジャズCDショップへ行ったところ、
ECMのコーナーが出来ていて、へーえ、ECMがまたそんな人気なのかと、
すっかりジャズ事情に疎くなった自分を思い知らされたものでした。
あらためて、そのコーナーでECMの作品を眺めていたら、
ティム・バーンの名前を見つけて、びっくり。

フリー・インプロヴァイザー、NY・ダウンタウン派の首領ティム・バーンが、
今はECMから作品を出しているのか!
ティム・バーンといえば、JTMと思ってましたけど、
今やそれも遠い昔のことで、時の流れを感じます。
考えてみれば、もう20年近くティム・バーンを聴いてないんだっけ。
それじゃあと、14年作の“YOU'VE BEEN WATCHING ME” を買ってみたのでした。

聴き始め早々から、ダークなトーンに、気分は急低下。
ああ、もうこういう「内省的」というか、「思わせぶり」なフリー・ジャズは、まっぴら。
「辛気臭い」のとか、「もったいぶってる」のとか、
昔さんざん聴いて、全部処分したもんね。
幽玄な空気感はECMゆえなんだろうけど、長い静寂がかったるく、
燃え上がるようで燃え上がらないのも、
せっかちな性分なもんで、じれったくってしょうがない。

そもそも、オーネット・コールマンの高速/凶暴/爆音カヴァー・アルバム、
ジョン・ゾーンの“SPY VS. SPY” (89)で、ティム・バーンにシビれたクチなんでねえ。
ティム・バーンにECMは合わないだろと、結論付けたんでありました。

再会に失敗したものだから、
昨年新作が出ていたことも、ぜんぜん気付かずにいたんですが、
偶然耳にできたのはラッキーでした。
ぼくの好きなティム・バーンと、やっと再会できましたよ。
新作は、なんと前作“YOU'VE BEEN WATCHING ME” と同じ日の録音。
ところが、内容は前作と違って、こちらはめちゃくちゃアグレッシヴ。
こっちを後回しにリリースするのが、ECMというレーベルの性格なんですね、はあ。

曲というより、調性の無いギクシャクとした音列をループさせるようなコンポジションを、
ティムのアルト・サックス、クラリネット、ピアノがレイヤーしながら、
旋律をさまざまに変奏させていきます。リズムもポリリズミックに進行しながら、
即興が次第に熱を帯びていき、絶頂に達したところで起こる、崩壊の美しさといったら。
緊張と解放を行き来する集団即興の快感を、たっぷりと味わえます。

作曲と即興のバランスもいいですね。
メンバーが介入したり、離れていったりしながら、細かい旋律を動かしていくところなど、
作曲なのか、即興なのか、判然としないところが、またスリリング。

あえて個人的な好みを言えば、
1曲目の もったいぶった 思索的な冒頭なんかカットして、
4分01秒からの合奏が始まるところからに編集しちゃいたいところですけれどね。
ティムの粘っこいアルトのトーンは昔と変わらず、
獰猛に吠えもすれば、からっとしたユーモアもある。最高です。

Tim Berne’s Snakeoil "INCIDENTALS" ECM ECM2579 (2017)
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マサダ・ブック2最終章 メアリー・ハルヴァーソン [北アメリカ]

Mary Halvorson Quartet  PAIMON.jpg

去年の夏、メアリー・ハルヴァーソンを知って大ファンになり、
ファイアーハウス・12の過去作を一気にまとめ買いし、
一時期メアリーのギター漬けとなる日々が続いておりました。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2017-08-13

何かのきっかけで、すでにキャリアのある人に惚れ込み、
その後その人の旧作をいろいろ聴いたところで、
出会いのアルバム以上のものはないというのが、長年の経験則なので、
こういうことはめったにしないんですけれど、勘が働いたんですねえ。
メアリーに関しては、過去作をさかのぼって聴いて、大収穫でした。

そしてこの新作、いつものレーベル、ファイアーハウス・12からではなく、
ツァッディークから出たんですね。
ジョン・ゾーンのマサダ・プロジェクト第2弾として04年からスタートした、
ブック・オヴ・エンジェルズ・シリーズの32作目を数える作品で、
なんと本作をもって、マサダ・ブック2は完結したんだそうです。
う~ん、もう13年もやってきたのか。
音楽家に限らず、こういう継続力のある作家に、ぼくはとても共感します。

メアリーもマサダの長年のファンだったそうで、
最終章を締めくくるのに、最適の人選だったといえるんじゃないでしょうか。
今回は、メアリーともう一人のギタリスト、マイルス・オカザキに、
トマス・フジワラのドラムス、ドリュー・グレスのベースというカルテット編成。
メアリーと相性の良いトマス・フジワラとのコンビネーションもバッチリなんですが、
今回の聴きものは、なんといってもマイルス・オカザキとのインタープレイ。

メアリーはディレイなどのエフェクトを多用する一方、
オカザキはエコーを使う程度のナチュラルなトーンで弾いていて、
その違いが、とてもスリリングな効果を生み出しているんですね。
オカザキが引き立て役に回るのでなく、
メアリーとイーヴンで絡み合うところが、いいんです。

特にオカザキのバックに回って、メアリーが散発的なフレーズをかましたり、
濁ったトレモロを繰り出したり、歪んだ音の壁を作ったりと、
メアリーが前面に出る時より、オカザキの裏に回った時のプレイが
すごくイマジネイティヴで、刺激的なんですよ。

そして、メアリーのトレードマークで、
♪ きゅ~ぅ~ん ♪ という、子犬が甘え吠えしてるみたいなチョーキングをしたり、
緊張を一気に脱力させる ♪ ぴよ~~ん ♪ というリックを繰り出したりと、
アヴァンギャルドやフリーにあるまじきなオチャメなプレイが、たまらんのです。

Mary Halvorson Quartet "PAIMON : MASADA BOOK 2 - BOOK OF ANGELS VOL.32" Tzadik TZ8356 (2017)
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アフリカ音楽を体得した初のジャズ・ミュージシャン ベンクト・バーリエル [北ヨーロッパ]

Bengt Benger Praise Drumming.jpg

こりゃ、驚き。
ベンクト・バーリエルの87年作“PRAISE DRUMMING” が、
オリジナル原盤所有のスウェーデンのレコード会社から、まさかのCD化。

「ベングト・ベルガー」と書かれることがもっぱらな
ベンクト・バーリエルは、スウェーデン人ジャズ・ドラマー。
二十代の時、インド音楽を学びたくて、65年に北インドをヒッチハイクしてタブラを習い、
68年には南インドへ出かけ、ムリダンガムを修得したという無類の民俗音楽好き。
70年代に入るとアフリカ音楽へ関心を寄せ、75年から77年にかけてガーナに滞在し、
カクラバ・ロビからコギリ(木琴)を学んだという、ユニークな経歴のジャズ・マンです。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2015-10-01

Bengt Berger  BITTER FUNERAL BEER.jpg

ベンクトがECMから82年に出した“BITTER FUNERAL BEER” は、
カクラバ・ロビ直伝によるロビ人の葬儀音楽をもとにジャズ化するという、
衝撃的なアルバムでした。
それまで、いわゆる「アフロ・ジャズ」と称するジャズ・ミュージシャンによる
アフリカ音楽もどきのでたらめぶりにウンザリしていたので、
非アフリカ人による初の本格的なアフリカン・ジャズ作品となった
本作には目を見開かされ、大カンゲキしたものです。

なんせベンクト・バーリエル登場以前のアフリカン・ジャズは、
「まがいもののアフリカ音楽」だらけでしたからねえ。
ジョン・コルトレーンからシカゴ前衛派に至るまで、
60年代にアフロ回帰の思想で産み落とされた作品は、
すべて観念上の想像の産物にすぎませんでした。

アート・ブレイキー、ランディー・ウェストン、トニー・スコット、渡辺貞夫など、
アフリカ人ミュージシャンと共演した人も一部にはいましたが、
アフリカ音楽の構造やポリリズムを理解し、体得した人は、皆無でした。
それだけに、この“BITTER FUNERAL BEER” は、ほんとに画期的だったんですよ。

“BITTER FUNERAL BEER” の録音にあたって、
ベンクトはメンバーのスウェーデン人ミュージシャンたちに、
ガーナで学んだ伝統音楽のリズムやアフリカ音楽の曲構造を、
徹底的に教え込んだんでしょうね。
そういえば、ベンクトが78年に制作したEPに、
カクラバ・ロビのバラフォンのデモ演奏があり、
異なるリズムによる左右の手の演奏法を理解する、格好の教則レコードとなっていました。

Kakraba Lobi  Spelar Vastäfrikansk Xylofonmusik.jpg

非アフリカ人だけで、
これほど本格的なアフリカン・ジャズを作り上げたことに感服しますけれど、
単に模倣に終わるのではなく、北欧ジャズならではの管楽器による高度な即興演奏もあり、
ワールド・ジャズともいうべきその完成度の高さは、いまなお新鮮です。
『アフロ・ポップ・ディスク・ガイド』に選盤されていたのも、至極当然ではありましたが、
音楽の中身をまったく理解できていないジャズ評論家のテキストにはがっくりでした。

今回30年ぶりとなるCD化で、
ひさしぶりに“PRAISE DRUMMING” を聴き直しましたけれど、
うん、やっぱりこれも傑作ですね。
アフリカ音楽の持つクールネスが、北欧ジャズのクールネスと絶妙に融合していますよ。
“BITTER FUNERAL BEER” をさらに発展させて、
アフリカ音楽ばかりでなく、インドネシアのバリのメロディをモチーフとするなど、
オリエンタルな要素も加えて、さらに魅力が倍化しています。

日本では名前すらまともに書かれないぐらいの人なので、
ご存じない方が多いのかもしれません。ぜひ聴いてみてください。

Bengt Berger & Bitter Funeral Beer Band "PRAISE DRUMMING" Dragon DRCD449 (1987)
Bengt Berger "BITTER FUNERAL BEER" ECM 839308-2 (1982)
[EP] Kakraba Lobi "SPELAR VASTÄFRIKANSK XYLOFONMUSIK" Caprice no number (1978)
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苦味あるソダーデ ティト・パリス [西アフリカ]

Tito Paris  MIM Ê BÔ.jpg   Tito Paris  Guilhermina.jpg

ティト・パリスの新作 !?
うわー、ずいぶん久しぶりだなあ。
02年の“GUIHERMINA” は傑作だったよねえ。
え? あれ以来のスタジオ作になるの? それじゃあ、15年ぶりじゃない。

ティト・パリスは、カーボ・ヴェルデのシンガー・ソングライター。
若い頃からギタリストとして才覚を表した人で、
19歳の時、セザリア・エヴォーラのバンド・メンバーに選抜され、
バンド・リーダーのカヴァキーニョ奏者バウとともにリスボンへ渡っています。
セザリアのバンドでは、本人の希望でベースを担当していたんでしたね。

ひび割れた、ちょっとクセのある声がいいんですよ。
哀愁味あるモルナによく似合うんだな。
スローばかりでなく、コラデイラやフナナーのアップでも、いい味を出しています。
ストリングス・セクションやホーン・セクションも惜しげなく使って、
エレガントなクレオール・ミュージックを聞かせてくれています。

聴きどころは、大先輩の歌手バナと一緒に歌ったB・レザのカヴァーでしょうか。
バナは、パリスがポルトガルに渡るきっかけとなった、
セザリア・エヴォーラをリスボンに招いた人物で、
パリスはバナとも一緒に演奏し、ソロ活動に転じるまで、バナの世話になったんですね。

バナは13年に81歳で亡くなっているので、いつ録音しておいたのかな。
録音年月のクレジットがありませんが、バナ節というべき歌声に衰えは感じません。
正直、ぼくは苦手とする歌手なんですけど、友情出演といった起用で、
パリスにとって、お世話になった大先輩への恩返しになったんじゃないでしょうか。

苦味あるソダーデをたたえた歌声をアクースティックな伴奏に包み込み、
カーボ・ヴェルデらしい哀愁味を鮮やかに引き出した、ティト・パリスの円熟の一枚です。

Tito Paris "MIM Ê BÔ" Ruela Music/Sony 88985450062 (2017)
Tito Paris "GUILHERMINA" EmArcy Classics/Universal 472282-2 (2002)
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涙が枯れ果てるまで パウロ・フローレス [南部アフリカ]

Paulo Flores  KANDONGUEIRO VOADOR.jpg   Paulo Flores  BOLO DE ANIVERSARÍO.jpg

まさに、ヴェテランらしい余裕ですねえ。
アンゴラを代表するシンガー・ソングライター、
パウロ・フローレスの16作目となる新作は、
彼の持ち味であるデリケイトなソング・ライティングを、コクのあるノドで歌っていて、
あぁ、円熟したなあと、しみじみと感じ入れる傑作に仕上がっています。

最近はパウロ・フローレスの活躍ぶりが、いろいろと伝わってきますね。
サラ・タヴァレスの復帰作“FITXADU” でも、サラと詞を共作してましたもんね。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2017-12-15
16年の前作“BOLO DE ANIVERSÁRIO” がズーク色の濃い、
明るく陽気な曲の多い作品だったのに対し、
新作はがらりと変わって、哀感を強く打ち出した作品となりました。

パウロの歌い口は、ソフトながらも、芯にガッツがあるのをいつも感じます。
かすかな苦味を含んだ声には哀しみも宿されていて、
それが胸に沁みるんですよねえ。
けっして性急にならない落ち着いた歌いぶりが、パウロの個性で、
キュートな女性コーラスをフィーチャーした軽快なキゾンバでも、
ダンス気分になるのではなくて、
思索的なパウロの歌い口に惹きつけられます。
メロウなフックのあるキゾンバでも、チャラくならないんですよね、この人は。

今作ではどの曲も哀愁を帯びているとはいえ、それぞれの楽想に合わせて、
カラフルにコーディネイトされたプロダクションが鮮やかです。
チープさが否めなかった前作のプロダクションとは、格段の差です。
アンゴラの代表的なパーカッションの
ディカンザをフィーチャーしたオーセンティックなセンバあり、
バンドリンやクラリネットをフィーチャーした切なさ溢れるコラデイラあり、
パウロがラップするヒップ・ホップ・トラックまであります。

アルバムのなかで、ヒップ・ホップ・トラックが浮かずに違和感なく収まっているのは、
プロダクションの手腕ですね。
センバのリズムを鮮やかにミクスチュアしていますよ。
このトラックでアレンジとギターを担当しているのが、
ギネア=ビサウ出身の才人マネーカス・コスタ。
マネーカスは前作でもエレクトリック・ギターを多くの曲で弾いていたし、
先ほどあげたサラ・タヴァレスのアルバムでも活躍していましたね。

この新作にアンゴラの若者へのメッセージを込めたとパウロは語っていますが、
アルバムを聴き終える頃には、涙が枯れ果てそうなほど哀感にまみれた本作、
パウロはここで何を訴えようとしたのでしょう。

Paulo Flores "KANDONGUEIRO VOADOR" Kassete/LS Republicano no number (2017)
Paulo Flores "BOLO DE ANIVERSARÍO" Frequetaplauso/Bartilotti no number (2016)
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エチオピアン・レゲトン ナッティ・マン [東アフリカ]

Nhatty Man  VOL.2.jpg

エチオ・ポップはやっぱ人力演奏じゃなきゃ、といった矢先に、
こちらはバリバリの打ち込み系、レゲトンまでありのポップ・アルバムです。
エチオピアのレゲエ・シンガーでは、
アブドゥ・キアルを取り上げたことがありましたけれど、
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2015-11-28
エチオピアのシンガーからレゲトンを聴くのは、初めてですねえ。

ネッサネット・メレセの見事な人力演奏のあとでは、
どんな打ち込みのプロダクションも色褪せて聞こえてしまうので、
コンテンポラリーなエチオ・ポップより、
サンプラーとドラム・マシーンがデフォルトのレゲトンの方が、
かえってすがすがしく聞けます。

主役のナッティ・マン(なんつー、イージーな芸名!)の声がいいんですよ。
いかにもエチオピア人らしい声で、晴れ晴れとした歌いっぷりが胸をすきます。
楽曲のレヴェルも高く、フックの利いたメロディが、
リスナーのハートをがっちりつかみます。

パーティ・ミュージックらしいキャッチーなレゲトンあり、
ラガマフィンあり、レゲエあり、ロックあり、
さらにハチロクの伝統的なアムハラ・マナーのフォークロアもありで、
エチオピアのシンガーならではのバラエティを楽しめます。

注目は、繊細なこぶし回しの使い手であること。
こぶし回しで、まるでオートチューンを使用しているような
ヴォーカル表現をするのには驚かされました。
この生歌による疑似オートチューンとでも呼びべき表現は、
ヒューマン・ビート・ボックスの進化系というか、
近年のジャズにおける、ヒップ・ホップの生演奏化の試みに通じますね。
これ、本人がオートチューンを意識してやっているとしたら、スゴいんだけど、
案外当人は無意識で、繊細なこぶし使いが、そう聞こえるだけのなかもしれません。

ナッティ・マンは、14年からオーストラリアに渡り、メルボルンで活動しているとのこと。
去年再来日したデレブ・デサレンもメルボルンが本拠地だから、交流があるのかな。
彼のサイトをのぞいてみたら、レゲエ・シンガーというわけではなく、
多岐にわたる活動をしていることがわかりました。

エチオピア人4名にオーストラリア人ギタリストを加えた
5人組のバンド、ガラとともに活動するほか、
さまざまなユニットに参加しているようです。
15年には、ザ・ラリベラスというエチオ・ジャズのバンドと活動していて、
ヴィデオを見ると、デレブ・アンバサダーの良きライヴァルといった感じ。
このバンドと、ぜひレコーディングしてほしいなあ。

本作はレゲエを中心としたポップ・アルバムですけれど、
生演奏のエチオ・ポップも期待できそうな逸材です。

Nhatty Man "VOL.2" Sigma/Vocal no number (2017)
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エチオ演歌は人力演奏で ネッサネット・メレセ [東アフリカ]

Netsanet Melesse  DOJU  BEST OF NESANET MELESSE’S OLD COLLECTION.jpg

いい女っぷりですねえ。
艶然とした笑みを浮かべる、エチオピアのヴェテラン女性歌手ネッサネット・メレセの新作。
若い頃のチャーミングな容姿から、なじみの店のママみたいな雰囲気に変わったとはいえ、
ネッサネットのCDカヴァーには、いつも男ごころをソソられますよ。

今作はタイトルにあるとおり、ネッサネットの過去の持ち歌のセルフ・カヴァー集。
ネッサネットが世界に飛び出した、92年のインターナショナル・デビュー作
“DODGE” からは、オープニングの“Eyenamaye” はじめ、
“Minew Jal” “Shegeye” “Tizita” の4曲がカヴァーされています。
このインターナショナル・デビュー作をプロデュースしたのは、
実は、フランシス・ファルセト。これ、意外に知られていないんじゃないかな。
ファルセトが「エチオピーク」シリーズを始める5年前の仕事です。

Netsanet Mellessé  DODGE.jpg   Netsanet Mellesse  SPIRIT OF SHEBA.jpg

ちなみにこのフランス、ドナ・ワナ盤は、翌93年に曲順とタイトルを変え、
アメリカのシャナチーから“SPIRIT OF SHEBA” のタイトルでリリースされました。
日本ではこのシャナチー盤がよく出回ったので、
オリジナルのフランス盤を知らない人がほとんどかもしれません。

さて、話を戻して、このアルバム、大傑作であります。
若い頃のスウィートな歌い口も魅力的でしたけれど、
円熟した熟女のこぶし回しもオツじゃないですか。
オリジナル・ヴァージョンを凌ぐんじゃないかというところも、多数あり。
これまでネッサネットの最高作は、エキスプレス・バンドをバックに歌った
04年の“FURTUNA” と思ってきましたが、本作と交替していただきましょう。

Netsanet Mellese  Furtuna.jpg

何がそんなにいいって、バックです。
なんとアルバム全編、生ドラムスによる人力演奏なんですよ!
いやあ、嬉しいじゃないですか。
PCで制作するDTMが、すっかり標準仕様となった現在のエチオ・ポップで、
キーボード、ギター、ベース、ドラムス、ホーン・セクションの面々が、
スタジオに集まってレコーディングするバンド・サウンドのなんと新鮮なことか。
贅沢なホーン・セクションの鳴りっぷりといったら。

ギターを弾いているのは、間違いなくギルム・ギザウですね。
トーンやリックでわかりますよ。
3・7・10曲目のエチオ・ジャズ・マナーなアレンジも、
ギルムがやっているんじゃないのかな。
クレジットがゲエズ文字で読めませんが、ブラインドで自信あります。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2017-03-04

ことさらエチオ・オールディーズを意識するわけでなく、
中庸なコンテンポラリー・アレンジのままに、
黄金時代のサウンドを引き継いだ、
イマドキのエチオ演歌となっているところが、嬉しいですねえ。

そういえば、一昨年ヴェテラン男性歌手のエフレム・タムルが
再結成したロハ・バンドとリユニオン・アルバムを出したこともありましたね。
あれも人力演奏によるバンド・サウンドだったよなあ。
やっぱりねえ、打ち込みと人力演奏とじゃあ、グルーヴが違いますよ。
エチオ・ポップはこういう動きが主流となって、
人力演奏へ本格的に回帰してもらいたいなあ。

Netsanet Melesse "DOJU : BEST OF NESANET MELESSE’S OLD COLLECTION" Truth Network Corporation no number (2017)
Netsanet Mellessé "DODGE" Dona Wana 198682 (1992)
Netsanet Mellesse "SPIRIT OF SHEBA" Shanachie 64044 (1993)
Netsanet Mellese "FURTUNA" Afr Rec no number (2004)
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カジュアルなマルチニークの伝統舞曲 ギュスターヴ・フランシスク [カリブ海]

Gustave Francisque.jpg

いいなあ。
マルチニークの村の公民館で演奏しているのを、
そのまんまレコーディングしたような飾り気のなさ。
こんな普段着な地元仕様の音楽は、案外CDでは聞けないので、
これはなかなかに貴重なアルバムだと思います。

キュイーヴル・エ・ボワ・デベンヌ音楽学校で教授を務める
ギュスターヴ・フランシスクは、マルチニークの伝統音楽を演奏する
マルチ管楽器奏者。表紙写真ではテナー・サックスを持っていますが、
クラリネットやアルト・サックスも吹いています。

ビギン、マズルカ、ヴァルスといったレパートリーに加え、
オート・タイユを取り上げてるところが珍しいですね。
なんせ、シュリ・カリ著『カリブの音楽とダンス』にも、
「マルティニークに関しては、今日までに録音されたオート・タイユの作品は、
ほとんどと言ってよいほど存在しない」と書かれているほどで、
ぼくもオート・タイユとクレジットされた曲を聞いたおぼえがありません。

聞いてみると、ヨーロッパ起源の舞曲カドリーユとよく似ていて、
オート・タイユとどう違うのか、よくわかりませんでした。
本作には、46年創立のマルチニークのグラン・バレエに捧げられた、
アル・リルヴァ作曲のオート・タイユに、バレル・コペ作曲のオート・タイユ、
さらにもう1曲、計3曲のオート・タイユが演奏されています。

タイトルに『先人に捧ぐ』とあるとおり、
他のレパートリーでは、レオナ・ガブリエルの名曲ビギン・メドレーに、
アレクサンドル・ステリオのマズルカ・メドレー、
ルイス・カラフとエディ・ギュスターヴ共作のメレンゲを演奏しています。

リズム・セクションがアマチュアぽく聞こえる曲などもあり、
ひょっとして、音楽学校の生徒さんが演奏しているのかもしれません。
5年前に同じレーベルから、キュイーヴル・エ・ボワ・デベンヌ名義で、
音楽学校の生徒さんらしき、女性3人のクラリネット奏者のCDが
出ていたことがあったもんね。

演奏者のクレジットがないので、勝手な想像ではありますが、
曲により伴奏の巧拙が大きく感じるのは確か。
すごくヴェテランぽいプレイを聞かせるピアニストがいる一方、
リズムをキープするのがやっとなドラマーもいたりして、
アマチュアが緊張しながら一所懸命演奏しているふうなところなど微笑ましく、
ぜんぜん悪い印象はありません。

そんなアマチュアぽさが、音楽を風通しよくしていて、
マルチニークの伝統舞曲をカジュアルに聞かせる好作品に仕上げています。

Gustave Francisque "HOMMAGE À NOS AINÉS" Granier Music ZM20171-2 (2017)
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ジョホールを夢想する寝正月 スリ・ムアル・ガザル [東南アジア]

Sri Muar Ghazal.jpg

あけましておめでとうございます。

今年のお正月は、ゆるゆる過ごしたい気分なもんで、
マレイシアのガザルなんて地味なアルバムを、引っ張り出してきました。
ハルモニウムの響きが、おめでたい華やぎ感もあって、いいんじゃないかと。

マレイシアのガザルでは、
前に名門楽団のスリ・マハラニ・ガザルを取り上げたことがありましたが、
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2010-05-12
こちらは、ジョホール・バルから北に車で2時間半の距離にある、港町ムアルの楽団です。
ムアルはマラッカ海峡に面した町で、19世紀中ごろにスマトラ島のリアウを経由して、
マレイ半島に伝わったガザルは、
こうした港町からジョホールの内陸へと広まっていったんでしょうね。

う~ん、温泉に浸かって、ぼーっとしているカピバラな気分になれますねえ。
ガンブースの音色から香辛料の香りが立ち上り、ルバーナとタブラのリズムが、
いっそうスパイシーでエキゾティックなグルーヴを醸し出しますよ。

スリ・マハラニ・ガザルのような強烈な大衆感はなく、
素朴な田舎楽団といった風情がいいんです。
リズムが単調なので眠気を誘われ、いつのまにか寝てしまうユルユル感が、
寝正月のだらだら気分によく似合います。

Sri Muar Ghazal "PIMPINAN SALEH HJ. ARSHAD" Ritma/Musicland 51357-20712 (2005)
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