SSブログ

音色の快楽 リジョイサー [西アジア]

Rejoicer.jpg

音色だけで成立する音楽。
楽曲でも、演奏でもなく、楽器の音色の選択に、この音楽の価値がある。

そんな思いに強くとらわれた、イスラエルの俊才リジョイサーの新作です。
バターリング・トリオやロウ・テープスの諸作で、
リジョイサーの仕事ぶりには注目してきましたけれど、
本人名義のソロ作は、それらの作品を上回るデリケートな音づくりに感じ入りました。

ここには<心地よい響き>しか存在しないというか、
鍵盤楽器をレイヤーしたサウンドが、耳の快楽に満ち溢れていて、
桃源郷のようなサウンドスケープをかたどります。
この快感って、キーファーの新作にも通じますよねえ。
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2018-08-28

あのアルバムも聴けば聴くほど、不思議に思えてくるんですよ。
断片的なモチーフの繰り返しでできた、シンプルな作りのトラックばかりなのに、
幾重にもレイヤーしたピアノやキーボードのくぐもった音色が、
とてつもなく甘美に響くんですね。
ビートまでもが同じ質感の音色で同期していて、陶然とさせられます。
夢見心地に誘われるこの音楽のマジックは、
選び抜かれた音色によるところが、一番大きいんじゃないんでしょうか。

リジョイサーのアルバムは、よりハウシーなビートメイクが顕著で、
楽曲の構成もしっかりと組み立てられ、アブストラクト度は低め。
手弾きのベース音やトランペットの柔らかな響きが、
泡立つ鍵盤のダビーな音の合間を縫っていき、
磨きに磨き上げられたサウンドは最高度に洗練されたものといえます。

アンビエント、エレクトロ、ビート・ミュージック、ジャズ、
さまざまな音楽が同期して、テル・アヴィヴとLAがシンクロナイズドした音色は、
グローバル化した世界に暮らす孤独な者たちをなぐさめ、
チル・アウトするために、そこで奏でられているのを感じます。

Rejoicer "ENERGY DREAMS" Stones Throw STH2396 (2018)
コメント(0)