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ジャズとレア・グルーヴの違い ステフォン・ハリス+ブラックアウト [北アメリカ]

Stefon Harris Blackout  SONIC CREED.jpg

最初聴いた時は、端正なコンテンポラリー・ジャズ・アルバムと、
それほど強い印象はなかったんですけど、
妙に色気のあるレア・グルーヴ感いっぱいのトラックに後ろ髪を引かれて、
何度も聴き返すうち、すっかり愛聴盤。
ああ、これもまた、現代のジャズらしさなんでしょうね。

そのひっかりを覚えたのが、元ジャネイのジーン・ベイラーをフィーチャーした2曲。
ボビー・ハッチャーソンの ‘Now’ で、ジーン・ベイラーの多重録音したコーラスと
ケイシー・ベンジャミンのヴォコーダーが、極上のメロウネスぶりを聞かせるんですが、
そのイントロからして、チェロ、ヴァイオリン、クラリネット、
ヴィブラフォンによる合奏のアレンジがデリケイトの極致。

さらにもう1曲の ‘Let’s Take A Trip To The Sky’ では、
ジーンの甘いタメ息のようなヴォーカルに絡むケイシー・ベンジャミンのヴォコーダーが、
超絶な甘美さで昇天もの。なんなんですか、このラグジュアリー感は!
こういうセンスがDJじゃなくて、ジャズ・ミュージシャンが持ち合わせてるところが、
イマドキなんでしょうねえ。

紹介が遅れましたけれど、ステフォン・ハリスは、
ボビー・ハッチャーソンの後継者ともいうべきヴィブラフォン奏者で、
ジャズ・フィールドばかりでなく、ライ・クーダーやコモンとも共演するなど、
各方面から引っ張りだこの人。

自身のユニット、ブラックアウト名義では9年ぶりの本作、
さきほど挙げたケイシー・ベンジャミンが、
アルト・サックスでも熱のあるブロウを聞かせるほか、
ステフォンとは長年の相棒であるテレオン・ガリーのドラムスが、冴えまくってるんですよ。
テレオン・ガリーといえば、クリスチャン・マクブライドからデイヴィッド・サンボーンまで、
トップ・プレイヤーたちから頼りにされているドラマーで、
大西順子のアルバムにも起用されてましたよね。

そのテレオン・ガリーの秀逸なリズム解釈を聞けるトラックが、
レア・グルーヴ時代の人気曲だった、ホレス・シルヴァーの ‘Cape Verdean Blues’。
カリプソ調のハネる4拍子が印象的な曲で、ダンサブルなリズムで「踊れるジャズ」と
再評価されたのでしょうけれど、タイトルに相反してカリブ海系のリズムだったのは、
ホレスがカーボ・ヴェルデ音楽を知らなかったからでしょうか。
お父さんから教わらなかったのかな。
ちなみにホレス・シルヴァーは、カーボ・ヴェルデ移民二世で、
シルヴァーは本名のシルヴァを変えた名前だったんですよ。

それはさておき、オリジナルのヴァージョンは、
ハネる4拍子が続くだけのリズムだったのが、
こちらではテンポも拍子もめまぐるしく入れ変わる、
複雑なリズム・アレンジが施されています。
スリリングに変化していくリズムの中で、細かくリズムを割ったり、
ゆったりとルバート気味に叩いたりと、
テレオンは変幻自在に叩き分けていて、これ、ほんとスゴイぞ。

さらっとスムーズに聞けるようで、じっくりとリズムを聴けば、
相当複雑なことをやってのけていて、
さすがにこれは、レア・グルーヴのDJにはマネのできない、
ジャズ・プロパーの仕事ですね。
ボビー・ティモンズ、ウェイン・ショーター、アビー・リンカーン、
マイケル・ジャクソンという選曲も非凡で、聴けば聴くほどに引き込まれる作品です。

Stefon Harris + Blackout "SONIC CREED" Motéma MTM0238 (2018)
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