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影絵芝居の人形遣いとルークトゥン ノーンディアオ・スワンウェントーン [東南アジア]

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ルークトゥンというのは、やっぱりタイ演歌なんだなあと、
エル・スールの原田さんと一緒にYouTube を観ていて、感じ入ってしまいました。
ノーンディアオ・スワンウェントーンという、タイ南部の盲目の歌手なんですが、
その歌声の素晴らしさは、中央のルークトゥン歌手にないディープさがあります。
ディープといってもアクが強いわけではなく、むしろ歌い口はなめらかで、
底に秘めた激情が伝わる、力のある歌い手ですね。

この人のミュージック・ヴィデオではなく、
影絵芝居のナン・タルンの舞台裏を映したヴィデオに、
盲目の人形遣いが複数の人形を操りながら、何人もの登場人物のセリフを使い分け、
場面転換時にはストーリーの説明を吟唱するのがあるんですが、
どうもノーンディアオに、顔がそっくりなんですよね。
ひょっとしてこの人、ナン・タルンの人形遣いから、
歌手に転身した人なんじゃないかなあ。

ちなみに、ナン・タルンの人形遣いのことをナイ・ナンと呼びますが、
エル・スールのサイトのコメントに「影絵芝居 “ナインナン”」とあるのは、
人形遣いのナイ・ナンと影絵芝居のナン・タルンを勘違いしたものと思います。

タイの影絵芝居というと、
アユタヤ朝時代まで起源が遡る、タイ中部のナン・ヤイが有名です。
大きな人形がカンボジアの影絵芝居スバエクとそっくりなのは、
アユタヤ朝がクメール王国を征服した戦利品だったことのあらわれでしょう。
そうしたナン・ヤイとは、南部のナン・タルンは起源が異なり、
17~18世紀にジャワのワヤンの影響を受けて生み出されたものです。
ナン・ヤイの人形より小型で、手足が動くところもワヤンと同じです。

ナン・ヤイが貴族階級の知識人を対象としたのとは対照的に、
ナン・タルンは民衆が生み出した大衆芸能で、
宗教儀礼より娯楽色の強い演目が多いのが特徴です。
民主化運動が盛んになった70年代には、
政治色の強いナン・タルンも多く演じられたそうです。

伴奏の楽団も伝統楽器ばかりでなく、ギターやベース、ドラムスまで使われ、
タイ南部ではVCDがたくさん作られているのも、
庶民の間で息づく芸能の証明といえますね。

ノーンディアオのCDでも、ダブル・リードの縦笛ピーがフィーチャーされていて、
ナン・タルンの伴奏音楽をかろうじて連想させますけれど、
直接ナン・タルンを思わせる部分はありませんね。
サウンド・プロダクションは、ホーンやストリングスもたっぷり使った、
ローカル色のないタイ歌謡の標準スタイルといえます。
イサーン・ルークトゥンのように、
南部のローカルな味わいのルークトゥンがあってもいいのにねえ。
ナン・タルンの音楽を取り入れたルークトゥンも、聴いてみたくなります。

Nongdiaw Suwanwenthong "KAMRANGJAI HAI KHONSU VOL.3" Koy 54 (2011)
Nongdiaw Suwanwenthong "LOM HAIJAI NAI ROONGPHAK" Koy no number (2018)
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