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知られざるチリの都市大衆歌謡 [南アメリカ]

CHILE URBANO, VOL. 1 Y 2  FONOGRAMAS DE MÚSICA CHILENA.jpg

SP時代のチリ音楽を編集した2枚組CDですって?
「1927年から1957年」とあるので、
第二次世界大戦をはさんだ前後30年間の録音ということになります。

へぇ~、そんな時代の音源なんて、聴いたことがありませんねえ。
だいたいチリの音楽じたい、ビオレッタ・パラが歌った民謡とか、
クエッカやトナーダといったフォルクローレのレコードくらいしか
聴いたことがないんだから、ほとんど知らないに等しいもんです。

しかも、タイトルを見ると、フォルクローレを集めたものではなく、
どうやら都市歌謡に焦点を当てたもののよう。
チリの都市大衆歌謡??? 思い当たるところでは、
メキシコへ渡って大スターになったルーチョ・ガティーカとか、
アルトゥーロ・ガティーカといったチリ人歌手は確かにいますけど、
ああいった汎ラテン的歌手が歌った大衆歌謡を集めたものなんでしょうか。

う~ん、どんな歌を収録しているのやら、聴く前からワクワクしていたんですが、
こりゃあ、スゴイ。チリの大衆歌謡がこれほどヴァラエティ豊かなものだとは、
まったく知りませんでした。自国のクエッカ、トナーダ、バルスはじめ、
タンゴ、ルンバ、サンバ、ボレーロなどチリ周辺国のレパートリーはもちろんのこと、
フォックス・トロット、ポルカ、スウィング、ブギウギまで飛び出してくるんです。

うわぁ、こりゃ、まるでチリの「ジャズソングス」じゃないですか。
ブギウギはさすがにアメリカ産ですけれど、
ヴァイオリンとアコーディオンが加わっているところがミソで、
アメリカ音楽より、ヨーロッパの影響が強く感じられます。
フォックス・トロットやワン・ステップのレパートリーの演奏に、
ヨーロッパ経由を感じさせるほか、
ディスク2のキンテート・スウィング・ホット・デ・チレは、
ジャンゴ・ラインハルトとステファン・グラッペリの
フランス・ホット・クラブ五重奏団をまんまコピーしています。
フランスからの影響がこれほど強いとは知りませんでしたねえ。

聴き進むほどに、驚きが連続するアンソロジー。
意外なほどに欧米音楽の影響が強く、洗練された都市歌謡が存在していたことに合わせて、
チリ独自の音楽が発展しなかった理由も垣間見れるところが面白い。
フォルクローレだけを追っかけていたら、
けっして発見できないチリ都市歌謡の魅力満載です。

いやあ、こりゃ、とんでもないお宝もののリイシュー・アルバムですね。
サンティアゴ・デ・チレ大学ラジオ局による制作とのことで、
教育機関が大衆歌謡にスポットをあてることも、驚くべきことじゃないですか。
フォルクローレならいざしらず、アカデミズムが一番敬遠しがちなテーマだというのに。
このアンソロジーは、今後チリ音楽を語るのに、
常に参照されることになることウケアイですね。
2020年ラテンのベスト・ディスカバリー・アルバムです。

v.a. "CHILE URBANO, VOL. 1 Y 2: FONOGRAMAS DE MÚSICA CHILENA, 1927-1957"
Radio Universidad De Santiago no number
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