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正統派南ア・ジャズ・ピアニストの世界デビュー ンドゥドゥーゾ・マカティーニ

Nduduzo Makhathini  MODES OF COMMUNICATION.jpg

南ア・ジャズのピアニスト、ンドゥドゥーゾ・マカティーニが、
なんとブルー・ノートから新作を出しました。
ブルー・ノート初の南アのアーティストになったみたいですけれど、
ンドゥドゥーゾ・マカティーニが注目されたのは、
UK新世代ジャズを先導するシャバカ・ハッチングスのジ・アンセスターズに、
ンドゥドゥーゾが起用されたからなんでしょうね。

シャバカ・ハッチングが起用した時にも、ちょっと驚いたんですけれど、
ンドゥドゥーゾのような、どちらかといえば保守的なタイプの
南ア・ジャズのミュージシャンが、国外で評価されることなんてまずなかったので、
意外に思ったのと同時に、すごく嬉しかったことを覚えています。

最近の南ア・ジャズも、世界のジャズ・シーンと同様に、
新しい世代による新感覚の才能がどんどん登場するようになってきていることは、
すでにここでも紹介しましたよね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-05-06
しかしンドゥドゥーゾは、そういった先鋭的なタイプのジャズ・ミュージシャンとは違い、
伝統的な南ア・ジャズの系譜に連なる音楽家といえます。

Nduduzo Makhatini  MOTHER TONGUE.jpg

南アですでに8枚のアルバムを出していて、
ぼくは14年の“MOTHER TONGUE” がすごく好きだったんですけれど、
今回の新作では、この“MOTHER TONGUE” とテナー・サックスとドラムスで
同じメンバーが起用されているんですね(嬉)。

Zimology Quartet.jpg

ンドゥドゥーゾのプレイは、ハーブ・ツオエリの12年の名作や、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-11-24
ジモロジー・カルテットの07年のライヴ盤でも聴いていたので、
ぼくには馴染み深いんですけれど、あらためて説明すれば、
マッコイ・タイナーにもろに感化されたピアノ・スタイルで、
アンドリュー・ヒル、ランディ・ウェストン、
ドン・ピューレンからも影響を受けたといいます。

ンドゥドゥーゾは敬虔なキリスト教徒の家庭に生まれ、
父親はギタリスト、母親は歌手で、ピアノは母親から習い、
幼い頃は教会の合唱隊で、ズールー合唱のイシカタミヤを歌っていたそうです。
13歳の時、ウブンゴマと呼ばれるズールーの伝統的治療者で占者の啓示を受けて
衝撃を受け、ダーバン工科大学で音楽を学ぶために家を出るまでの少年時代、
キリスト教とアフリカの伝統宗教の狭間で精神的な混乱をきたしたといいます。

ンドゥドゥーゾの音楽に深い精神性が宿すようになったのも、
そうした宗教体験との関わりがあったからなんですね。
スピリチュアルなブラックネスを表出した
南ア・ジャズのピアニストといえば、ベキ・ムセレクがいますけれど、
ンドゥドゥーゾがベキをメンターと呼ぶのも、むべなるかなです。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2011-01-17

今回ブルー・ノートから出た新作でも、
これまでのンドゥドゥーゾの音楽性をなんら変えることなく、
また、世界向けに何か演出を施すようなところも、
まったく見受けられないところが、とても好感を持てます。
派手さのない地味なピアニストですけれど、
アブドゥラー・イブラヒムから綿々と育まれてきた南ア・ジャズの
正統的な継承派ともいえる人。シャバカ絡みのチャンスをうまく生かして
世界デビューできたことに、祝杯をあげたい気分です。

Nduduzo Makhathini "MODES OF COMMUNICATION: LETTERS FROM THE UNDERWORLDS" Blue Note B003157502 (2020)
Nduduzo Makhatini "MOTHER TONGUE" Gundu GUNDPR001 (2014)
Zimology Quartet "LIVE AT BIRD’S EYE SWITZERLAND" Zimology ZIMCD001 (2007)
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ベスト・コモリアン・ラッパー チャッキー・ミスタ・レス

Chucky Mista Res  NDOPVI EKA TSI NDAM.jpg

こちらはコモロのラッパー。
サウンド・プロダクションにコモロらしさはみられないとはいえ、
インド洋ヒップ・ホップのクオリティの高さがまるっとわかる、良作です。

チャッキー・ミスタ・レスことファハド・ユスフは、8歳の時からダンスに夢中になり、
のちにコモロ初のヒップ・ホップ・ダンス・グループを結成したという、
いわばダンサー上がりのラッパー。
だからか、リズムのノリはバツグンで、コモロ語のフロウは、
レーベル・オーナー、シェイク・MCを凌駕するスキルを感じさせます。

チャッキー・ミスタ・レスは、
16年にレユニオン島で開かれたイヴェント「インド洋の声」で
ベスト・コモロ・アーティストに選ばれ、
翌17年にシェイク・MCのフランス・ツアーに同行し、
その後シェイク・MCの後を追うようにパリへ移住して、
本デビュー作を完成させたといいます。
たしかにこのプロダクションをコモロ現地で実現するのは、難しいでしょうねえ。

ヴァラエティ豊かな全14トラックには、
6人のフィーチャリング・ゲストが参加していて、
ダディポスリムもチャッキーとデュエットしています。
その曲‘Tsi Hwandza’ は、ダディポスリムらしいロマンティックなラヴ・ソングで、
哀愁に富んだメロウなサウンドが、アルバムのフックとなっています。

ラッパーのOU2Sがごついフロウを聞かせる‘Punchline’ も
切迫感に溢れ、胸に迫ります。
アフリカン・ヒップ・ホップの裾野の広さを実感させる、
コモロのベスト・ラッパーによる充実作です。

Chucky Mista Res "NDOPVI EKA TSI NDAM’" Watwaniy Production 002699311/18/1 (2018)
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コモロ・メロウネス ダディポスリム

Dadiposlim  HOLO.jpg

インド洋のコモロにも、アフロビーツの波は来てるんだなあ。
コモロの若手シンガー・ソングライター、ダディポスリムの新作。
泣きのメロディが満載のクレオール・ポップで、めっちゃ美味なアルバムなんですが、
プロダクションのそこかしこから、アフロビーツが見え隠れしているんですよ。
これって、機材やソフトが同じだからなんですかねえ。

15年にデビュー作を出し、昨年出た本作が2作目。
コモロを代表するラッパー、シェイク・MCが設立したレーベルから出していて、
シェイク・MCも1曲で客演しています。
ヒップ・ホップR&Bのセンスをうかがわせるサウンド・メイキングと、
アンゴラをホウフツとさせる哀愁味たっぷりの楽曲がベスト・マッチングで、
コモロの新世代を感じさせる才能ですね。

ダディポスリムの甘いヴォーカルも、女子アピール度高し。
典型的なスウィート・ヴォイスの持ち主で、声も良ければ、歌い口も絶妙です。
子供の頃に大ファンだったのが、スティーヴィー・ワンダーと
サリム・アリ・アミールだそうで、スティーヴィー・ワンダーは納得感ありまくり。
サリム・アリ・アミールのようなターラブ・センスは、本作にはありませんけれど、
15年のデビュー作では、‘Mwandzani’ で発揮されていました。

Dadiposlim  TWAMAYA.jpg

レパートリーには、ダンスホール・レゲエやラテンなどもあり、サウンドはカラフル。
プロダクションが難だったデビュー作“TWAMAYA” からは見違えて、
アフリカン・メロウネスの極致ともいえるこのサウンド、
リシャール・ボナのファンにぜひ聴かせたいな。

Dadiposlim "HOLO" Watwaniy Production no number (2019)
Dadiposlim "TWAMAYA" Watwaniy Production 0026993-000005/6824.2 (2015)
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フナナー・レジェンドの相続者たち エルデロス・ジ・コデー・ジ・ドナ

Herderos Di Codé Di Dona.jpg

コデー・ジ・ドナは、現地カーボ・ヴェルデのお札、
1000カーボ・ヴェルデ・エスクード札にも描かれている、フナナーの第一人者。
10年1月5日に69歳で亡くなった時、
大統領と文化大臣が弔辞を送ったというエピソードが、
ウィキペディアに載っていました。
ウィキペディアに、コデー・ジ・ドナのページが出来ていたのには、
ちょっと驚かされましたけれどね。
ここで、コデー・ジ・ドナの経歴を間違えていたことについて、再ザンゲ↓。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-10-21

さて、そのコデー・ジ・ドナの「相続者」を名乗るグループのアルバムを入手しました。
メンバーは、ジト・ジ・コデー・ジ・ドナ(ヴォーカル、ガイタ)、
キム・ジ・コデー・ジ・ドナ(フェロー)、チュニ・プレータ(ヴォーカル)の3人。
相続者と名乗っているのは、
かつてのコデー・ジ・ドナのグループ・メンバーだからなのですね。

Code Di Dona  2001.jpg   Codé Di Dona  1998.jpg

コデー・ジ・ドナは生前に3枚のアルバムを残していて、
01年の“DJAN-BAI” に3人の名前が載っています。
もう1枚の98年作“CODÉ DI DONA” にはクレジットがありませんが、
表紙に映る写真の3人が同じ顔なので、おそらくこの3人と思われます。
この3人にリズム・セクションやギターを加えて録音された本作、
全10曲もちろんすべてフナナーです。

カーボ・ヴェルデのヴェテラン・スタジオ・ミュージシャンで、
マルチ・プレイヤーのキム・アルヴェスが、
ギター、カヴァキーニョ、ヴァイオリン、ベース、ドラムスを演奏しています。
コデー・ジ・ドナゆずりのオーセンティックな伝統フナナーを、
たっぷり味わえるアルバムです。

Herderos Di Codé Di Dona "INGRATIDON" no label no number (2017)
Code Di Dona "DJAN-BAI" Globe no number (2001)
Codé Di Dona "CODÉ DI DONA" Globe C035 (1998)
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ロンドンの奇才二人が起こすケミストリー トム・ミッシュ&ユセフ・デイズ

Tom Misch & Yussef Dayes.jpg

SNS世代を象徴するかのような鮮烈なデビューを果たした、
自分のベッドルームをスタジオにするロンドンの音楽家、トム・ミッシュの新作が面白い。
18年の話題作“GEOGRAPHY” の非凡ぶりには、ぼくも舌を巻きましたけど、
新作はユセフ・デイズとの共演作で、ブルー・ノートから配給されるというニュースに、
どんな作品なのかと、聴く前からワクワクしていました。

ユセフ・デイズは、鍵盤奏者のカマール・ウィリアムスと、
ユセフ・カマールというユニットで活動しているドラマー。
ユセフ・カマールでは、ブロークンビーツやダブステップ、グライムを、
生演奏に置き換えた音楽をやっていて、ぼくにはUKジャズのドラマーというより、
クラブ・ミュージック通過後のクロスオーヴァー感覚を持ったセッション・ドラマー
というイメージがあります。

Tom Misch  GEOGRAPHY.jpg   Yussef Kamaal.jpg

ビートメイカーでもあるトム・ミッシュとのコラボは、
ビート・ミュージックになるのかなと思ったら、
かなり繊細に組み立てられた仕上がりを見せていて、
ビート・ミュージックのセッションといったラフさはどこにもありませんね。
全体にメランコリックなサウンドとなっているのが特徴で、
多幸感に溢れた“GEOGRAPHY” とは対照的な、
グルーミーな世界を生み出しているのが新鮮です。

ユセフ・デイズのアナログ感いっぱいのドラムスは、
音色や音質も、UK独特のセンスを強く感じさせます。
スネアのロールやフラムなんて、トニー・アレンを思わせるところもありますよ。
ベースのロッコ・パラディーノが加わったトラックでは、
レゲエ/ダブのニュアンスがぐっと前に出てきますね。

キックを含む低音域がファットで、スネアのちょっと詰まったような音色が耳残りします。
シンバル系の高音が広がらないようにして、サウンド全体をコンパクトに収めているので、
クラブ・サウンドのトラックメイクに近い感覚で聞けます。
アメリカのヒップ・ホップやR&B流れのグルーヴ感たっぷりなドラミングとは、
まったくタイプが違いますね。

トム・ミッシュならではのドリーミーなサウンドと混じり合って、
この二人ならではのケミストリーが生まれているところが妙味。
トムのメロディアスな才能と、ユセフが持つUKブラックのクラブ・サウンドが、
絶妙なバランスをみせています。

ベッドルームから外の世界に飛び出た若き天才は、ワールド・ツアーも成功させましたが、
新たな変化を求めてチャレンジしたコラボレーションは、トムに自信を与え、
さらなる音楽領域の可能性を広げたのではないでしょうか。

Tom Misch & Yussef Dayes "WHAT KINDA MUSIC" Beyond The Groove/Blue Note 2812124273 (2020)
Tom Misch "GEOGRAPHY" Beyond The Groove BTG020CD (2018)
Yussef Kamaal "BLACK FOCUS" Brownswood Recordings BWOOD0157CD (2016)
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70年代マイルズ・ミュージックを更新するビル・ラズウェル

Bill Laswell  AGAINST EMPIRE.jpg

ああ、やっぱり、こういうジャズ・アルバムがぼくは好きなんですよ。
ビル・ラズウェルの新作、いいですね。

ハービー・ハンコック、ファラオ・サンダースという両巨頭に、
ビルとは共演歴の長い山木秀夫にアダム・ルドルフが参加。
メンバーでおやと思ったのが、
アヴァン系マルチ・プレイヤーのピーター・アプフェルバウムに、
レッド・ホット・チリ・ペッパーズのチャド・スミスが参加していたこと。
ぼくにはチャド・スミス以外の名前はわかりませんでしたが、
ロック系ドラマーの起用が、今回の目玉のようです。

15分前後の長尺の4曲を収録。
どの曲にも起承転結があり、
メンバーそれぞれの腕をふるえるスペースが用意されていて、
存分にインプロヴィゼーションを繰り広げています。
アヴァンギャルドというふれこみですが、
ぼくには70年代マイルズを更新したジャズに聞こえました。

スケール感のあるサウンドで、ハンコックやファラオが
のびのびと演奏しているのを今聴けるというのは、なかなか得難いのでは。
ヴェテラン揃いなので、アンサンブルの緩急もしっかり押さえられていて、
壮大なサウンド・スケープを生み出しているところは、やっぱりスゴイな。

Bill Laswell "AGAINST EMPIRE" M.O.D. Reloaded MODRL00100 (2020)
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ポップなジャズ・ロック アヴィシャイ・コーエン

Avishai Cohen  BIG VICIOUS.jpg

ストーリーのある音楽を紡いだ作品といえるのかな。

イスラエルのトランペッター、アヴィシャイ・コーエンの新プロジェクト、
ビッグ・ヴィシャスの初作。
聴く前は、ジャケットのロック・バンドふうのペインティングが、
ECMらしからぬアートワークに思えましたけれど、
中身を聴いてみれば、実にECMらしい作品。

ビート・ミュージックからクラシックまで多彩な意匠をまとっているものの、
端正なサウンドと上品なその仕上がりは、いかにもECM的。
あー、もっとバリバリ、トランペット吹いてくんないかなとじれったく感じるのは、
ダン・ローゼンブームを激愛聴中のせいでしょうか。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-04-27

こればかりは好みの問題だからしょうがないけど、
マッシヴ・アタックのカヴァー曲などで聞けるアンビエントなムードなどは、
ちょっとぼくにはヌルく思えるのも、正直なところ。
まあ、ベートーベンとマッシヴ・アタックが違和感なく同居できるのは、
イマドキのジャズらしいところです。

最初は物足りなく感じたアルバムですが、
何度か聴くほどに、メロディアスなトラックが耳残りして、
結構気に入ってしまいました。聞き慣れてみると、
これはポップなジャズ・ロック・アルバムなんじゃないかと思えるようになりました。
エレクトロニカやプログレも内包しているから、
ジャズよりロック・ファン向けじゃないですかね。

Avishai Cohen "BIG VICIOUS" ECM ECM2680 (2020)
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弔いは祝い フラ・フラ

Fra Fra.jpg

世界各地の絶滅危惧種音楽(?)をフィールド・レコーディングする、
イアン・ブレナンの<ヒドゥン・ミュージックス>シリーズの最新作。
シリーズ第6弾となる本作は、ガーナ北部のコロゴです。

コロゴといえば、キング・アイソバの成功を皮切りに、
ボラ・ナフォ、アゴンゴ、ガイ・ワン、アユーネ・スレ、
アタミナ、スティヴォー・アタンビレと、
数多くの音楽家が次々とアルバムを出していることは、
このブログをご覧になっている読者なら、ご承知のとおり。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2014-07-12
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-07-05
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2017-04-13
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-02-15
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-10-09
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-10-11
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2019-08-23

絶滅危惧どころか、ブーム真っ只中といえるコロゴを
このシリーズで取り上げるのは、趣旨と合っていない気がしますが、
フィールド・レコーディングということで、スタジオ録音では味わえない
生々しく現場感覚に富んだサウンドが聴けそうですね。

イアンは、ガーナ北部の主要都市タマレの町はずれで行われていた
葬式で歌われていたコロゴをレコーディングしてきたといいます。
ガーナの葬儀音楽というと、ロビ人のギリ(バラフォン)の演奏が有名ですけれど、
コロゴも葬儀で演奏されることを、今回初めて知りました。
演奏はコロゴとシェイカーと笛を操る3人組。
ガーナ北部に暮らすフラフラ人の民族名そのままを、グループ名にしています。

葬式の葬列で歌っているところをレコーディングしたとのことで、
外側からマイクで拾うのではなく、3人にマイクを仕込んで録ったようですね。
そのせいか、参列する人々の声やざわめきのような音は捉えられておらず、
3人の歌と演奏がクローズ・アップされていて、
フィールド・レコーディング独特の臨場感がぜんぜんなくって、
まるでスタジオ録音のように聞こえます。

とはいえ、3人のパフォーマンスは、実に生々しいですよ。
どなるようなコロゴ弾きの歌いっぷりは、野趣そのもの。
笛とシェイカーの二人も、唸りのようなハミングをしたり、
コロゴ弾きの歌をはやしながらも、
3人が唾を飛ばし合うような勢いで歌い合ったりと、存在感ありまくりです。

コロゴの奏法は、弦楽器というより、打楽器そのものですね。
たった二つの音を、ひたすら叩き続けてリズムを取るなど、
プリミティヴそのもののプレイを聞かせます。

わずか32分足らず、7曲のパフォーマンスですけれど、
ワン・パターンになりがちなコロゴのアルバムには珍しく、
全曲とも構成が違っていて飽きさせないという、傑出したアルバム。
秀逸なフィールド・レコーディングです。

Fra Fra "FUNERAL SONGS" Glitterbeat GBCD089 (2020)
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ガーナイアン・ハイライフ・レヴィジッテッド サントロフィ

Santrofi  ALEWA.jpg

ミスター・フランクのヘヴィ・ロテが止まりません。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-04-25
芳醇なヴィンテージの香り漂うハイライフのメロディが、
アフロビーツのサウンドと見事にブレンドされていて、
聴けば聴くほど、本当によく出来ているとウナってしまうんですよ。

そんなオールド・ファッションなハイライフを愛するファンには、
またも感涙ものの新作が出ました。
ミスター・フランクはナイジェリアのハイライフですけれど、
こちらサントロフィは、ガーナのハイライフ。

若手のハイライフ・バンドの登場を、どのくらい待ち望んだことか。
アフロビートのコピー・バンドはクサるほどあるってのに、
ハイライフをやろうっていうバンドは、これまでまったく登場しなかったのだから、
その心意気だけでも、ジンとくるってもんです。
エボ・テイラー、パット・トーマス、ジェドゥ=ブレイ・アンボリーといった
往年のハイライフ・レジェンドたちの、
現役復帰とその活躍が呼び水になったことは、間違いありませんね。

サントロフィのリーダーでベーシストのエマニュエル・オフォリは、
エボ・テイラー、パット・トーマスのほか、ヒュー・マセケラやリシャール・ボナとの
共演歴を持つ音楽家で、そのほかドラマーのプリンス・ラルビは、
パット・トーマスのバンドに在籍していたことがあり、
リード・ギタリスト、トロンボーン奏者もエボ・テイラーとの共演歴があります。
往年のハイライフの養分をヴェテランたちから吸収した若手だから、
こうしたしっかりとしたハイライフ・サウンドが作り出せるんですね。

伝統的なマニフェストのオープニングに続く’Alewa’ は、
パームワインの香り高いギター・バンド・ハイライフのメロディが、たまらん!
さらに5曲目の‘Odo Maba’ では、往年のダンス・バンド・ハイライフをホウフツとさせる
ホーン・セクションのソリに、もう泣ける、泣ける。

‘Cocoase’ や‘Adwuma’ の性急なリズムが巻き起こすグルーヴも聴きものです。
‘Cocoase’ の途中で、リズム・セクションが上滑ってしまう箇所なんて、
すごくナアナマしくて、ドキドキしちゃいましたよ。
ひたすらアルペジオを反復するギターも、これぞハイライフのギター・サウンドですね。

1曲だけアフロビートもやっていますけれど、余裕シャクシャクなのが頼もしい。
ラストの‘Mobo’ は、なんとソウル・ナンバーで、
ハイライフどころか、まったくアフリカ色なし。
上質の60年代サザン・ソウルを聴くかのような仕上がりで、グッときますねえ。
リズム・ギターも担当するロバート“ンソロマ”コームソンのヴォーカルがいい味出してます。

単なるリヴァイヴァルにとどまらない、現代的なリズム・センスでブラッシュ・アップした、
ガーナイアン・ハイライフの傑作です。

Santrofi "ALEWA" Out Here OH034 (2020)
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知られざるサンバランソの傑作 サンドラ

Sandra  SAMBA 35MM.jpg

今回のジスコベルタスのリイシュー・カタログで、
一番のディスカヴァリーが、このサンドラでした。
このレコードはおろか、名前も初めて知った人ですけれど、
61年に出たこのアルバム、ビッグ・バンド・サウンドにのせて歌う、
表現力豊かな歌唱力に驚かされましたよ。

いやぁ、すごい歌唱力じゃないですか。
この人はジャズ・シンガーといっていいでしょうね。
リズムのノリがバツグンに良くって、歌詞を転がしながら、
ハネるように軽くスウィングする歌い口が、絶妙です。
語尾をソフトに伸ばしたり、キレのよいスタッカートを聞かせたりと、
とにかく表現力が豊かで、舌を巻きました。

バックのビッグ・バンド、オルケストラ・モデルナ・ジ・サンバスの演奏も一級で、
軽やかなサンバのリズムにのるホーン・セクションもスウィンギーなら、
マルコ・ルッピのテナー・サックス・ソロも鮮やかです。
ジャケットに「バランソの声」と書かれているとおり、
これはサンバランソのお手本といえる演奏ですね。

ラストのネウトン・メンドンサ作の‘Nuvem’ のみ、
ピアノ・トリオをバックに歌ったスローなサンバ・カンソーン。
一部に音ゆれがあるのが惜しまれますけれど、
なんでもこのサンドラというシンガーは、ネウトン・メンドンサの
お抱えシンガーだったようです。
ネウトン・メンドンサは、アントニオ・カルロス・ジョビンと「ジザフィナード」はじめ、
多くの曲を共作したことで知られる、ボサ・ノーヴァ史の重要人物です。

サンドラのバイオを調べてみたところ、
コパカバーナのナイトクラブで活躍したシンガーで、
ジャルマ・フェレイラのナイトクラブ、ドリンキと縁が深かったようですね。
オルガン奏者セルソ・ムリロ率いるコンジュント・ドリンキのアルバムにも
サンドラがフィーチャリングされていますけれど、
ソロ・アルバムはこの一作だけだったようです。

ちなみに、CDには62年作のクレジットがありますが、これは61年の誤り。
サンドラは本作で61年のレコード批評家協会の新人賞を受賞しますが、
授賞式が行なわれた12月のわずか数日後に、交通事故で亡くなってしまったそうです。

全12曲、わずか27分に満たない収録時間ですけれど、
これは知られざるサンバランソの傑作といえるんじゃないでしょうか。

Sandra "SAMBA 35MM" Discobertas DBDB026 (1961)
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ガロート+シキーニョ+ファファ・レモス トリオ・スルジーナ

Trio Surdina Discobertas.jpg   Trio Surdina_1st press.jpg

ジスコベルタスのリイシューが息長く続けられていますね。
今回のラインナップで、おっ!と思わず声を上げたのが、
ガロート(ギター)、シキーニョ(アコーディオン)、ファファ・レモス(ヴァイオリン)の
名手3人が集まったスーパー・グループ、トリオ・スルジーナのムジジスク盤です。

トリオ・スルジーナは、リオのラジオ局が51年にスタートさせた
「ムジカ・エン・ナシオナル」という番組の伴奏を務めるため、
52年に結成されたんですね。
初レコードが出されたのは翌53年で、晩年のガロートがこのトリオで残したレコードは、
53年と54年の10インチ盤2枚だけです。
トリオ・スルジーナ名義のムジジスク盤はこの後も続きましたが、
55年にガロートが死去して、ギタリストは交代となります。

最初ジスコベルタスのカタログを見た時は、初レコードのジャケット・カヴァーだったので、
53年作のストレート・リイシューかなと思ったんですが、さすがはジスコベルタス。
54年のアリ・バローゾ曲集のトリオ・スルジーナの4曲を追加
(残り4曲はレオ・ペラッキ・オーケストラ)して、
ガロート在籍時のトリオ・スルジーナの全録音を復刻しています。

Trio Surdina_2nd press.jpg   Trio Surdina Ary Barroso.jpg

今回のCD化ではムジジスク盤のセカンド・プレスのジャケットを採用していますが、
ずいぶんとくすんだ色調になってしまっていますね。
音質の方もだいぶやせていて、ぼくの持っている10インチ盤とあまり変わらないのは、
ムジジスクのオリジナル音源が、もともとあまり良くないからでしょう。
ちなみに、ファースト・プレスの10インチ盤はカラー・ディスクでした。

ロマンティックなイージー・リスニング・アルバムですけれど、
ガロートのギターに聞けるサンバのノリやモダンなコード感覚、
ファファのボサ・ノーヴァ誕生を予言するソフトな歌唱スタイル、
シキーニョのハーモニー・センスなど、当時最新の粋なサウンドが楽しめます。

Chiquinho_LPP-TA25.jpg   Fafa Lemos_BPL3023.jpg
Fafá Lemos O TRIO DO FAFÁ.jpg   Fafá Lemos UMA NOITE NA BOÎTE DO FAFÁ.jpg
Fafá Lemos SEU VIOLINO E SEU RITMO.jpg   Fafá Lemos DÓ RÉ MI FÁ FÁ.jpg Fafá Lemos HI-FAFÁ.jpg   Fafá Lemos, Luiz Bonfa BONFAFÁ.jpg

シキーニョのトダメリカ録音は、ずいぶん昔にCD化されたことがあったけれど、
ファファ・ラモスなんてぜんぜんCD化されないなあ。
ルイス・ボンファとの共作なんて、名作なんだけれども。
引き続きジスコベルタスの仕事に期待しましょう。

Trio Surdina "TRIO SURDINA" Discobertas DBDB021 (1953)
[10インチ] Trio Surdina "TRIO SURDINA" Musidisc M007 (1953)[1st Press]
[10インチ] Trio Surdina "TRIO SURDINA" Musidisc M007 (1953)[2nd Press]
[10インチ] Trio Surdina, Léo Peracchi e Sua Orquestra "ARY BARROSO" Musidisc M008 (1954)
[10インチ] Chiquinho "CHIQUINHO" Todamérica LPPTA25 (1954)
[10インチ] Fafá Lemos "E SEU VIOLINO COM SURDINA" RCA BPL3023 (1957)
[LP] Fafá Lemos "O TRIO DO FAFÁ" RCA BPL7 (1958)
[LP] Fafá Lemos "UMA NOITE NA BOÎTE DO FAFÁ" RCA BPL22 (1958)
[LP] Fafá Lemos "SEU VIOLINO E SEU RITMO" RCA BBL1026 (1959)
[LP] Fafá Lemos "DÓ RÉ MI FÁ FÁ" RCA BBL1145
[LP] Fafá Lemos "HI-FAFÁ" Odeon MOFB3045
[LP] Fafá Lemos, Luiz Bonfa "BONFAFÁ" Odeon MOFB3047
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いまが絶頂 岡村靖幸

岡村靖幸 操.jpg

完全復活とともに成熟をみせた一大傑作『幸福』から4年ぶりの新作、
50代の岡村ちゃん、期待を裏切らない出来で、楽しませてもらってます。

前作の『幸福』は、やたらと耳にひっかかる歌詞が多くて、
普段言葉に頓着せず音楽を聴く自分にとっては珍しく、
歌詞カードを確認したりしたものでしたけれど、
今作はスキなく作られた岡村ワールドを演出するサウンドに没入しています。
過剰なほどヒリヒリした歌詞を書いてた前作の岡村を、
少し心配もしていたので、ちょっぴり安心したかな。

しょっぱなの「成功と挫折」から、「インテリア」「ステップアップLOVE」と
切れ目なく続く、怒涛の3曲がスゴイ。
その後も5曲目まで矢継ぎ早に曲が進み、
岡村のライヴを聴いているような錯覚を覚えます。

ボトムのぶっといデジタル・ファンクに小山田圭吾のギターが絡む「成功と挫折」から、
ラストの「赤裸々なほどやましく」に至る全9曲、
ミックスを含めサウンドの細部に至るまで、神経を配られているのがよくわかります。
岡村のサウンド美学が透徹したプロダクションの見事さにはもう、降参するしかないですね。

チャーミングなメロディの「少年サタデー」で、
エンディングにEW&Fの「セプテンバー」が引用されるおちゃめぶりにも、ニヤリ。
ライムスターのラップをフィーチャーした「マクガフィン」のキレもバツグンです。

岡村の絶頂は『家庭教師』の時ではなく、今ですね、いま。

岡村靖幸 「操」 V4 XQME91007 (2020)
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ミナスのハーモニー サミー・エリッキ

Samy Erick  REBENTO.jpg

ベロ・オリゾンチ出身、ミナス新世代ギタリストのデビュー作。
ドレッド・ヘアと精悍な顔立ちが、
なかなかにインパクトのあるルックスのギタリストであります。

アクースティックとエレクトリックの両刀使いで、
そのギター・スタイルはいたってオーソドックスなものですけれど、
4管を含む9人編成によるカラフルなサウンドが聴きどころ。
ギタリストとしてより、作編曲家の才能が発揮されたアルバムといえます。
リズム・セクションの面々はみな、ベロ・オリゾンチで活動している音楽家です。

ショーロとサンバ・ジャズが交互する‘Choro De Maria’
ビリンバウのイントロにアフロ・サンバかと思いきや、
するっとミナスのメロディに移行する‘Sol E Lua’、
ミナス節としか呼びようのない‘Fronteira’、
フラメンコのパルマを取り入れた‘Esfinge’、
フォローなのに、メロディはミナスという‘Lampião e Maria Bonita’ など、
いずれもミナスを全開にした、歌ごころ溢れる楽曲ばかり。

4管のハーモニーとギターの絡みが、これほどしっくりといっているのは、
きちんとスコアに落とされているからでしょうね。
ラージ・アンサンブルのアレンジもイケそうなスキルの持ち主じゃないでしょうか。
デビュー作としては、出来すぎともいえる完成度で、その流麗さに脱帽です。

Samy Erick "REBENTO" no label no number (2017)
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上質を知る人のジャジーMPB グスタヴォ・ボンボナート

Gustavo Bombonato.jpg

少し前にセール品で買った一枚。
良作であるものの、特に記事にしたくなるほどの盛り上がりは起こらず、
そのままにしていたんですが、仕事疲れの緊張を解きほぐしたい時に、
なんとなく手が伸びる一枚として、もう何か月も手元に置いたままとなっています。
気がつけば、お気に入り盤というやつで、
せっかくだから、ちょっと書いておこうかなと思った次第。

サン・パウロのピアニスト、グスタヴォ・ボンボナートのソロ・アルバム。
エルメート・パスコアール門下のアンドレ・マルケスに5年師事したという人なんですが、
ここで聴けるのはエルメート・ミュージックではなく、ジャジーなMPBです。
インスト・アルバムではなく、歌ものアルバムなんですね。

タチアナ・パーラ、マヌ・カヴァラーロ、フィロー・マシャード、
アドリアーナ・カヴァルカンチという、ジャズ・センスの高い歌手4人をフィーチャーして、
グスタヴォのオリジナル曲を歌わせています。
ピアノとローズを弾くグスタヴォのほかは、
ドラムスにエドゥ・リベイロとクーカ・テイシェイラ、
ベースにニーノ・ナシメント、チアーゴ・エスピリート・サント、
フルートとサックスにラファエル・フェレイラというサン・パウロの名手が勢揃い。
ハーモニカのガブリエル・ロッシが1曲客演しているところも嬉しいな。

全員派手さのない抑えの利いたプレイで、ヴォーカルの引き立て役に徹していて、
これぞ歌伴のお手本のようなアルバム。それでこそ、歌も引き立つというもので、
‘Finda À Dor’ でタチアナが聞かせる清涼感たっぷりの歌声、
‘Sapateiro Benevolente’ でフィローお得意のスキャットが、ことのほか粋に聞こえます。

「上質を知る人の」なんて、いけ好かないコピーが昔ありましたけれど、
本作はまさにそんなコピーが良く似合う作品です。

Gustavo Bombonato "UM RESPIRO" Gustavo Bombonato GB002 (2018)
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若返ったデヴィッド・ブロムバーグ

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デヴィッド・ブロムバーグは、
ぼくにとってライ・クーダーと並ぶアクースティック・ギター・ヒーロー。
10代の頃はギターをコピーしたり、熱心に聴いていましたけれど、
すっかりごぶさたとなっていましたねえ。

近年のアルバムを聴いていなかったわけじゃないんですけれど、
新作のオープニングには、ドギモを抜かれました。
戦前ミシシッピ・ブルースを代表する名曲、トミー・ジョンソンの‘Big Road’ を
カヴァーしているんですけど、オリジナル・ヴァージョンにはない、
ヒーカップを取り入れた奔放な歌いっぷりに、いやぁ、圧倒されましたよ。

なんですか、このハジけっぷりは。
昔とは比べものにならないくらい、ハツラツとしているじゃないですか。
モソモソと歌って、シブいギターを弾いていた71年のデビュー作とは、
とても同一人物に思えませんね。
74歳にして、これほどハリのある若返った歌声を聞かせてくれるとは、
予想だにしませんでした。

若い時に老成した音楽をやっていた人ほど、老年期を迎えて、
びっくりするほど若々しくなったりするものですけれど(J・J・ケイルとか)、
デヴィッド・ブロムバーグも、まさにそんな一人ですね。
ヴォーカルも元気イッパイなら、ギターもソリッドで、
4管を含む10人編成のバンド・サウンドのコンビネーションも申し分ありません。
チューバには、名手ボブ・スチュワートが起用されています。

デヴィッドを中心に五重唱で歌ったア・カペラのスピリチュアル
‘Standing In The Need Of Prayer’ もあれば、
ボブ・ウィルズのウェスタン・スウィングあり、
72年の傑作“DEMON IN DISGUISE” でやっていた
‘Diamond Lil’ の再演もやってくれていて、嬉しいったらありゃしない。
デヴィッド・ブロムバーグ流アメリカン・ルーツ・ミュージックがてんこ盛りです。

さらに本作にはお楽しみがあり、レコーディングのメイキング映像や、
完成した5曲のヴィデオ映像を収めたDVDが付いています。
大きな窓から屋外もよく見える明るいクラブハウスで、
つい立なしのフロアに10人のメンバーが揃って演奏する様子は、
とても風通しが良く、メンバー全員がハツラツとしていますね。
デヴィッドの絶好調ぶりが伝わる傑作です。

[CD+DVD] David Bromberg Band "BIG ROAD" Red House RHRCD315 (2020)
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生で聴いた瞽女さん 伊平たけ

伊平たけ  「しかたなしの極楽」.jpg

うわぁ、懐かしいレコードがCD化されましたね。
刈羽瞽女の伊平たけが88歳の時に開いた、
東京赤坂の草月会館ホールでのリサイタルを収録した2枚組。
ライヴ盤と言うより、実況録音盤と呼んだ方が、しっくりくる感じ。
当時新進のジャズ・レーベル Nadja から出た、変わり種のレコードでした。

73年あたりから沸き起こった瞽女ブームをきっかけに、
高校生だったぼくも、瞽女唄のファンになったんでした。
高田瞽女の杉本キクイ、五十嵐シズ、難波コトミに、
長岡瞽女の中静ミサ、金子セキ、加藤イサを収録した
3枚組の『越後の瞽女唄』(CBSソニー)も、
乏しいこづかいを貯めて買うほど、夢中になったもんです。

そういえば、あの当時ブルースもブームだったけれど、
瞽女とブルースの両方を聴いてた人なんて、ほとんどいなかったんじゃないかな。
コンサート会場の客層が、まったく違ったもんね。
どっちみち高校1年生のぼくは、どちらの会場でも浮きまくってたように思うけど。

牛込公会堂で観た伊平たけは、第1回ブルース・フェスティバルで来日した
スリーピー・ジョン・エスティスと同じくらいの衝撃がありました。
当時の日記を見返してみたら、伊平たけを観たわずか10日後が、
ブルース・フェスティバルだったんですね。

どちらのコンサートも、この音楽が、どんな場で演奏され、
どんな人々の間で聞かれていたのか、その情景を想像するだけで、
ゾクゾクするような思いがしましたね。
非日常的な音楽にこそ好奇心を掻き立てられる変態高校生にとっては、
とてつもなく刺激的な体験でした。

このレコードの良さは、瞽女さんのレパートリーを一通り聴けるところにあります。
1枚目は口説、門付け唄、さのさ、萬歳など短い唄を集め、
2枚目で長い段物(祭文松阪)をたっぷりと聴くことができます。
1枚目では、司会の朝比奈尚行とのやりとりがほどよい解説となって、
初めて瞽女さんを聴く人にとっても、親しみやすい構成となっています。

瞽女さんのレコードというと、
無形文化財のアーカイヴといった堅苦しさがつきまとんですけれど、
長尺の語り物だけを聴いていてはわからない、
庶民芸の娯楽の要素を引き出した本レコードの企画は、秀逸でした。

「葛の葉子別れ」や「小栗判官」「山椒太夫」といった段物は、
演目のクライマックスであって、瞽女宿に夜集まってきた村人の前で
繰り広げられる大宴会では、さまざまな流行(はやり)唄が披露されていたんですよね。
そんな瞽女さんのユーモアを、このレコードでは楽しむことができます。
76年に出た本『伊平タケ 聞き書越後の瞽女』
(鈴木昭英,松浦孝義,竹田正明編、講談社)も、
文芸的に語られすぎる瞽女さん像を軌道修正するのに役立ちました。

伊平たけ 「越後流し追分/松坂節」.jpg

伊平たけが出したLPは、この1作だけだったと思いますけれど、
つい最近、昭和3年にニッポノホンへ吹き込んだSP「越後流し追分/松坂節」が、
メタカンパニーの特典CD-Rになりましたね。
74年のブーム当時、物珍しさだけで伊平たけを聴いてた人が、
このCDを買うとは思えないので、瞽女唄をこれから聴いてみようという人にこそ、
ぜひおすすめしたいと思います。

伊平たけ 「しかたなしの極楽」 Nadja/ソリッド CDSOL1891/92 (1974)
伊平たけ 「越後流し追分/松坂節」 メタカンパニー SP006
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