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知的な伴奏とマランドロな歌声 マルシオ・ジュリアーノ [ブラジル]

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面白いサンバ作品が登場しましたね。
リオやサン・パウロのサンバではなく、南部クリチーバ産という珍しいもので、
主役のマルシオ・ジュリアーノは、歌手だけでなく、
舞台俳優のほか監督も務める、演劇界においてキャリアのある人とのこと。

クリチーバというので、クラロン(バス・クラリネット)奏者の
セルジオ・アルバッシを思い浮かべたところ、
なんとそのセルジオ・アルバッシがプロデュースした作品なのでした。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-08-26

セルジオ・アルバッシのクラロンとクラリネットを中心とする
7弦ギター、バンドリン、カヴァキーニョなどによるサンバ/ショーロの伴奏で、
セルジオ・アルバッシが音楽監督を務める、
クリチーバ吹奏楽オーケストラがゲスト参加した曲も1曲あります。
ラウル・ジ・ソウザのトロンボーンや女性コーラスをフィーチャーしたり、
クイーカだけをバックに歌ったりと、曲ごとにユニークな音楽的試みがされています。

たとえば、ウィルソン・バプティスタの古典サンバ‘Pedreiro Waldemar’ では、
長さの異なる塩ビ・パイプを両手に持った4人が、机の上にパイプの末端を落として
音階を出し(ヴィブラフォンの共鳴管で音を出すみたいな)、
それにレコレコとクラロンが加わってアンサンブルを作っているんですけれど、
これがなんとも不思議なサウンド。

編曲技法は現代音楽のようでもありながら、曲のユーモラスな側面を引き出し、
すごく面白い仕上がりとなっています。どこからこんなアイディアを思いついたんだろ。
ルピシニオ・ロドリゲスの‘Judiaria’ に、フェイクなアラブふうのイントロと
インタールードをアダプトしたアレンジも、実にウィットが利いています。

本作は、サンバ黄金時代の29年から45年に作曲にされた
古典サンバにこだわった選曲で、ピシンギーニャ、ノエール・ローザ、アリ・バローゾ、
ルピシニオ・ロドリゲス、ドリヴァル・カイーミなどのサンバ名曲を歌っています。
原曲のメロディを生かしながら、さまざまなアイディアを施したアレンジが鮮やかで、
クラシックやジャズの技法を巧みに取り入れながらも、
実験的なサウンドになっているわけではなく、伝統サンバの枠は崩していません。

高度に知的なアレンジを施しても、鼻持ちならないインテリ臭さがまとわないのは、
マルシオ・ジュリアーノのマランドロ気質をうかがわせる歌いっぷりのおかげですね。
街角のサンバを体現する庶民性たっぷりな歌声が、音楽の色彩を決定づけていて、
知的な伴奏とマランドロな歌声が、古典サンバに新たな味わいを醸し出しています。

Marcio Juliano "OUTRO SAMBA" Marcio Juliano Da Silva MJS171 (2020)
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