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ステラ・ハスキルを歌う カテリーナ・ツィリドゥ [東ヨーロッパ]

Katerina Tsiridou  BOEM.jpg

戦前レンベーティカから戦後ライカ揺籃期の
古いレパートリーを掘り下げて歌う、カテリーナ・ツィリドゥの新作。
前作は、スミルナ派レンベーティカの作曲家パナギオーティス・トゥンダスの曲集という、
ディープこのうえないアルバムでしたけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2017-12-21
4年ぶりの本作は、サロニカ(現テッサロニキ)生まれのユダヤ人女性歌手
ステラ・ハスキル(1918-1954)が歌ったレンベーティカ16曲をカヴァーしたアルバムです。

もう、まいっちゃうなあ。
こちらの好みを見透かされているようでコワいんですけど、
ステラ・ハスキル、大好きな歌手なんですよ。
35年に17歳で初録音してから、グングン急成長した歌手で、
54年にわずか30代半ばで早逝するまで、わずか20年の短い歌手人生を
駆け抜けた名歌手です。
奇しくも同じ54年に35歳の若さで亡くなった、
マリカ・ニーヌとオーヴァーラップするのは、
マリカ・ニーヌの相方、ヴァシリス・ツィツァーニスの曲を歌っていたからでもありますね。

本作は、ステラ・ハスキルが戦後の47年から、
亡くなる54年までに録音した曲から選曲されています。
オープニングは、いかにもスミルナ派らしい9拍子のゼイベキコの‘Prousa’。
男性コーラスを従えて歌う明るい曲調の‘Gialelem’ では、
原曲に忠実なアレンジで歌っていますね。
一方、妖しく揺らめくクラリネットの響きが魅力のステラの代表曲
‘Apopse Sto Diko Sou Mahala’ は、クラリネットをヴィオリンに、
アコーデイオンはカヌーンに置き換えて演奏しています。

今回もニコス・プロトパパスのギターを中心とする、ブズーキ、バグラマー、
アコーディオン、カヌーン、ヴァイオリンのアンサンブルは、鉄壁。申し分ありません。
48年のヴァシリス・ツィツァーニス作の‘Akrogialies Dilina’ のみ、
弦楽オーケストラ伴奏となっているのが、異色の聴きどころです。

前作とはレーベルが変わったものの、カテリーナ・ツィリドゥのCDは
ギリシャ盤には珍しく、アルバム・タイトルほか、ライナーも英語で書かれています。
ギリシャ国内ばかりでなく、国外へのリスナーを意識しているのでしょうか。
そのわりに流通は、相変わらずよろしくないですけれどね。

解せないのは、その英語ライナーに、
「ステラ・ハスキル」の文字がなぜか見当たらないこと。
レンベーティカ・ファンなら、これがステラ・ハスキル集であることは一聴瞭然なのに、
トリビュートの姿勢を明示しないのは、どういう理由なんでしょう。

Katerina Tsiridou "BOEM: 16 REBETIKO SONGS" Reload Music RL9904100 (2020)
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