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レイド・バックは確かな歌唱力から マリアーナ・ラモス [西アフリカ]

Mariana Ramos  DI DOR EM OR.jpg

マリアーナ・ラモスの99年のデビュー作を発見しました。
今年はナンシー・ヴィエイラのデビュー作といい、
カーボ・ヴェルデのレアなCDがよく見つかる年だなあ。
コンディションはやや難ありだったけれど、ま、しょうがない。

デビュー作はモラベーザから出ていたんですね。
モラベーザは、65年にジョアン・シルヴァがロッテルダムで設立した
初のカーボ・ヴェルデ音楽レーベル。
植民地時代の60~70年代に活発にレコードを出しましたが、
カーボ・ヴェルデが独立してCD時代になると、
ほとんど作品を出していなかったので、これは意外でした。
当時はオランダからフランスへ拠点を移していたので、本作はフランス盤です。

聴いてみて驚かされたのは、存外にジャズの影響をうかがわせる歌いぶりで、
かなりテクニックのある歌唱を聞かせていたこと。
え~、マリアーナのデビュー当初は、こんなにジャズぽかったのか。
サラ・ヴォーンをフェヴァリットに挙げていたのにも、なるほどとうなずけますね。
バックのサウンドもフュージョン寄りで、
シャレたセンスのクレオール・ポップに仕上げています。

アレンジは洗練されたソングライティングの才が光るテオフィーロ・シャンテと、
ナザリオ・フォルテスがレパートリーの半分ずつを担当。フックの利いた曲に恵まれ、
なかでもアコーディオンをフィーチャーしたタイトル曲‘Di Dor Em Or’の、
マリアーナの色気たっぷりの歌いぶりは極上のメロウネスで、トロけます。

ただアルバム全体としては、歌い込みすぎていて、少しクドく感じるところもあり、
デビュー作で力が入りすぎたかなという印象。
むしろ、5年後に出た2作目“BÍBÍA” での見事に力の抜けた歌唱は、
デビュー作とはがらりと唱法を変えた結果だったことがよくわかります。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2011-05-25

こうしてみると、あらためて“BÍBÍA” の傑作ぶりがよくわかり、
あらためてマリアーナ・ラモスの歌唱力を再認識させられたわけなんですが、
今年の春先に書いた新作の記事でもふれた、
未聴のままの15年作のことが、急に気になってきました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-03-28

Mariana Ramos  QUINTA.jpg

で、遅まきながら買ってみたんですが、これまた素晴らしい出来じゃないですか。
マリアーナの円熟した歌がたっぷり味わえます。
テオフィーロ・シャンテやホルヘ・ウンベルトなどのおなじみの作曲家や、
ジョルジ・タヴァレス・シルヴァなどの若手作家の曲も取り入れ、
音楽監督トイ・ヴィエイラのもと、マリアーナの故郷
サン・ヴィセンテ島で録音されたアルバムなんですね。
地元の音楽家を中心に、リラックスした環境のもとで
録音された雰囲気が、よく伝わってきます。

マヌ・ディバンゴがテナー・サックスを吹いた曲など、
一部ゲスト参加の曲などはパリで録音されたようですが、
パリ在住のフレンチ・カリブ系のミュージシャンなどは、ここには加わっていません。

レパートリーは、コラデイラやバトゥクなどのリズミカルな曲で占められ、
アルバムの最後の2曲に、ルイス・モライス作のモルナと、
優雅なピアノ演奏のヴァルスで締めるという趣向。
本格的なサンバも2曲やっていて、そのうちの1曲、
B・レザが作曲した‘Estrela da Marinha’ は、
サン・ヴィセンテのカーニヴァルを歌詞に織り込んだサンバです。

力を入れず、軽くスウェイするように歌う、マリアーナの歌い口のすがすがしさといったら。
このさりげない歌いぶりは、確かな歌唱力に裏付けられていることがよくわかります。
髪にパーマのロットを巻いたまま、床屋で歌っている庶民的な演出のジャケットも、
普段着姿の飾らないカーボ・ヴェルデ音楽を良く表していますね。

歌詞カードに載せられた、カーニヴァルの仮装をした男のポートレイトや、
カーボ・ヴェルデの日常風景を映した写真を眺めながら聴いていると、
心はカーボ・ヴェルデへと飛んでいきます。

Mariana Ramos "DI DOR EM OR" Morabeza 01MR (1999)
Mariana Ramos "QUINTA" Casa Verde Productions 001438 (2015)
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