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アメリカで名を馳せた沖縄育ちの豆スター 沢村みつ子 [日本]

沢村みつ子  沢村みつ子 スーパー・ベスト.jpg

江利チエミや雪村いづみに続く、
日本のポップス・シンガーの草分け的存在だったという、沢村みつ子。
恥ずかしながら、全盛期のコロムビア時代の録音を集大成した本2枚組が出るまで、
まったく知りませんでした。いやぁ、こんな人がいたんですねぇ、ビックリです。

11歳でコロムビア・レコードからデビューした時は、
同じくコロムビア専属の美空ひばりに続く豆スターと呼ばれ、脚光を浴びたといいます。
新たな天才少女歌手という評判も、けっして誇張でなかったことは、
54年から56年までのSP時代の録音をまとめたディスク1を聴けば、まるっとわかりますよ。

録音データと突き合わせると、11歳から14歳ということになるんですが、
その歌唱力は、とんでもない高さですね。
少女時代の美空ひばりが、
大人顔負けの表現力と、リズムのノリに天才ぶりを発揮していたのに対し、
沢村みつ子は、音程の確かさ、ディクションの良さなど、
音感にバツグンの能力を発揮していたことがよくわかります。

先輩の雪村いづみや江利チエミが歌った「ウシュカ・ダラ」は、その白眉。
1番をトルコ語の原詞で歌っているんですが、
チエミが歌った「ウスクダラ」のカタカナ発音とは大違いの堂の入った歌唱で、
美空ひばりが歌った英語・日本語交じりの「上海」に匹敵するスゴさです。

沢村は42年12月に大阪に生まれたあと、すぐに沖縄へ引っ越し、
48年の夏から母とともに、米軍キャンプの専属歌手となって将校クラブで歌い、
53年に日本コロムビア沖縄代表となったという経歴の持ち主。
幼い頃に英語をおぼえ、外国語の発音を習得する耳の良さがあったんでしょうね。

53年の8月には東京へ進出して日劇へ初出演し、
翌年54年の6月には渡米してMGMと契約、
ミュージカル『ラスヴェガスで逢いましょう』でフランキー・レインと共演し、
「ジュディ・ガーランド・ショー」にも出演するという、まさに破竹の勢いでした。

「沙漠の踊り子」「ジェシー・ジェームス」「パパはマンボがお好き」といった、
国際色豊かな当時の洋楽ヒット曲のカヴァーも楽しいんですけれど
(なんと「スコキアン」も歌っています!)、
ぼくが惹かれたのは、55年録音の「あの子南の島娘」「なはの踊り子」の2曲。
沖縄代表で東京に進出した沢村にとって、故郷に錦を飾った曲といえるご当地ソングで、
そのオリエンタルなメロディは、細野晴臣の『泰安洋行』ファンならシビレもの。

誰の作曲かと思いきや、なんと2曲とも服部良一。
うわー、さすがだねえ。このキャッチーなメロは、たしかに服部良一です。
ほかにも服部良一が作った曲は、これまで未発表だったという「テキサスのバンジョ弾き」
「ネェ、ネェ、ネェ」「東京ハイティーン」の3曲が収録されていて、
これまた聴きものとなっています。

デビュー当初の沢村の姿は、映画でも観ることができるのだとか。
日劇ダンシングチームの谷さゆりとのダブル主演で抜擢された
『ジャズ・スタア誕生』(東宝 監督:西村元男)は、54年1月21日に公開され、
沢村はクライマックスで主題歌の「星空を仰いで」を堂々と歌っているとのこと。
この映画には、南里文雄とホット・ペッパーズ、多忠修とビクター・オールスターズ、
ジョージ川口とビッグ・フォア、東京キューバン・ボーイズのほか、
日劇のトップシンガーだった柳澤真一やフランキー堺まで登場するという、
当時のジャズ・ブームを反映した豪華絢爛なもの。

54年1月公開といえば、雪村いづみが主演した『娘十六ジャズ祭り』(新東宝)と
同じ月じゃないですか。『娘十六ジャズ祭り』はDVDで持っていますけど、
『ジャズ・スタア誕生』はいまだDVDにはなっておらず、いや~、観てみたいですねえ。

沢村みつ子 「沢村みつ子 スーパー・ベスト」 日本コロムビア FJSP415
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ノスタルジックなビルマ歌謡リヴァイヴァル サンダヤー・ミョーナイン [東南アジア]

Sandayar Myoe Naing  WIN OO.jpg

俳優・監督・脚本・作家・歌手と多方面に才覚を発揮した、
ミャンマー芸能史に残る大物ウィンウー往年の録音が、
ここ最近まとまって復刻されましたけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-02-29
今度は新たにピアニストのサンダヤー・ミョーナインによる
ウィンウー没後31周年を記念した名曲集が出ました。

いやぁ、これはいいなあ。
ノスタルジックなサウンドづくりが、ツボにはまった傑作じゃないですか。
ラウンジー・タッチのピアノにのせて歌う、ソフトな歌い口がドリーミーで、
ビルマ時代の60年代歌謡のニュアンスを見事にトレースしています。
ミョーナインの甘い歌い口も、ベタつかずさっぱりとした後味で、
さわやかなロマンティックさを味あわせてくれます。

ジャズ・ソングをモダン化して、当時流行のラテン・タッチも加えた歌謡曲の数々。
サウンドは洋楽センスでも、メロディにはミャンマーらしさがたっぷりで、
後年のミャンマータンズィンの萌芽を感じさせる、
伝統メロディと西洋メロディの接ぎ木形式の曲では、
両者のコントラストを後年ほど強調していないので、とても自然に聞くことができます。

ピアノ、ギター、ベース、シンセサイザーによる小編成の演奏もエレガントで、
懐かしのメロディを見事に輝かせています。
ギターが、エイモス・ギャレットの星屑ギターを思わすトーンでプレイするところなど、
ゾクゾクしてしまいました。
アクースティック・ギターの短いソロ・ワークなんかも、エイモスとよく似てるなあ。

70年代にマリア・マルダーやジェフ・マルダーなど、ウッドストック周辺の音楽家たちが、
グッド・タイム・ミュージックを追及していたサウンドとオーヴァーラップして、
その現代的に演出されたノスタルジック・サウンドは、ひときわ魅力的に響きます。

Sandayar Myoe Naing "WIN OO 31TH NHAIT PYAE ALWAM" M United Enertainment no number (2019)
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カーボ・ヴェルディアン・ギターの饗宴 バウ&ヴォギーニャ [西アフリカ]

Bau & Voginha  ANTHOLOGIA ACÚSTICA.jpg

バウとヴォギーニャ、カーボ・ヴェルデを代表する名ギタリスト両名の共演作。
15年に出ていたとは知りませんでした。

二人がソロ作を出すルサフリカやセルロイドなら、国際的なマーケットにのるけど、
カーボ・ヴェルデのレーベルじゃあ、情報すら入ってこない視界不良状態ですよぉ。
しかもこれは第2作で、二人は07年に本作と同じボア・ムジカから、
“RELEMBRANDO OS MESTRES” を出しているそう。
そんなの、誰も知らないって!

愚痴はこのくらいにして、あらためて二人のご紹介。
バウは62年生まれ、ヴォギーニャは61年生まれと、同世代のギタリスト同士。
セザリア・エヴォーラのプロデューサー、ジョゼ・ダ・シルヴァにリクルートされ、
セザリアのツアー・バンドとして結成されたミンデル・バンドで、一緒に活動した間柄です。

Mindel Band.jpg

セザリアが世界的な成功を収めた
91年作“MAR AZUL” のバックを務めたのがミンデル・バンドで、
のちにバウは、セザリアの音楽監督を務めることになります。
ミンデル・バンド単独でも、94年にインストルメンタル・アルバムを残していて、
ジャケットの一番左でバウがカヴァキーニョを弾いていて、
ヴォギーニャが中央でギターを弾いている姿が飾られています。

本作は、二人がカーボ・ヴェルデ音楽の先駆者といえる
ルイス・レンダール(1898-1986)までさかのぼり、すでに故人となった
カーボ・ヴェルデの名ギタリストたちの未発表を含む作品を取り上げ、
カーボ・ヴェルデ音楽の偉大な遺産に光を当てたアルバムなのですね。

1曲目はそのルイス・レンダール作の‘Fox Memória D'Taninho’ で、
古風なフォックス・トロットのメロディが、なんとも優美ですねえ。
今回初めてルイス・レンダールの名を知ったのですが、
なんと38年にミンデーロで録音を残しているんだそうです。
ひょっとしてそれ、カーボ・ヴェルデ音楽最古の録音なんじゃないですかね。
ルイス・レンダールの曲は、もう1曲‘Zenaida’ が取り上げられています。

そのルイス・レンダールにヴォギーニャは、ギターを習ったこともあるそうですが、
ヴォギーニャの父親のタジーニョもまた、カーボ・ヴェルデ音楽の名ギタリストの一人で、
ルイス・レンダールの直弟子だった人。
そのタジーニョ作の‘Ernestina’ も演奏されています。

Tazinho.jpg

タジーニョは、60年に船員としてオランダへ渡り、65年にロッテルダムにて設立された
初のカーボ・ヴェルデ音楽レーベル、モラベーザに初アルバムを残しています。
タジーニョが69年に出した“Sucessos Tazinho” から11曲を収録したCDが
最近出たんですけれど、65年オランダ録音を匂わすタイトルは偽りありですね。
このCDには、より後年の録音と思われる2曲も収録されていますが、
トラック・リストに記載がないなど、盤起こしの音質とも仕事ぶりは、難あり。

話が横道にそれてしまいましたが、
このほか巨匠B・レザの曲や二人のオリジナルなど、モルナを中心とする全15曲を、
伴奏者なしの完全なるギター・デュオで演奏したアルバム。
カーボ・ヴェルディアン・ギターのアート・フォームを、くっきりと示した会心作です。

Bau & Voginha "ANTHOLOGIA ACÚSTICA" Boa Música BM012015 (2015)
Mindel Band "MINDELO" Sonovox 11.147-2 (1994)
Tazinho "TAZINHO IN HOLAND 1965" no label no number
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アダルト・オリエンテッドなカーボ・ヴェルデ・ポップの逸品 ミリ・ロボ [西アフリカ]

Mirri Lobo  SALGADIM.jpg   Miri Lobo  PARANOIA.jpg

ミリ・ロボ?
うわぁ、なんて懐かしい名前。ずいぶん聴いていなかったなあ。
92年に出した3作目の“PARANOIA” 以来だから、四半世紀を越すご無沙汰。
どうしていたのかと思っていたら、98年にオス・モバフコというグループの
録音に参加したのを最後に音楽活動から離れ、
故郷のサル島でサラリーマン生活を送ったあと、
農業生産会社とレストランを経営していたのだそう。

10年以上ぶりで音楽活動を再開し、“PARANOIA” 以来のソロ作、
“CALDERA PRETA” を2010年に発表したところ、
カーボ・ヴェルデの5つの音楽賞の4部門で受賞するという大成功を収めたそうです。
そのアルバムは未聴なんですけれど、
本作はその成功後に出した5作目となるわけですね。

いやぁ、円熟しましたねえ。
枯れたところなど微塵もない、艶もハリもある声で、
マイルドな歌い口にはたっぷりとコクが湛えられ、聴き入ってしまいます。
ソダーデ溢れるモルナ‘Mas Um Amor’ のトロける甘さなんて、悶絶もの。
ミュート・トランペットやクラベスが、
センティミエントなボレーロをも想わせるじゃないですか。
ジャケットに写るミリ・ロボの風貌も、92年の“PARANOIA” とは一変、
髪も髭も白くなっていますけれど、年輪を重ね、ますますいい歌い手になりましたね。

若い頃のミリ・ロボは、ラジオの影響からアメリカやブラジルの音楽が大好きで、
10歳の時に初めて歌ったのがマイケル・ジャクソンの‘Maria’ なら、
初めてステージで歌ったのは、なんとブラジルの名サンバ・カンソーン歌手、
ネルソン・ゴンサルヴィスの代表曲‘A Volta do Boêmio’ だったといいます。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2013-10-17

のちにプライアで兵役に就いていた時期に、
モルナやコラデイラなどのカーボ・ヴェルデの音楽に興味を持ち、
退役後に故郷のサウ島に帰って、本格的にカーボ・ヴェルデの音楽を
歌うようになったミリ・ロボですけれど、少年時代にアメリカのポップ・ソングや、
ブラジルのサンバ・カンソーンから吸収したセンスが、肥やしになったんじゃないかなあ。

本作の音楽監督は、これまたキム・アルヴェス。
キムはピアノ、アコーディオン、ヴァイオリン、ギター、ベース、
カヴァキーニョ、パーカッション、コーラスと八面六臂の活躍ぶり。
先行シングルで出たキム・アルヴェス作のフナナー‘Ta Da Ta Da’ も収録されています。
ミリ・ロボ自身の自主レーベルから出た作品ですけれど、
プロダクションは豪華で、インディの弱みなし。
カーボ・ヴェルデのヴェテランのアダルトな魅力に酔える逸品です。

Mirri Lobo "SALGADIM" Mirri Lobo no number (2018)
Mirri Lobo "PARANOIA" Mendes Brothers MB001 (1992)
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カーボ・ヴェルデの伝統ポップ・シンガー・ソングライター ネ・ナス [西アフリカ]

Ne Nas  BALANCIADU.jpg

ネ・ナスことマヌエル・ゴンサルヴェスは、
フェロー・ガイタに曲提供をしたこともあるシンガー・ソングライター。
本作は45歳になってようやく出した、遅すぎたデビュー作です。

ネ・ナスは、フォゴ島の生まれ、サンティアゴ島育ち。
フナナー、タバンカ、バトゥク、コラデイラが自分のルーツと言います。
02年にアメリカへ渡り、ロード・アイランドのカーボ・ヴェルデ人コミュニティで
演奏活動をしていて、本作のレコーディングもポータケットで行われています。

クレジットを眺めると、ギターのキム・アルヴェスが2曲で参加しているのが
目を引きますけれど、本作のキー・パーソンはベースのジム・ジョブの方。
ベースのほか、キーボード、ギター、パーカッションを演奏し、
プロデュース、ミックスも担っています。

エレクトリック・ギターを使ってロック色を出したり、爽やかな女性コーラスに
サックスやフルートをフィーチャーして、スムースなサウンドを演出するなど、
曲のカラーに応じたコンテンポラリーなアレンジを施しています。
コラデイラ、バトゥク、フナナーなどのリズムを巧みに溶かし込んだサウンドの
耳ざわりのよさは、職人芸ですね。
知らずに聞けば、上質のAORにも思える、
オーガニック・テイストのアクースティック・サウンドですけれど、その底流には、
しっかりとカーボ・ヴェルデのアフロ系リズムが生かされているもんね。

ネ・ナスの男っぷりのいい歌いぶりは、色気も十分。
さりげなく早口ヴォーカルを聞かせたり、アフロ色濃いエネルギッシュな歌いぶりから
メロウな歌い口まで、さまざまな表情を見せていて、魅力に溢れています。

Ne Nas "BALANCIADU" Ne Nas Musik & Orkka International no number (2017)
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フナナーいろいろ シャンド・グラシオーザ、フェロー・ガイタ [西アフリカ]

Chando Graciosa  KONSÊDJU.jpg

フェロー・ガイタを結成し、伝統フナナーを再興したシャンド・グラシオーザについて、
以前ここで記事にしましたが、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-02-27
そのシャンドが11年に出していたゴスペル・アルバムを見つけました。

コンテンポラリーなアフロ・ポップといった仕上がりで、
女性コーラスを従えて、しゃがれたシャンドのヴォーカルがいい味わいを出しています。
ゴスペルとは意外でしたけれど、シンガーとしてのシャンドの魅力を
全面に打ち出した好作品で、あらためていいシンガーだなあと、感じ入っちゃいました。
ポップ曲の合間に、アコーディオンをフィーチャーしたポップ・フナナーを
さりげなく差し挟むところは、さすがシャンドですね。

カーボ・ヴェルデ系オランダ人ピアニストのカルロス・マトスのプロデュース、アレンジで、
マトスのレーベルからリリースされたています。
マトスのジャジーなタッチの流麗なピアノや、
女性コーラスなどの洗練されたアレンジのなか、
アコーディオンやフェローが刻むフナナーやバトゥクのリズムを忍ばせた曲が、
フックとなっていますね。
マトスは、ルイス・モライス、ナンシー・ヴィエイラ、ボーイ・ジェー・メンデス、
サラ・タヴァレス、ディナ・メディスなど、数多くのカーボ・ヴェルデのミュージシャンとの
共演歴があり、スリナムのフラフラ・サウンドとも演奏しているのは、
旧オランダ領のコネクションなのでしょう。

Ferro Gaita  KUDO MUNDO.jpg

そのシャンドが結成した、フェロー・ガイタの13年作も一緒に入手しました。
6人のメンバーは全員若く、もう初代から残っている人はいませんけれど、
音楽性は結成当初から変わることなく、
アコーディオン(ガイタ)と金属製ギロ(フェロー)をメインに、
メンバー交替によって新陳代謝を高め、伝統フナナーの鮮度を保っています。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-02-25

6人の若いガイタ・フェローのメンバーがコーラスに回り、
シンガーをフィーチャリングするといったフォーマットで、
ヴェテランらしき老練な歌い手の味わい深い歌唱が、
ピチピチした若々しいサウンドと絶妙なコントラストを描いています。

ビトーリとシャンド・グラシオーザの共作‘Rabelado’ では、
ビーニョというヴォーカリストがコクのあるノドを聞かせていて、なかなかの聴きもの。
この原曲はビトーリとシャンド・グラシオーザ名義の
CDS・ミュージック・センター盤に収録され、
ビトーリ名義のアナログ・アフリカ盤でも聴くことができます。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-10-21

なお、このCDには全曲のMVを収録したDVDも付いていて、
カーボ・ヴェルデのさまざまな風景とともに、イキのいいフナナーやタバンカを楽しめます。

Chando Graciosa "KONSÊDJU" Matosmusic no number (2011)
[CD+DVD] Ferro Gaita "KUDO MUNDO" Ferro Gaita Produções no number (2013)

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自由にはばたけ 松丸契 [日本]

松丸契  NOTHING UNSPOKEN YNDER THE SUN.jpg

石若駿が昨年結成した新グループ、SMTKのアルバムを聴いて、
強烈に耳残りしたのがサックスのプレイでした。
石若がフック・アップした、松丸契という新人だと教えられ、
スゴイ人が出てきたなとは思っていましたけれど、
初リーダー作を聴いて、こりゃとんでもない逸材だと衝撃を受けました。

いきなり冒頭からマルチフォニックをかまして、リスナーを驚かせるんですけれど、
こういう若々しい気負いが、めちゃ好感持てるじゃなですか。
空気読んでばかりの大人しい若者がやたらと目についたひと昔と違って、
ここ数年、気骨を感じさせる若者がすごく増えてきたように思えて、
おとうさんは嬉しいよ。子世代に追い越される喜びは、
子育てを終えた親世代だからこそ持てる心持ちでありますね。

フリーに寄せるインプロもやれば、音響的なアプローチも聞かせる一方で、
美しく作曲されたメロディを色彩感のあるトーンで紡ぎもする。
いわゆる○○派だとか××系に属することを良しとしないというか、
どこにも属さない自由なポジションを獲得している強さが、
旧世代にないヴァーサタイルな新世代の開かれた魅力ですね。

バックは、松丸を見出した石若駿が07年以来活動してきたレギュラー・グループのBOYS。
ベースの金澤英明にピアノの石井彰の二人は、
日野皓正を長年支えてきたヴェテラン・プレイヤーで、
新旧世代の4人が組み合わさったことで、互いに触発し合う空間が生まれ、
刺激的なアイディアが散りばめられています。

いまや長老といった風格さえある金澤は、安定感あるプレイばかりでなく、
スピリチュアルなオリジナル曲を提供しているところも聴きどころ。
その曲「暮色の宴」は、ダウンロード・アルバム未収録で、
CDのみの収録ですけれど、こういうタイプの曲があることが、
アルバムに奥行きを生み出していますね。

コンテンポラリー、フリー、アヴァン、どこにも属さず、
いまのまま自由にはばたいて、才能をどんどん広げていってほしい、
期待の若手です。

松丸契 「NOTHING UNSPOKEN UNDER THE SUN」 Somethin’ Cool R2000191SO (2020)
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ンゴマのEPいろいろ [中部アフリカ]

Manu Dibango 74.jpg

[EP] Manu Dibango et Son African Soul Quintet "Coco / Ahi Pachanga / Tu No Me Quieres / Amor Ymas Amor" Ngoma 74 (1962)

毎年恒例の『レコード・コレクターズ』のお正月企画「私の収穫」に、
今年は、若き日のマヌ・ディバンゴのンゴマ盤EPをお披露目しました。
その時ふと思い立ち、ンゴマのEPを整理してみたら、
けっこういろいろ持っていたので、この機会にこちらでも公開しておこうかなと。

コンゴのポピュラー音楽揺籃期といえる50年代を通して、
2200枚以上のSPを発売したンゴマは、
スタジオと専属のハウス・バンドを持つ、コンゴを代表するレコード会社でした。
しかし、60年の独立直後に始まったコンゴ動乱の政情不安と経済危機によって、
スタジオを閉鎖せざるを得なくなり、ンゴマはコンゴからの撤退を余儀なくされます。
フランスに拠点を移したンゴマが、ビジネスを続けるなかで、
60年代にスタートさせたのが、EP盤のリリースだったのです。

‘Série des nouveautés’(Ngoma No.1-84) のシリーズは、
60年から63年にSPと同時発売されたカタログでした。
61年からは、‘Série succèes africains’のシリーズで JDN の番号のEPが出され、
また、50年代のSPカタログをEPで再発する‘Série des grands succès’
(Ngoma No.1001-1054)のシリーズも始まります。

昨年亡くなられたアフリカ音楽研究家フレミング・ハレヴさんのサイト
afrodisc.com にも、ンゴマのEPのジャケット画像を掲載しているページがあるので、
興味のある方はそちらもご覧ください。

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[EP] Desholey, Roger Salmon et le Dynamic Jazz "Dynamic Jazz Ya Sentiment / Rumbita Dynamic Jazz / Amia More Bonita / Ebuka-Buka Dynamic" Ngoma 1005 (1958)
[EP] Mundanda Antoine et son groupe de Likembe Géants "Mama Wele / Baleli Balembi / Bandmi Kongo / Tala Alusambu" Ngoma 1007 (1959)
[EP] San Salvador et l’orchestre Beguen Band "Tuwayilanga Kimpwanza / Dina Diavanga Mbingu /
Libala Ya Pembeni / Muana Yango" Ngoma 9 (1960)
[EP] Onema Pascal, Gérard Rossignol et Ilunga Raphaël avec l’orchestre Jecokat "Makambo Ya Mwasi Oyo / Ami Pauvre Vida / Christiana Moke / Yokero Kero Panta" Ngoma 21 (1960)
[EP] Phil-Philo et I’orchestre Viviane-Mambo "Viviane-Mambo / Marie Yo Nde Boye? / Mario Baila El Merengue / Ay’ Dodet Limbisa Ngai" Ngoma 1009 (1959)
[EP] Orchestre Afro-Succès de Libreville "Libreville / Espoir" Ngoma J5129
[EP] Cobra et Juliot avec l’orchestre Jazz Mango "Nzungu Ya Kala Babwakaka Te / Ya Ngai Na Mado / Kukulu Merengue / Nakolina Mpasi" Ngoma 29 (1961)
[EP] Bovyn & Chamy / Chamy & Pachanga et l’orchestre Negro Congo "Nuevo Rythme / Chérie Moinque / Kukulu Merengue / Nakolina Mpasi" Ngoma 79
[EP] Rochereau et l’orchestre African Fiesta National "Mocrano / Toyota" Ngoma J5139
[EP] Docteur Nico et l’orchestre African Fiesta "Semeki Etali Yo Te / Olga" Ngoma DNJ5219
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南ア+ドイツ産ネオ・ソウル・ユニット セバ・カープスタッド [南部アフリカ]

Seba Kaapstad  KONKE.jpg

まるで、ムーンチャイルド。
うわぁ、南アからもこういう音楽が出てくるようになったのね。
な~んてキモチいい、たゆたうサウンド。いっぺんでトリコになりました。

セバ・カープスタッドは、南アとエスワティニ出身の男女ジャズ・ヴォーカリストに、
ドイツ人2人によるユニット。両国を行き来しながら、活動をしているそう。
ネオ・ソウル、ヒップ・ホップ、ジャズが結びついた音楽性は、
冒頭でムーンチャイルドを引いたとおりです。

ダーバン出身の女性ヴォーカリスト、ゾー・マディガは、
大ヴェテランのルイス・モホロから、ベンジャミン・ジェフタやタンディ・ントゥリなどの
新世代ジャズの俊英たちと共演歴を持つ実力派。
といっても、その歌声はジャズを意識させるより、
ジル・スコットやエリカ・バドゥの系譜をうかがわせる、
ヒップ・ホップ色濃いスタイルですね。
一方、エスワティニ出身のンドゥミソ・マナナは、中性的なイメージの強いソフトな声で、
フランク・オーシャンあたりと親和性のあるシンガーです。

セバスチャン・シュスターの弾く鍵盤に、
フィリップ・シェイベルのドラムスとプログラミングが、
二人のヴォーカリストをミニマルでエレクトロニックなグルーヴで包み込み、
メランコリックで浮遊感たっぷりなサウンド・スケープを描いていきます。
洗練されたアーバン・コンテンポラリー・サウンドに、南ア色は皆無と思いきや、
途中、アフリカ的なリズムが背景に滑り込み、
遠景でズールー語でチャントするのが聞こえてくる‘Magic’ や、
南アらしいメロディをピアノが紡ぐ‘Home’ があるなど、
南ア音楽ファンの頬をゆるませる場面もあって、ほっこりさせられます。

Seba Kaapstad "KONKE" Mello Music Group MMG00154-2 (2021)
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マルチニークのクレオール・ミュージックを更新し続けるマラヴォワ [カリブ海]

Malavoi  MASIBOL.jpg

ソロ・シンガーとして独立したラルフ・タマールがカムバックして
マラヴォワが完全復活した09年の“PÈP LA” から11年。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2009-11-25
その後、40周年記念ライヴや、大勢のゲスト歌手を囲んだ
“MATEBIS” の続編的アルバムもありましたけれど、
ずっと待ち望んでいたのは、こういうオリジナル・アルバムだったんですよ。

昨年12月4日に発売された新作は、ゲスト歌手なしで、
フロントを務めるのは、看板歌手ラルフ・タマールただひとり。
“PÈP LA” 以来のマラヴォワ新体制の布陣に代わりなく、
バンマスのパーカッション兼ヴィブラフォン奏者ニコル・ベルナール以下、
マラヴォワ流ビギン・サウンドを引き継ぐメンバーがずらり。
少し変わったのは、ストリングス・セクションに女性メンバーが増えたくらいのもの。

新作のタイトルは、クレオール語で「強い女性」を意味していて、
強い気質を持ち誇り高く生きる女性へ、敬意を表しています。
1870年のマルチニーク反乱のヒロイン、ルミナ・ソフィーや、
グアドループで奴隷制に抵抗したラ・ミュラトレス・ソリチュードなどの歴史上の人物から、
脱植民地化の詩人エメ・セゼ-ルの妻で作家のシュザンヌ・セゼールほか、
99歳で初アルバムを出した伝説の女性歌手ジェニー・アルファや、
マラヴォワと縁の深かった歌姫エディット・レフェールなど、
8人の女性の写真がライナーに飾られています。

レパートリーの大部分は、リーダー、ニコル・ベルナールのオリジナル作。
オープニングに元リーダーのポロ・ロジーヌ作‘Loup Garou’ のほか、
マルチニーク民俗楽団を率いたルル・ボワラヴィルの‘L'enfant Roi’ を
取り上げています。

今回注目に値するのはアレンジャーで、ニコルの兄でベルナール兄弟グループ、
ファル・フレットのリーダーのピアニスト、ジャッキー・ベルナールが5曲で
アレンジを手がけたほか、ジャッキーのオリジナル曲も1曲取り上げています。

このほか、ピアニスト、ホセ・プリヴァのインスト・オリジナル曲では、
新進ジャズ・ピアニストとして注目を集めるホセの息子グレゴリー・プリヴァが
映画音楽的なオーケストレーションのアレンジを施しているほか、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-01-22
弦楽セクションのハーモニーとヴォブラフォンとピアノを多層的に動かしていく、
‘Bwavè’ のハイブリッドなアレンジに驚いたら、
なんと三宅純が起用されていて、ドギモを抜かれました。

う~ん、もう大満足であります。ポロ・ロジーヌの遺志を継いで、
マルチニークが産み落としたクレオール・ミュージックを前進させ、
更新し続けていることに、目頭が熱くなります。

Malavoi "MASIBOL" Aztec Musique CM2716 (2020)
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アンダーグラウンドR&Bのイノヴェイター カイヤエイ [北アメリカ]

KeiyaA  Forever, Ya Girl.jpg

カイヤエイ? ケイヤエイ?
どう発音するのかわからないんですが、スゴい才能が登場しましたね。
バンドキャンプで残りわずか2枚になっていた限定CDを、
ギリで入手できたんですが、R&Bのシンガー・ソングライターという紹介では、
到底説明しきれない、サウンド・クリエイターぶりに驚かされました。

93年シカゴ生まれ、ニュー・ヨークのブルックリンで活動するカイヤエイこと
チャケイヤ・リッチモンドは、R&B、ヒップ・ホップ、ネオ・ソウル、ジャズ、
エレクトロ、アンビエント、ビート・ミュージックをブレンドした音楽性で、
ジェイムズ・ブレイク以降の内省的な、靄に覆われたサウンドスケープを描きます。

デビュー作となる本作は、すべて彼女がトラックメイクしていて、
ほんの数人の手を借りたほか、彼女一人の孤独な作業によって制作されたそうです。
ローファイなテクスチャにアンダーグラウンドなイメージを持つものの、
インディ・ロックのスピリットをR&Bに宿した革新性があります。

サンプラーから生み出されるループを特徴とした彼女のソングライティングは、
意外にもアフリカン・マナーであるのと同時に、ジャズの即興性も強く感じさせます。
シカゴ時代にサックスを吹いていたそうなので、ジャズの素養があるんじゃないかな。
一方、キャッチーなパンチ・ラインを持つ‘Every Nigga Is A Star’ では、
巧みなラップを披露するし、プリンスの‘Do Yourself A Favor’ は、
曲をいったんバラバラに解体して再構築したカヴァーとなっていて、その手腕は見事です。

カイヤエイは、黒人女性の愛や喪失、解放について、
個人的な日記を語るように歌い、黒人コミュニティにフィードバックしては、
抑圧的な社会と対峙する姿勢を示しています。
ニーナ・シモンに、オーネット・コールマンの元夫人の詩人ジェイン・コルテスや、
黒人フェミニストとして知られる劇作家で詩人のヌトザケ・シャンゲの朗読・
インタヴューをサンプリングしているのも、そんな彼女の意図のあらわれでしょう。

BLMが大きなうねりとなった2020年に出るべくして出た作品、
ダイヤモンドの原石を思わすアンダーグラウンドR&B新人のデビュー作、
革新的な傑作です。

KeiyaA "FOREVER, YA GIRL" Quik Language QL001 (2020)
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シカゴAACMジャズの伝統を移植したイタリアン・カルテット ルーツ・マジック [南ヨーロッパ]

Roots Magic  TAKE ROOT AMONG THE STARS.jpg

なんじゃ、このレパートリー !?
オーネット・コールマン、サン・ラ、フィル・コーラン、チャールズ・タイラー、
カラパルーシャ・モーリス・マッキンタイヤというフリー/アヴァン・ジャズに、
チャーリー・パットン、スキップ・ジェイムズというデルタ・ブルースの取り合わせ。
これが3作目という、ルーツ・マジックなるイタリアはローマの2管カルテット。
60~70年代フリー・ジャズと20~30年代ブルースの組み合わせは、
13年結成時からのコンセプトなんだそう。

面白いねえ。ビバップをすっ飛ばす知性は慧眼で、まさにグループ名を体現しています。
アフリカン・アメリカンの遺産を、もっとも自由で即興的なジャズで再解釈して、
独自の音響とサウンドスケープを生み出そうという試み。
豊かなインスピレーションと創造的なアイディアが、満ち溢れていますよ。

サックスとクラリネットがエキゾティックなテーマをゆるやかにつむぐ、
オープニングのフィル・コーランの‘Frankiphone Blues’ では、
ゲストのヴィブラフォンとベースがハーモニーをかたどり、
ゲストのフルートがアブストラクトなインプロヴィゼーションを披露しながらも、
そのサウンドには、かなり精巧に仕上げた構成が聴き取れます。

一方で、フリー・ジャズのエネルギーを噴出するカラパルーシャの
‘Humility In The Light Of The Creator’ や、
オーネットの‘ A Girl Named Rainbow’ では、
即興演奏家としての確かな実力を聞かせてくれ、
多層的なリズム構成を柔軟に演奏しているところなど、目を見張ります。

原曲の跡形もないスキップ・ジェイムズの‘Devil Got My Woman’ では、
ベースの反復フレーズにのせて、サックスが奔放に踊り、
一転して二管が後景に引くと、ドラムスがパーカッション的なプレイで、
リズムをリードしていく趣向が面白い。

チャーリー・パットンの‘Mean Black Cat Blues’ は、
クラリネットが原曲のメロディを狂おしく吹き、サックスが激しく咆哮するバックで、
ドラマーがタム回しをする、循環的なリズム・フィギュアを採用するのは、
‘Devil Got My Woman’ と同じ彼ら流のブルース解釈のようです。

ラスト・トラックの‘Karen On A Monday’ では、さまざまな楽器が漂流して、
混沌とした世界を提示していて、聴後の満足感を高めます。
う~ん、スゴイな、このグループ。
シカゴAACMジャズの伝統が、イタリア人カルテットに乗り移るとは。
こりゃあ、1・2作目も聴いてみないわけにはいきませんね。

Roots Magic "TAKE ROOT AMONG THE STARS" Clean Feed CF545CD (2020)
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ブラジル色を初めて打ち出したルデーリ [ブラジル]

Ludere Baden Inedito.jpg

う~ん、結局なんだかんだ、よく聴いているんだから、
やっぱり書き残しておこうかなあと、重い腰を上げたルデーリの新作です。
最初聴いた時は、かなりガッカリしたんですよねえ。
ヌルすぎるだろう、これじゃあと。

新作は、ピアニストのフィリップ・バーデン・パウエルの御父上である
バーデン・パウエルの未発表曲集なんですが、う~~~~ん。
マテリアルがぼくの期待とは違っちゃった、というところですかねえ。
ぼくがルデーリを高く評価しているのは、
変拍子でがんがんに攻めてるコンテンポラリー・ジャズのグループとしてなので、
ブラジル色の出た歌ものというのは、まったく方向性が違うんだよなあ。

ダニエル・ジ・パウラの現代ジャズ的な訛りのあるリズム・フィールを
堪能できるドラミングや、鋭角的に切り込んでくるルビーニョ・アントゥネスの
シャープなトランペットが絡むスリリングな展開に、最大の魅力をおぼえていたので、
今作の耳馴染みの良いサウンドは、ヌルいんですよ、ぼくには。
これじゃまるでフュージョンじゃん、てね。

実は前作のライヴを聴いた時にも、エッジの立った部分が見えずらくなっていたので、
少し危惧していたんですけど、ヤな予感が当たってしまった感じ。
やっぱりさあ、デビュー作の尖り具合は今聴き返しても、魅力だよねえ。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2017-09-24
フィリップ・バーデン・パウエルが抜けた裏ルデーリともいえる、
ルビーニョ・アントゥネスのソロ・アルバムでも、攻めまくってたもんなあ。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-09-13

結局、今回のルデーリの新作は、フィリップ・バーデン・パウエルの個性が
前に出たアルバムということなんでしょうね。フィリップのソロ・アルバムは、
かなりボサ・ノーヴァ色のあるものでしたからね。

まあ、そう思い直して聴けば、これはこれで、すごく心地いいアルバムなわけです。
なんたって、1曲目からぼくの大好きなヴァネッサ・モレーノが
麗しい歌声をきかせてくれるんですから。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2017-11-13
攻めたドラミングは聴けないとはいえ、ダニエル・ジ・パウラのドラミングは、
グルーヴ感満載だし。

前半は、フィリップ・バーデン・パウエルのエレピに、
アジムスか?みたいに思えたりもするんですけれど、
ラスト・トラックのガブリエル・グロッシのハーモニカが参戦して、
ハードなプレイを聞けるプログレッシヴ・ショーロが、救いかな。

次作はぜひ、デビュー当初のような尖ったオリジナル曲を揃えて、
新規巻き返しを期待したいところです。
ピアニスト替えても、いいかもよ。

Ludere "BADEN INÉDITO" no label no number (2020)
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ニッポンを押し出した和製ポップス 米津玄師 [日本]

米津玄師 Stray Sheep.jpg

米津玄師の『STRAY SHEEP』を、2020年のベスト・アルバムに選んでおきながら、
記事にしていなかったんだっけ?
あれれ、これはウカツだったなあ。
去年は、藤井風の無頼な歌いっぷりの生々しさにヤラれていたところに、
続いて、やるせない感情をさまざまな物語にのせてぶつけてくる、
米津の歌いぶりに、もう完全にノック・アウト。

普段歌詞などまったく頓着しないのに、
この二人の歌詞には、刺さること、刺さること。
人間の弱さや、男のだらしなさを露にした、
無頼漢のストーリーテラーぶりに、ココロ射抜かれました。

米津の場合は、その音楽性の豊かさにも圧倒されましたよ。
ぼくがロックやポップス全般に疎いからなのかもしれないけれど、
下敷きにしている音楽や、参照している音楽が、ぜんぜんわからないんだもの。
個々の楽曲の完成度とともに、そのオリジナルな表現力にうならされます。

曲作りも凝っていて、ヨナ抜き音階を意図的に使ったパートでは、
歌詞に古語のような古めかしい言葉遣いを選び、
日本情緒を押し出しているところに、感心させられました。
かつて小泉文夫が歌謡曲や和製ポップスのなかにも、
ヨナ抜き音階が使われていることを指摘しましたけれど、
米津は、そうした無意識下の日本人のテイストに訴えかけるのでなく、
「日本」をあえてわかるように強調しているんですね。

ヨナ抜き音階を使ったパートで、三味線や笛をフィーチャーしてみたり、
米津自身もこぶしを回しながら歌ったりしていて、
日本音楽の特徴を際立たせることによって、
和製ポップスに「ニッポン」を落とし込む新しい表現を生み出しています。

このほか、石若駿を起用した曲では、ジャズの快楽もたっぷり味わえるなど、
その底知れぬ音楽性の豊かさと、ソングライターの才能、
そしてずば抜けた表現力を持つ歌唱と、三拍子揃った大傑作です。

米津玄師 「STRAY SHEEP」 ソニー SECL2598 (2020)
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ガレージ・サウンドに輝くアフリカ女性の未来 スター・フェミニン・バンド [西アフリカ]

Star Feminine Band.jpg

あけましておめでとうございます。

ここ数年来、90年代生まれの音楽家の活躍に、
ワクワク・ドキドキさせられていますけれど、
ついに2000年代生まれから、ノック・アウトをくらう時代がやってきましたよ!

それが、ベニンから登場したスター・フェミニン・バンド。
ガール・バンドがほぼ存在しないアフリカで、
10歳から17歳までの少女7人組のバンドが登場したとは、驚くべきことです。
圧倒的に男性優位のアフリカ社会で、女性は歌手やダンサーになれても、
楽器奏者になるのは、容易なことではありません。
そもそも女性が楽器に触れること自体をタブー視する伝統社会の習わしは、
いまだ根強く残っているからです。

そんな前近代的な価値観を突破して、女性のエンパワーメントを進めるためには、
女性たちが旧来の誤った習慣やメンタリティを身につけてしまう前に
教育訓練をする必要がある。
そんな強い問題意識から、旧来の価値観に染まる前の若い女の子に、
チャンスと可能性を与えようと画策したベニンのミュージシャン、
アンドレ・バラゲモンの努力が、実を結びました。

16年7月、アンドレはベニン北西部アタコラ県の県都ナティティングー市の支援を受け、
地元のラジオ局ナントFMで、少女向けの音楽ワークショップの応募を募ります。
すると、周辺の村から数十人の志願者が青少年センターに集まり、
最終的にワーマ人とナボ人の女の子7人を選んで結成したのが、
スター・フェミニン・バンドです。

アンドレは市から借り受けた博物館の別室で、彼女たちに楽器を教え、
週3回リハーサルを行いました。学校が休みの間は、
月曜から金曜の午前9時から午後5時まで、毎日リハーサルを重ねたそうです。
当初、キーボードやドラム・キットを見たことすらない少女たちは、めきめき上達し、
アンドレが作曲した曲で、自分たちの文化を歌うこと、
自分たち女性が置かれている状況(性器切除の問題など)を歌うこと、
そして、男性たちからの解放と女性自身の可能性を歌うことを学んでいきました。

ヴォランティアでベニンにやってきたフランス人エンジニア、ジェレミー・ヴェルディエが
彼女たちのコンサートを偶然に見たことから、レコーディングへの道が開かれました。
コンサートに感銘を受けたジェレミーは、スペイン人サウンド・エンジニア2人を連れて、
ナティティングーを訪れ、アンドレとともに本デビュー作を制作したのでした。

ハチロクで突進していくグルーヴが凄まじいオープニングの‘Peba’ から、
ハチキレそうな歌とコーラスが胸をすきます。アンドレの解説によれば、
ナボ、プール、ワーマなど、ベニン北部のリズムを使っているのだそう。
ゲストをいっさい招かず、7人だけのレコーディングに徹したことが、尊く思えます。
7人の懸命な演奏が生み出す躍動感の前には、
演奏力の稚拙さといった些細なことなど、吹き飛んでしまいますよ。

学校を諦めさせられ、十代で親から強制的に結婚させられ、早すぎる妊娠によって、
未来への希望を絶たれるアフリカの少女たちを救うために届けられたこの音楽。
胸アツになります。

Star Feminine Band "STAR FEMININE BAND" Born Bad BB128 (2020)
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